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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第一話 王女様、宣言する


休みの日に書いて、不定期更新です。

あと、趣味ですので厳しい事はあんまり言わんといてっ!


 

「では、これにて本会議を終りょ……」


 年に一度、国中の貴族家の代表が(つど)い開かれる会議。順調に進んでいた話し合いが今、つつがなく終わろうとしていた。

 国の方針や他国との情勢を話し合う大事な会議だが、実情は地位の高い貴族同士が牽制しながら話し合う場になっている。地位の低い貴族は上の者に付き従うしかないのがこの世界での常識だ。

 そんなタイミングで、静寂に包まれていた空間に居た者達は外の騒がしさに気が付いた。


「お嬢様、いけません! お戻りくださいっ」


 威風堂々と歩く見目麗しい少女――トファリ。彼女は貴族が一同に集うこの機会を待っていた。静かな怒りを目に宿しながら。

 トファリが会議の行われている部屋に着くと、大きな扉を開閉する役目の兵士の止める声すら振り切って扉を押し開けた。


「――失礼致します。この国の未来を作る貴族の皆々様。ご無礼を承知で入室させて頂きます」

「…………おぉ! これはトファリ第二王女。ご機嫌麗しゅう……しかしですな」


 トファリに最初に声を掛けたのは国王の腹心にあたる大臣。壮年の男性だ。

 だが、トファリは返ってきた声など無視して父である国王をただ見詰めていた。


「トファリ。後に然るべき罰を与える……して、何用か?」


 一段と重く低い声。父親であれど国王。娘と言えど容赦の無い事はトファリも分かっていた事だ。

 この会議を邪魔をすれば罰則があるのは重々理解していて、それでも尚、言いたい事があったからトファリはやって来たのだ。

 真っ赤に燃える様な髪と瞳。誰もが見惚れる様な美しさを兼ね備えており、強い心が全身から出ているかの様な少女。立場のコトもあって、トファリには求婚の申し出が絶えなかった。国内はもちろんの事、他国からも求められる程である。

 だが、トファリの真骨頂は美しさ程度のモノじゃない。


「トファリ様。いくら『神に愛された子』であれど、会議中の立ち入りはいけませんぞ?」


 神に愛された子……それは、トファリの才能に畏怖と敬意を評して付けられた二つ名だ。


 圧倒的な魔力量に加え、全ての魔法に適性があると言われている魔法的な才能。

 戦闘における技術の高さや武術への理解度、人よりも高い密度の筋肉という身体的な才能。

 それに甘んじず、努力できる才能。教養もあって非の打ち所が無い。歴史に名を残す『英雄』の中でもトップだと謳われている程だ。


 強いて弱点を挙げるのであれば、少々我が強いという事。しかし、トファリからすればそんな評価なんてものはどうでも良いと思っている。他に重大な問題があるからだ。


「用件は一つでございます。(かね)てよりご子息様との縁談のお話には大変嬉しく思っておりました」

「おぉ! ついに(とつ)ぐ家を決めたという事ですかなっ!?」


 一人の太った貴族が歓喜の声を轟かせる。他の貴族から冷めた目で見られているが、内心はどの貴族も同じ気持ちであった。

 先程から貴族達の声はトファリの耳をすり抜けていた。興味が無いからだ。


「返答の書にて『私よりも強い同世代の者であれば容姿、爵位は不問とす』と明確な条件をお出ししておりますが、一向に挑む者が現れません。これを機に、私はある決定を致しました」


 歴戦の貴族達も今はトファリの語りに耳を傾けている。トファリの姉である第一王女の嫁入り先はもう決定していて、兄達もそれぞれパートナーが決まっている。

 となれば、残るは十四歳のトファリか更に幼い第三王女しか居ない。

 ここに集まった貴族達のほとんどは、無謀と知りつつもトファリの婿(むこ)に自分の子供を推薦している者達ばかりである。

 元から、トファリよりも強い同世代という無理難題に近い条件であったのに、更に条件が増えるとなるとそれこそ不可能になってしまう。一同、自分の子がトファリに勝てると思ってない。どうやってでも王族の家系に我が子をと思っている親程、子供の戯れ言と揶揄する事はなく、ただ静かに話の続きを固唾を飲んで待っていた。


「来年から王都第一学園へと通い、学生として見聞を広めようと思います。そして、いくら品が無いと言われても、そろそろ私から婿を探しに行く事を決定(・・)致しました。つきましては、皆様のご子息と合意の上で決闘させて頂いた場合、逆恨みは無しで遠慮なく戦かわせて頂きたく思います。詳細は追って御伝え致します。……私からの用件は以上でございます」


 トファリは深々と頭を下げた。トファリの言った意味を瞬時に理解出来た者は少ない。

 つまりは、己よりも弱ければ高位の貴族であれ認めず、強ければ平民からでも選ぶということだ。

 理解出来た者は全員……『この子、本当は結婚する気など無いのでは?』と強く思った。

 トファリには、結婚願望がしっかりある。強い旦那様に守って貰いたいという女の子なら誰しも一度は考える小さな願いを持っている。自分が人より強い事に気付いてしまったせいで、もしかしたら叶わないかもしれないと諦めかけた願い。

 この国で居ないのなら、独身を貫こうと己に誓ってまで探そうと思い立っていた。


「トファリよ……自分の言っている事が分かっておるのか?」

「えぇ、お父様。私より強ければ立場など関係ありませんわ。私はこの国の為に身を捧げる覚悟にございます。お兄様や姉上が国政をされるのならば、私は私を持ってして民を守る義務がございます。となれば……伴侶は私と共に国を守れる人物でありませんと」

「……下がれ。部屋で待機を命ずる」


 国王の一言で、トファリは再び頭を下げて退室した。

 国王は冷や汗を隠した。貴族達の手前、重々しく厳しい国王像を守り抜いてきたが、娘を持つ父親のいつもの姿に戻りそうになったからだ。

 国王の内心を察せた者は側近の者や気心をしれた数人程度であろう。

 本当は娘の強さや傍若無人で思い付きのまま行動する性格に頭を悩ませる、息子娘達大好きなパパなのだ。


 ――ともあれ、誰でも王族になれるというこのトファリの宣言は、貴族から商人を伝って国中に広がっていった。

 第二王女争奪戦という名の、第二王女の婿選定が始まりの幕を上げたのだった。


 ◇◇


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