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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第十話 平穏を望んでいないのでは?

 


「……早速、仲の良い子が出来たのね?」


 そう、冷めた視線を向けながら淡々と言ってくるトファリ。

 その瞳には『誰かのせいで教室で怖がられてる』とでも言わんばかりの怒りが込められている感じがした。

 妖精族のミーニョさんが、両替したお金を握ってパタパタと飛んで行った直後に教室へ現れたのがトファリだった。ただ、お昼ご飯を受け取りに来たのだろうが……そこで俺が女の子と仲良く話しているのを見て怒っているらしい。自分が友達を作れなかったから(ひが)んでいるのだろう。(あわ)れなお姫様だ。


「普通にな? 普通だぞ? 普通に考えて、王女と言葉を交わすなんて本来は(おそ)れ多いものだ。みんなまだ緊張しているだけだと思うぞ?」


 俺のクラスがザワザワし始めたし、お昼ご飯を共にする為に教室から移動していく。その間、頬を膨らますトファリのご機嫌取りに努めなければならなかった。


「シューゴだって貴族は貴族でしょ!」

「俺だってまだ別にクラスで打ち解けている訳じゃないぞ? 俺が下手に騎士科の一番下のクラスなだけに、同じクラスの奴等は扱いづらそうに見てるし」


 どうせなら落ち着ける場所で食べようという事で、俺達は校内にある大きめの木の下まで移動してきた。せっかくだからと、ポンちゃんとパピーも呼んでみんなでご飯タイム。


「……なんか私とアンタ達の食事が違くない?」


 トファリの食事は平均的というか、学生が食べる食事として基準的な物を魔法で作り出している。パンとスープと野菜とちょっとしたお肉という少しだけ質素とも思えるメニューだ。


「食事はお互いの価値観を知る為には一番手っ取り早い。質素に思うかもしれないが、お前が知らないだけでこれは普通だ。そういうズレを無くす事でみんなと仲良くなれる……俺はそう思うけどな」

「一理あるとは思うけど……でも、隣でそんな美味しそうな物食べられると」

『お肉! お肉! 美味しい~』

『今日のご飯もなかなか美味しいわね』


 立場的には姫であるトファリの方が圧倒的なのだが、食事メニューだけで言うと、ポンちゃんやパピーの方がトファリよりも良い肉を食べている。

 その待遇の差に不満があるのか、ジトーとした目で俺のチキン南蛮定食を見てくる。


「何だよ……」

「別に……」


 トファリは燃費が良のか悪いのか、食べても太らないどころかエネルギーとして消費されるらしく、運動をするととにかくお腹が空くとのコトだ。

 だがしかし、ドカ食いするお姫様とかイメージの問題になってくる。品位が下がっているなんて噂が国王陛下の耳にでも届いたら……そう考えるととてもそんな事はさせられない。人の目がなければ食べてもらっても構わないのだが……。


(これもトファリが溶け込める様にする為……死にたくない理由もあるけど)


 トファリの目の前にお肉を持ち上げて、口に運ぶ。

 これは単なる意地悪。やる意味も無ければ何かになる訳でもない。ちょっと睨まれるだけ。


「アンタねぇ……」

「トファリが頑張ったり、ちゃんとしてたら何か美味しい物を出してあげるよ」

「ほんとっ!? 私、今日とか結構頑張ってるわよね? ね?」

「校門前で問題起こしてただろうがよ……」

「くっ……なら、せめて量はどうにかならないの? 流石に少ないわ」

「まぁ、近くに人も居ないしそれくらいならな」


 指をバチンと鳴らして、トファリの持つ皿の上に追加の料理を作り出す。どうせならミーニョにも低価格で料理を出してやれば良かったかな、と少しだけ頭をよぎった。


「アンタ、この後どうするの? 今日はもう授業も無い訳だし」

「とりあえず朝のランニングルートを確認して、荷(ほど)き、トレーニング、姫様の晩飯って流れかな」

「あぁ、それ良いわね! アタシもトレーニングどうするか考えてたし」

「……ついてくるのか?」

「何よ、嫌そうな顔ね?」

「んー……いや、そうか。うん、いや……うん。そうだな、最初の内は一緒に居た方が都合が良いかもな」


 他の貴族や貴族以外の生徒ですら、トファリが学園に通う理由を知っている。そんな中で俺がちょくちょく会いに行っていたら要らぬ疑惑が広がってしまうだろう。

 それよりかは、最初の内にトファリの後ろを歩いて付き添いというイメージを植え付けておけば一緒に居る時間が長くとも不自然さは薄れていくだろう。


「よし、今日は一緒に居るか」

「うんっ! ……いや、別にそういうんじゃないけど、うん。で、早朝は何時から走るの?」

「お前のペースにはついて行けないから、お前はお前のペースで勝手に走ってくれ」

「教えてくれたって良いじゃない。ケチシューゴ」

「姫がそんな言葉遣いしてんじゃないよ」


 お昼を食べ終え、早朝のランニングルートを確認する為、学園の端を歩いて一周してみる。結構な広さがあるから歩くとそれなりに時間が掛かった。

 母上からの指示が無くとも、もうトレーニングは日常生活の一部になっているて、早朝のランニングは一日の始めとしてやらない方が気持ち悪いくらいだ。授業がある事も考えると、この広さなら三周もすれば丁度良いくらいになるだろう。


「ほらほら! 次はあっちに行くわよ!」


 それからついでに、気になった建物も確認してみたり、訓練している先輩らしき人を眺めてみたり、寄り道をしながらしばらくトファリの散歩に付き合った。元から好奇心の塊みたいな奴だったから、どこかのタイミングでこうなる気はしていたけど……あっちこっちに連れ回されてしまった。


「――よし、丁度良い。丁度良いから、夕飯の時にまた。女子寮まで行くのもアレだし、中間地で待ち合わせで良いよな?」

「えぇ~……まだ、見て回って無い所もあるのよ?」


 歩いている内に男子寮が近付いて、一旦トファリとは別れるコトにした。俺のちょっとした目的なら十分に達成できたし、これ以上は大変なだけだし。

 それに、お互いに荷解きがあるだろうし、自分のコトは自分でしなければいけない寮での生活にも慣れていかなければならない。俺は逃げるように、俺は貴族用の男子寮へと入っていった。


「あら、お帰りなさい」

「どうもです。あ、そうだ……質問良いですか?」


 出迎えてくれる管理人さんに、聞き忘れていた事を訪ねる。


「……なるほど。部屋の鍵を無くされた場合は、改めて鍵を作り直さなきゃいけないので費用が掛かるんですよ。壊されたならともかく、盗まれたり無くされた場合は負担して頂きます」

「ちなみに、鍵を管理人室で預かって頂けたりは……」

「それは構いませんよ? まぁ、貴族の方でそんな事をする方は珍しいですが」


 信用問題の話というか、貴族の性質の問題というか、自分の部屋の鍵を誰かに預ける行為をおそらく誰もしない。見方を変えれば防犯意識が高いとも言えるが、単に高価な物を持ちすぎて他人を信用出来ないだけだ。

 盗まれるリスクがあると念頭に置いて行動しているからそれを否定はしないが、悲しい生き物だと思う……貴族ってやつは。


(盗まれたりしたら学園に訴え出れば良いし、それか自分で探しだして……ま、高価な物なんて俺の部屋にはそんなに無いけど)


 何処かで無くすよりは、寮を出る時に預けていった方が個人的には安心できる。明日からそうする事を管理人さんに伝えて、部屋へと戻った。


『パピー、明日からどうしようか。シューゴが居ない時間』

『私はテキトーに空を飛んでるけど、ポンは迷子として捕まえられるかもね』

『えぇ~ズルい~僕も散歩したいな~、パピーが連れていってよ』

『あら、ごめんなさいね。私、ネズミより重いものは持てないのオーホッホッホ』


 羽を伸ばすと全長二メートルになるパピーだが、この前自身の体より大きい動物を捕まえて来ていた記憶がある。二人のじゃれ合いの声を聞きながら、家から持ってきた荷物を片付けていく。

 服をクローゼットに入れたり、本や羊皮紙、ペンなんかを机に置いたり。省ける物を省いた結果、荷物がそれほど多くはなく、どんどん片付いていく。


「おやつは大福にでもしようかなぁ。餡たっぷりの」


 今日のおやつをお汁粉にするか大福にするか迷いながら荷物を運んでいると、ポンちゃんが飛び跳ねる様に走ってきた。


『シューゴ、あのね、僕も日中は遊びたい』

「ん? あぁ、良いけど気を付けるんだぞ? 家と違って鍵が無いと部屋には戻れないんだから」

『うん! シューゴの位置なら分かるから大丈夫だよ』

「相変わらず凄い嗅覚だこと。暇なら管理人のお姉さんにでも遊んで貰いな。遊んでくれるかは知らないけどね」

『シューゴ、窓は開けてって貰えるかしら?』

「鍵は開けておくよ。流石に三階まで登ろうとする奴は居ないだろうし」


 パピーも肩まで飛んで来てそんなお願いをしてくる。ポンちゃんもパピーも、俺と同じで学園で暮らす事に少しテンションが上がっているのだろうか。

 家から離れるのは、泊まり掛けの護衛任務を除けば今回が初めてだ。ポンちゃんもパピーも、元々は何処か別の場所で暮らしていたから環境の変化もまぁまぁ平気そうなものだが……ま、楽しそうだから何も言うまい。


「授業のカリキュラムを見るに……どうやら実技の方に重きを置いているっぽいし、午後は外で訓練してるからその時なら会えるけど他の人も居るから邪魔しちゃ駄目だよ」

『はーい』

『ふふっ。私的には人の価値観に縛られたくは無いわけど、シューゴが困るならやめておくわ』


 ドガーーーーーーンッ!!!!!


「な、何事!?」


 いきなり外から爆発音らしき轟音が響いてくる。今からせっかく優雅なおやつタイムにしようと思っていたのに、外から爆発音が聞こえて来たら台無しである。

 誰かが魔法を失敗したのか、はたまたどこかの姫が何かをやらかしたのか……。この部屋から覗ける場所に異常は見当たらず、とりあえずパピーに空からの偵察をお願いした。


『――戻ったわよ』


 待つこと数十秒、パピーが戻って来た。


『ヤンチャなお姫様が戦っているわ。今も。さっきのは、角の生えた女の子が地面に叩き付けられた音でしょうね……ほら、今も』

「おいおいパピー、冗談だろ?」

『人も集まって来てるし、シューゴも行ってみたら良いんじゃない?』


 トファリが何かやらかす事に対しては、もう何も思わない。トファリに誰かが挑む事も、無謀とは思うが何も言うことは無い。

 ただ今回はしぶといというか、女の子というのに少しだけ驚きがある。今も聞こえてくる激しい音から推察すると、何度も叩きのめされているのに立ち上がっているということになる。

 角の生えた少女という事は少なくとも人族ではないということだ。獣人の子か別の種族か……行ってみても良いかもしれない。


「パピー、ポンちゃんも行くかい?」

『行くぅ~!』

『仕方ないわね』


 最短距離で行くには窓から飛び降りるのが早い。俺は人目が無いのを確認しつつ、バリアで足場を作りながら三階から地上へと降り立ち、現場へと急いだ――。



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