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背徳の庭で  作者: 楓 海
5/9

HER

 読んで戴けたら倖せです。

 夏が終わろうとしている。


 WHATEVER NEXT!(次はいったい何が起こる!)


 と、銘打たれたライヴツアーも、福岡、岐阜、名古屋、静岡、大阪と残す処あと五ヶ所。


 今日は仙台のキャパ八百のライヴハウスで暴れ回った。


 が、二回目のアンコールで突然真っ暗になった。


 アンプの電源も切れたらしく弦楽器の音がいきなりショボくなって止まり、ドラムの音も途切れた。


 何が起こったか解らなくてパニクっているとざわめくハコの中で「次はいったい何が起こるんだ! 」とジュンが叫んだのでフロアがドッと笑いに包まれた。


 ステージ上で戸惑っているとブッキングの寺島さんが懐中電灯を手に近付いて来て言った。


「どうやら、ブレーカーが落ちたみたいで、今調べています

 それまで場を繋いで下さい」


 そう言って寺島さんは懐中電灯をオレに渡してステージから去って行った。


 取り残されたオレは何か話そうかとも思ったが、それはSIRIUSらしくないと思い、懐中電灯でフロアのあちこちを照らしながらアカペラで、SIRIUSでは一、二を争うBPMが早い曲をスローのバラード調で歌い始めた。


 機材のトラブルはあるあるだがブレーカーが落ちると言うのは初めての体験だ。


 以前、仲のいい先輩ミュージシャンにやっぱりブレーカーが落ちて、アカペラで乗り切ったと言う話を聞いた事があった。


 ざわめいていた会場は直ぐに静まり返り聴き入ってくれる。


 今、この場で生きている楽器はドラムだけだ。


 勿論ドラムの音を拾うマイクも電気が無ければ不能だが、キャパ八百ならドラムの生音くらいは後部列でも聴こえるだろう。


 次第に目が暗闇に慣れて来た頃、サキを振り返り懐中電灯を照らして合図した。


 サキは『いつものアレね』と言う顔をしてアカペラに合わせて来る。


 サビの一番盛り上がる処で電源が復活し、曲は今までに無い盛り上がりを見せ、拍手が長い間フロアを埋め尽くした。


 こんな処で一葉独自のヴォイストレーニングが役立つとは思わなかった。


 その日のライヴはアンコールに予定していなかった一曲を観客にプレゼントし、大盛況の内に終わりを告げる。


 控え室に戻ると、メジャーバンドのEMERGENCYにベースで所属する小太郎さんが来てくれていて、オレたちは一気に緊張した。


「おはようございます! 」


 と、挨拶をした。


 EMERGENCYと言えば憧れの大先輩バンドだ。


 小太郎さんはオレの顔を見るとオレの肩をガシッと掴んで言った。


「いいライヴだったよ」


 オレは感無量だった。


 打ち上げでは、ブレーカーが落ちた話で持ちきりだった。


 何人ものスタッフによくやったと肩を叩かれた。


 製作の本田さんには通り過ぎる時に両手で親指を立てられた。


 悪い気はしない。


 また誰かに肩を叩かれた。


 振り返ると一葉だった。


 隣には、出来れば逢いたくない人が立っていた。


 一葉の彼女だ。


 仙台まで一葉を追い駆けて来たのだろうか.......。


 紫で統一したゴスパンファッションに身を包んだ彼女は、男ばかりが多いこのむさ苦しい空間の中で可憐な花の様に美しく際立っている。


 オレと目が合うとにっこり微笑み、ぺこりと頭を下げた。


 女の子らしい、可愛い仕草だった。


 一葉が少し照れた調子で言った。


「俺の彼女」


国崎香乃愛(くにざきかのあ)です」


 彼女はまたぺこりと頭を下げた。


「どうしてもシグちゃんに挨拶したいってきかなくてさあ」


「わたし、ずっとSIRIUSのファンだったんです! 」


「そうなんだあ」


 オレは作り笑いで応えたが少し不自然にひきつっていたかもしれない。


「あまりライヴで見掛けないけど........」


 このセリフ嫌味だなと、自分でも言って嫌になった。


「すみません、仕事あまり休みが自由利かなくて........」


「今日は一葉を追い駆けて来たの? 」


 彼女は少し頬を赤く染め、横目でちらりと一葉に目をやってハイと答えた。


「今日は........」


 上目遣いでオレを見て、それから真っ直ぐ顔を上げて彼女は言った。


「今日は凄かったです!

 アカペラが始まった時、わたし感動しちゃって鳥肌立ちました! 」


 オレは何か後ろめたい気持ちになって、早くその場を離れたくなった。


「さあ、もういいだろ

 シグちゃんは今日の主役だからね、いつまでも独占しちゃ悪いよ」


 一葉は彼女の腕を引いて行こうとする。


 彼女は一葉に腕を引かれながら名残惜しそうに、こっちを見て一礼して去って行った。


 最悪の気分だった。


 彼女がじゃない。


 オレが最低だと思った。


 明らかにオレは彼女に嫉妬していて、隠すのに必死だった。


 男のジェラシーなんて、みっとものいい物じゃない。


 でも抑える事ができなかった。


 似合い過ぎている。


 素直そうで、邪気が無くて.........。


 そして綺麗で........。


 完璧だった........。


 一葉の隣に存在するだけで、ぴったりと合ってしまう。


 オレはぼそりと呟いた。


「いい()過ぎるよ........」





 帰りの移動の車に乗り込むと一葉が居なかった。


「あれ、ズッちは? 」


 先に乗り込んでいたジュンが答えた。


「なんかさあ、小太郎さんが連れてったんだ」


 オレは言った。


「処でさあ、小太郎さんが何で仙台に? 」


 運転席からマネージャーの小杉さんが言った。


「あの人、仙台出身なんだよ」


 サキが言った。


「そう言えばEMERGENCYって、今ギタリストが脱けて活動休止中だって聞いたなあ」


 オレはなんだか胸騒ぎがした。










 

 読んで戴き有り難うございます。


 今日はお出掛けしました。

 外は真っ白すっかり根雪です。

 また、しばらく白一色の色彩が無い世界です。

 それはそれで美しいです。

 でも、やっぱりあまり嬉しくないです。

 

 屋根の雪下ろしで亡くなる人いたり、随分昔に一緒に仕事していた人の旦那さんがラッセル車に巻き込まれて障害者になりました。

 雪は綺麗だけど、怖いです。



 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] Whateverは「どんなものでも」みたいな意味なので、Whatever Nextだと、次に起こること何もかもになり、次に何が起こる、とするのはちょっと意訳がきつすぎる気がしました…。…
2024/01/01 22:25 退会済み
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