SIRIUS
読んで戴けたら嬉しいです。
ドラムスのサキはファンから貰ったと云うタイタツのミニヴァージョンの太鼓をポカポカ上機嫌で叩いている。
ギターの一葉は難しい顔をしてローズ色のマニキュアを真剣に、爪に塗っていた。
壁に貼り出されたセットリストを見ていたベースのジュンは振り返ると一葉を見てニヤリと笑った。
何気無くそれを見ていたオレの視線に気付いたジュンは、オレに向かって口の前に人差し指をたてて、そっと音を立てないように一葉の背後に立った。
「ワッ!! 」
と云う声と共に一葉の背中を思い切り押した。
一葉もワッと声を上げた。
「ああああ~~~~、はみ出したあ! 」
振り返った一葉を指差してジュンは腹を抱えて笑っている。
一葉が勢い良く立ち上がるとジュンは控え室を慌てて飛び出して行った。
「どうしてくれんだよ!
今日、除光液忘れたのにい! 」
そう叫びながら一葉はジュンを追い駆けて控え室を飛び出して行った。
これから約三時間の全力ライヴを控えていると云うのに、こいつら本当に元気だと思う。
「テンションたけーわ」
オレは笑った。
廊下からわーわー二人が騒ぐ声が聞こえたので、オレは気持ちを集中させる為にイヤホンをしてナインインチネイルズを聴き始めた。
適度な緊張感を持ってライヴに臨みたいオレは目を閉じて聴き入った。
イメージが見えて来る。
仕事や人間関係、あくせくする日常を忘れる為だったり、単純にオレらのライヴを楽しみに見に来てくれたり、色んな想いを胸に来てくれた観客を前にオレたちは全力の演奏で暴れ回る。
一葉はギター、オレはヴォーカル、ジュンはベース、サキはドラムス。
オレたちSIRIUSはインディーズシーンでそれなりに名前の売れたバンドだった。
誰かが言っていたが、ドラマーはフレンドリー、ギタリストは頑固、ヴォーカルは我が儘、そしてベースは変態が多いそうだ。
うちもそれに、少なからず当てはまっているかもしれない。
ジュンと一葉は歳が近いせいかウマが合うのだろう、よく二人でじゃれあっている。
だが一端、音楽の話になると一葉はまず自分の意見を曲げる事が無い。
オレも曲を創るが、一葉は洋楽ばかり聴いて来たせいかロックのセンスがオレの比じゃ無い。
聞けば両親共に洋楽好きで、物心付いた頃から洋楽に囲まれて育ったと言う。
だから桁違いにビート感覚が鋭いし、創る曲も何処か日本人離れしていた。
そのせいでリズム隊のサキとジュンはレコーディングの度に苦労を強いられる。
サキはドラマー特有のまとめ役の素質があって、一歩も引かない一葉を宥めるのが上手かった。
ジュンは何だかんだ言っても一葉の才能を認めているし、一葉の要望に応える事で自分が成長しているのも事実なことを解っているが、若いから感情が先走る事が多い。
だから、うちが揉める時は大抵、一葉とジュンがぶつかり合った時だ。
一度、殴り合いになりそうになった時がある。
一葉がなかなか納得しなくて、ベースを何テイクも録らされた時だ。
三十テイク目でジュンがキレて一葉に掴みかかった。
サキが慌てて中に割って入りジュンを宥めた。
その時、一葉が言った言葉がこうだった。
「俺はジュンの才能に期待してる
だから、ジュンが望み通りの音を出してくれると信じてる」
その後二人はじっくり話し合い、一発録りで一葉はOKを出した。
一葉はオレに対してはあまり言わない。
ただ、定期的にバックをドラムだけで歌わせた。
リズム感を重視する一葉流のヴォイストレーニングらしい。
確かにそれをする事でリズミカルなヴォーカルがしやすくなる。
とにかくオレたちSIRIUSは一葉の才能に支えられ、業界ではライヴバンドとして定評がある。
今日もライヴではファンたちが最高の光景を見せてくれた。
波を荒立て、右へ左へとジャンプしながら流れて行き、ヘドバン、モッシュやダイブが荒れ狂う。
観客の輝く様な笑顔を胸にオレたちはステージを後にした。
因みにだが、一葉の指にはローズ色のマニキュアが波打ったままだった。
誰もが面白がって除光液を貸す者が居なかったからだ。
打ち上げでは、遊びに来てくれた別のバンドマンがサキと機材の話で盛り上がっていた。
サキは本当に誰とでも仲良くなれて羨ましい。
ジュンはテーブルのお菓子をパクついている。
何処でもマイペースな奴だ。
オレは人混みの中で一葉を探していた。
出入口の柱に凭れて、長い銀髪を一つ縛りにした一葉は見慣れない女の子と楽しそうに話していた。
女の子は今時珍しいゴスパンの格好をしていて、可なりの美人だった。
オレはポテチを頬張っているジュンの肩をつついた。
オレは一葉の方を目で差して訊いた。
「いま一葉と話している、あの女の子は? 」
ジュンは口の中のポテチをワインで流し込んで言った。
「ああ、一葉の新しい彼女
一葉の奴メロメロでさあ............」
オレは胸が騒いで、その後のジュンの言葉が聞こえなくなっていた。
彼女との鉢合わせは、できれば避けたかった。
一葉が一人になった処を見計らってオレは話し掛けた。
「一葉.......」
「あ、シグちゃん」
一葉は振り返るとオレを見て微笑んだ。
オレの名前は紫雨だが、仲のいい連中は大抵シグと呼んだ。
一葉はオレが歳上なのを気にしているのか時々ちゃん付けで呼ぶ。
オレは一葉に近付くと拳をゆっくりと一葉の頬にぶつけながら言った。
「彼女できたのに、オレに挨拶無しかよ
このやろー」
一葉は嬉しそうな表情を浮かべ殴られた様に顔を傾けた。
「もう、バレちゃったや......」
「なんだあ?
内緒にしてたつもりか?
バレバレだっつうの」
オレは満面の笑みでごまかした........。
悟られるなんて論外だ........。
何故なら、オレの恋は絶望から始まっていたから............。
読んで戴き有り難うございます。
作中に出て来たドラマーはフレンドリー云々と言うのは、ザアザアと言うバンドのヴォーカルの一葵くんのお言葉です。笑
ザアザアのベースは一葵くんの実のお兄さん。
あんたは自分の兄ちゃんを変態と言うんかいと思わず突っ込みたくなりました。笑
ドラムのみで歌うとリズミカルに歌えるようになる、本当かい❔ 笑
今回、結構いい加減な事をまことしやかに書いております。笑
モッシュの説明ですが、間違っているようです。
観客が小刻みなジャンプをしながら左右に移動することを言うみたいです。
しかし、あの説明、現役のバンギャさんに聞いたのですがね。笑
先日、娘と映画の「ジョーカー」観たんです。
アメコミのキャラのスピンオフと思って観たら、全然そういう感じじゃなくて、かなり芸術的に描かれてました。
ジョーカーになるまでの過程を描いているのですが、ホアキン・フェニックスの演技が素晴らしくて、「ダークナイト」でジョーカーを演じてたヒース・レジャーも素晴らしかったですが、ホアキン・フェニックスのジョーカーも目を見張るものありました。
後半に行くとヒース・レジャーのジョーカーと重なるように見せていて、でもホアキン・フェニックスのジョーカーはカッコいいですね。笑
ヒース・レジャーは「ダークナイト」を録った後、惜しい事に亡くなってしまったんですよ。
ヒース・レジャーのジョーカーを越えるのは無理と言われていたらしいのですが、ホアキン・フェニックスが見事越えたジョーカーを演じてました。
アメリカの俳優さん、本当に凄いなあと思います。




