決意のとき
相思相愛で付き合い出すことなんて滅多に無いだろう。愛する人と愛される人のパターンが圧倒的だと思う。
愛することが幸せなのか、愛されることが幸せなのか、人それぞれと言うしか無い。
そして、ここまで…何の取り柄もない俺を好きでいてくれる人が、今後も現れるとは思えない。異世界のシステムの残滓を使って、女の子と遊びたいという邪な気持ちは、消えていた。
俺は、矢口を引き寄せ抱きしめた。
「な、何するんだ?」
「ずっと…俺の事を想ってくれていたんだろ? 気付けなくてごめん。何でだろうな? 十数年、矢口と一緒にいたのに、今日、矢口の事が気になり始めて、そして、矢口の事が好きだと気が付いた時、矢口の想いに気付けた」
「お、おい…」
「矢口、俺と付き合ってくれ。これからは…俺が、お前を愛したい」
「ば、馬鹿。そ、それは…私の役だ…。それに、恥ずかしいから…離してくれ。見られてる…」
気が付くと、遠回しに微笑ましげな表情で、周囲の人たちに見られていた。
「あ、わ、悪い…」
「なぁ、これ、夢か? 頭ん中が真っ白だ」
再び手を繋ぎ歩き出す。今度は遠慮なんかしない。しっかりと優しく矢口の小さな手を握る。
「な、何か、こそばゆいぞ」
矢口は、照れ隠しなのか、やたらと口数が多い。
「なぁ、矢口。その男言葉も、俺が原因だよな。今思い出したんだ。俺が矢口と一緒に遊んでいるところを同級生にからかわれて、恥ずかしかった俺は、それでも矢口と一緒にいたくて、必死に考えたのが…矢口が男だったらって…。馬鹿だよな俺…。ごめんな」
「そ、そんなこと…。な、何で、そんなの思い出すんだよ!」
矢口は手を振りほどくと、腕に絡みついてくる。
「い、今更…直せないぞ…」
「昔の女の子らしい矢口も好きだけど、今も可愛いと思うぞ」
「な、なんなんだよ。雨宮、そんな言葉を…お前、いつの間に、そんな…事を言えるように…」
いつの間にかか…。俺は異世界で、別の人生を…目茶苦茶濃い人生を送ってきたからな。
「大人っぽいか?」
「うん…」
買い物を終えた俺達は、旅館に戻った。
「随分と広くて豪華な部屋だな」俺は素直に部屋に感心する。
「お兄ちゃん、薬ありがとう。スッキリしたいから、温泉行こうよ」と妹が擦り寄ってきた。
「良いけど、大丈夫か? お風呂の中で倒れても、男女別だし…お母さんに付いてきてもらうか?」
「うん? 家族風呂行こうよ」
「へっ?」
俺、変態じゃないよと、矢口に視線を投げる。
「仲いいね。行ってらっしゃい」
「お母さんも、真衣の看病で疲れてしまったから、休んでいるわ」




