第十一話 大福が好きになる
へい、お待ち!
(……というノリで更新するの忘れていたのを誤魔化す)
「フハハハハハッ! 妾はまだ負けてないゾ!」
「あーもうっ! 厄介な耐久力してんじゃないわよ」
「ハーハッハッハ! もうバテたか人間めッ! 英雄など語っておるから来てみればなんてこと……ブヘェ!?」
日の光を反射させる綺麗な白銀の髪、その額からは二本の真っ直ぐな角が生えている褐色肌の鬼子さん。今まさにトファリに殴られ、地面を弾みながら吹っ飛ばされてしまったが……。
おそらくトファリが計算しているから、観客の居る場所に飛んで来る事はない。
「くひ、ひ……良い拳だ人間」
「あんたねぇ……。強がってるけど一発も私に攻撃当てられてないじゃない? ダメージだってそうとう残ってる筈よ、さっさと諦めなさい」
「なんたる侮辱、なんたる屈辱……おのれ人間めェ!」
立ち上がった鬼子さんは怒りを振り撒きながらトファリへと突っ込んで行く。拳を振り上げ、勢いに乗せたままトファリへ向けて放つも寸の所で避けられ、逆に回し蹴りが腹部へモロに入ってまた吹き飛ばされてしまう。
「気絶させた方が早いかしら……でもやっかいな耐久力だから骨折じゃ済まなくなりそうだし~……」
「どうして妾の攻撃が当たらん……人間なんかにぃ~ふぎぃぃィ~」
およそ学生のレベルを越えた二人の戦いに、集まって来た人達は若干引いて、危険と判断した人達から次々と立ち去って行った。他にも鬼子さんが突っ込んでは吹き飛ばされるの繰り返しに飽きて帰って行く人達も見受けられた。
ただよく観察していると、おしい攻撃も増えてはいる。まぁ……それはおそらく、早く終わらせたいトファリと手加減はしたくないトファリとの間で思考がブレブレになっているからだろうけど。
事実上、トファリの完封勝利なのは間違いないバトルになっている。
『決着つかないね~』
「そうだねぇ。俺的には、トファリの拳を生身で受けている鬼の子の頑丈さに称賛だな」
『鬼って事は魔国領の方から来たのかしら? それとも野良鬼?』
「この国は近隣の魔国とは協定を結んでるし、そこから来たんじゃない? 魔国と争ってる人族の国もあるとは聞くけど……」
戦争なんてどこでもやっている。種族ではなく、国もしくは領土で区切られている限りは争いの定めからは逃れられないのかもしれない。
昔は他種族間での争いが多かったとおとぎ話には書いてあったが、今は同じ種族同士での争いが多い気がする。人と人との争いは今も昔も、もしかしたら未来でも変わらないかもしれない。
(戦争の多い国に生まれなかったのは、それだけで幸せなのかもしれないな)
――それからすぐ決着はついた。痺れを切らしたトファリが、魔法で鬼子さんを雁字絡めに動けない様にしてしまった。蔦でグルグル巻きにした後に土で更に固めている。
「ダメージの溜まっている貴女とこれ以上はツマラナイから終わり」
「なんとッ!? こんな魔法切り裂いてくれ……うぬぬぬぬっ」
「指の一本も動かせないでしょ? 上手いコトやらないと強化以外の魔法は自滅するわよ?」
「ぐぬぬ……卑怯だぞ人間!」
「あら? 鬼の世界ではこの程度が卑怯? ならもっと……腕、足、首……体を今ここで引き千切ってあげましょうか? ……ふふふ大丈夫よ、すぐにくっ付けてあげるし」
「ヒィッ……」
「もちろん冗談に決まっているでしょ。でも今日はもう終わりね……良い強さだったわよ」
(――トファリが何か言った途端おとなしくなった?)
遠巻きに見ていると会話までは聞こえないが、どうやら鬼子さんが敗けを認めたらしい。トファリは鬼子さんをそのままに立ち去って行く。
「まさかあのまま放置か?」
敗北した鬼子さんに誰も掛ける声が無いのか、触れず散り散りに此処から離れて行く。友達ならともかく……ただ観戦に来ただけならわざわざ助けには行くまい。魔法を掛けたのが王女トファリというのもあって、勝手なコトをしてはいけないとも思っているのだろう。
(敗者はこうなると周りに晒すトファリ姫……下手するとあいつ、友達の一人も出来ないんじゃ無いか?)
鬼子さんがポツンと一人になる。魔法の拘束もいずれは霧散するのだろうが、トファリの魔法を考えると何時になるか分からない。
これも尻拭い……まぁ、称賛ついでにどうにか助けてあげようかな。
「ぬぅ……解けぬ解けぬ、振りほどけぬ……」
「こんにちは」
「――ッ!? 何だ汝は! 人間メェ……さては妾を嘲りに来たのだなっ!?」
「いや、違う違う。むしろよくトファリ姫とあんなに戦えたもんだと称えに来たんだよ」
「ふんッ! 嫌みか……見よ、この姿を……情けない」
確かに、結果だけを見れば負けなのかもしれない。ただ――。
「まだ死んでないし、勝負を途中で止めたのは向こうだろ? なら、まだ負けてない」
「…………そうだッ! しかも、奴は魔法を使った! 妾は使ってない!」
「そうそう。という事は……むしろ勝ちじゃない?」
「おぉ! 人間、お前は戦いをよく分かっている! ンフー、子分にしてやっても良いくらいだ!」
「むしろ親分で」
「ヌ……うむむ……いや、妾が親分だっ! よし、早くこの拘束を解いてくれ。祝杯を挙げるぞ!」
解いてやりたい気持ちは山々だが、まずカチカチに固い土をどうしようか。殴って壊れそうにも無いし、水魔法は燃費が悪すぎて倒れるし……。
「ポンちゃん、パピー、どうにか出来ない?」
『う~ん……面倒かも!』
『私も細かい作業は苦手よ。シューゴのバリアでどうにかすればいいじゃない』
「まぁ、それが一番早いか」
「な、汝は何と話しておるのだ? 妾の後ろに誰か居るのか?」
バリアを凝固された土の座標に重ねて断つ。俺に出来る手段では手っ取り早くて楽ではあるが、鬼子さんと土ピッタリ過ぎてちょっとばかし集中力が要る。感覚がズレると……鬼子さんまで真っ二つになりかねない。空間魔法的要素の含むバリア……我ながら恐ろしい技だ。
「ちょっと動かないでよ~……セイッ!」
右手を立てて振り下ろす――土を切る動きをしながらバリアを発動させる。大袈裟だが、仰々しくない程度の演出は大事だ。
バリアを挟み込んだ部分からパキパキと音を立てながら土が割れていく。
「おぉ……おォ!! 何が起きたッ!? 分からぬ分からぬ……凄いぞ子分!」
「はははー……子分確定かぁー」
蔦は普通に切れ目を入れて無造作に引き千切った。自由の身を手にした鬼子さんは、無謀にもトファリとの再戦に向かおうと意気込んでいた。流石にそれは止めに入ったけど、血気盛ん過ぎやなしないだろうか鬼族は。
「どうして止めル!」
「そりゃ、止めるって……真っ直ぐ突っ込むだけじゃトファリ姫は倒せないし、ダメージが蓄積されてる状態は相手して貰えないぞ?」
「うむむ……奴も同じコトを言っておったな……なら、妾はどうすれば良いのダ?」
「簡単、簡単。今日は休もう、そして鍛えて強くなったらまた挑めば良いさ――ほら、大福食べる?」
手に出したのは、食魔法で作ったお気に入りの餡子たっぷりの大福。もちろん毒なんて入っていないが、鬼子さんは手に取る前にマジマジと見て、臭いを確かめていた。
もしかすると、大福が初めてなのかもしれない。
「ぶにゅぶにゅしておる」
「餡子が苦手だったら別のお菓子でも出すから言って」
「構わん――ふっひっひ、子分からの貢ぎ物は親分として受け取らねばナ!」
それが、鬼子さんの大福の魔力に屈する五秒前の最後の台詞であった。
はむッと大きな一口で頬張って、見開いた目がキラキラとしていた。腕力も耐久力も人間を遥かに凌駕する鬼族だけど……やはり食べ物の魔性には皆が平等らしい。
「ん~~~っ! なんじゃなんじゃ甘くて美味しいのォ~、ンフフー」
なんて言っている姿を見ると可愛げしか無いし、もしかするも食べ物で世界平和とかイケたりするかもと考えてしまう。
めちゃくちゃ鬼子さんに付き纏われる様になる、五秒前のつまらない思考であった――。