ACCIDENT
読んで戴けたら嬉しいです。
何故人は誰かを愛すると束縛したくなるのか.............。
一葉が倖せなら、それでいい......。
そんなもの、ただの綺麗事だった..........。
本心はもっと利己的で醜い。
一葉に愛されたい。
けれど、一葉はあの娘と結婚すると言う、
別のバンドに移籍すると言う.........。
オレのもとから、遠くへ遠くへと向かって歩き出す一葉。
もう、手の届かない場所へと行ってしまう。
オレのささやかな倖福が叶わなくなる。
それならばいっそ..........................。
それはちょっとした賭けだった........。
ライヴステージのちょうどギタリストが立ち位置にある天井ライトがグラついているのを見付けた。
本来なら誰かに...........。
そう、本来なら誰かに知らせなければならない事だった。
だがオレは、沈黙した...........。
ハコの収容人数は千名。
チケットはソールドアウト。
「飛べ! 」
そうオレが煽れば、オーディエンスたちは一斉にジャンプし始める。
千人が飛び跳ねる振動は、勿論天井にも伝わる。
もしかしたら天井ライトは見た目よりもずっと頑丈に装着されているのかも知れない。
だが、そうじゃ無いかも知れない。
それは一葉が持つ運を天に任せた事だ。
黙っている事でキレイで居られる、ずるいやり方だと思う。
オレは当事者でありながら、第三者を装う........。
ここまで来て何に対して誠実でいる必要があるだろうか.......。
あの時のオレはもう、一葉に何を求めていたのかさえ解らなくなっていた。
ただ一葉を誰にも渡したく無い。
そんな幼稚な想いだけに支配されていた気がする。
ライヴは始まった。
火蓋は切って落とされた。
ハードな曲が一葉の掻き鳴らすギターと共に始まる。
オーディエンスたちは一心不乱にヘドバンしている。
色彩豊かな揺れる髪が不規則に波打つのを、オレは満足気に眺めた。
オレはただ、ライヴに集中していれば良かった。
いつも通りに............。
次々と繰り出されるハードナンバーに観客たちは両手を掲げ飛び跳ねる。
オレはいつも以上に観客を煽る。
オーディエンスたちは応えるように飛び跳ねる。
もっとだ!
もっと.............!
もっと.............!
このまま何も起こる事無く終わるなら、それはそれでいい。
このままオーディエンスたちの声に消されて埋もれてしまっても良かった。
けれど.......................。
本当に、これでいいのか?
オレは間違っている。
そんな事は解っている。
オレは今、とても大切な何かを見失っているのじゃないだろうか........。
オレはハタと我に返り、一葉を振り返った。
その時、一葉の頭上には天井ライトがすぐ真上に迫っていて、次の瞬間天井ライトに押し潰されるように一葉が倒れた。
「一葉ーーーーっ...........!! 」
床にぶつかったギターの爆音が轟き渡り、フロアから多くの悲鳴が響いた。
一葉の頭からドクドクと流れ、面積を広げる血の海を、オレは呆然と見詰めていた。
不思議だった。
あの時、オレの耳からあらゆる音が消えた。
人が騒がしく右往左往する中、
オレはただ佇んで静寂の中で耳鳴りを聴いていた.........。
読んで下さり有り難うございます。
天井ライトがぐらついて落ちるなんて事故が起きたなんて、話は聞いた事ないです。
多分、ライヴハウスの関係者様たちは演奏者を守る為にきちんと点検されているので、実際にこんな事は有り得ないと思います。
一時間後にラスト、投稿します。




