女性の気持ちを理解する男になれるか?
電車の中で、矢口のステータスを見ながら、とある実験をしてみる。
「いや、マジ助かったよ。一人暮らしの風邪って、辛くて、このまま死ぬんじゃないかと思えてくるんだよ。正直、看病に着て来れただけでもうれしいのに、美味しいお粥まで食べられて、風邪引いてよかった」
一瞬、嬉しそうな顔をしたが、直ぐに真面目に怒り出す。
「馬鹿を言うな。風邪でも大事になることはあるんだぞ。それに…元気だったから、つい買い物に誘ってしまったが、体調は大丈夫なのか?」
スタータス画面に特徴という項目がある。
これは三大欲求以外で、その個人が持つ人格を形成する需要な欲求を、上位から3つピックアップしたものを表示したもの。
矢口の場合は、養護欲、承認欲、成長欲の3つだ。
そして、俺の部屋で最初にステータスを見たときから、少し下がっていたのだが、俺が褒め殺しをすると、養護欲が43%から35%に、承認欲が36%から28%に下がった。
つまり欲求が満たされたということなのか?
「わ、私みたいに大学でも部活で運動していれば、風邪など引くことはないのに」
ここはクエストに絡めて話を進めてみるか。
「水泳だっけ?」
「うん。夏は特に良いぞ」
「その割には、あまり日焼けしてないな」
「室内プールだからな。冬は温水だ」
「競泳の水着って、どんなのだっけ?」
「な、突然、どうした?」
クエストの内容が水着とか、意外と話しを展開し難い。
「いや、あまり記憶になくて。まぁ、矢口ってどんな水着でも似合いそうだもんな」
「ば、馬鹿…。わ、私は…ち、小さいし…」
しまっった、地雷を踏んだか!?
「それも、含めて、矢口の魅力だと思うんだけどな…」
矢口は目を見開いて俺を見つめる。
「そ、そんな事。言われたのは初めてだ」
そして、矢口は瞳を潤ませて、窓の外に視線を移す。
「雨宮が…そんな事を言うなんて…。調子が狂う。いつもと違いすぎだ…」
アウトレットへの最寄りの駅に到着してしまったので、ここでタイムアップだ。
「お、矢口、降りるぞ」
「お、おう…」
終始無言の矢口に、逆から責めてみる。
「なぁ。矢口、怒ってる? 俺、またデリカシーの無いこと言っちまったかな?」
「お、怒ってないぞ」
「で、買い物って何だ?」
「それは…」
水着とは言い出し難くなってしまったようだ。