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11.ベルトランとの初デート(仮)【前編】




 ベルトランに竜と友になれたことを早速伝えてみたところ、少し悔しそうにしながらも概ね喜んでくれた。

 というわけで、今朝はアキに乗ってベルトランと並んで登校である。王都は遠いが、竜に乗ればひとっ飛びだ。


「そっかー、フランなら心配要らないとは思ってたけど、早かったねおめでとう」

「はい、これで私もベルンとお揃いです」


 そう言ってみたところ、何故か顔を赤くされた。さして意識して告げたつもりは無かったので、そんな反応されるとこちらが慌ててしまう。


「いえ、そのっ……深い意味はなくてですね」



 それに竜と友になるだけでお揃いなら、お父様ともお母様ともお揃いである。そう続けると、今度は少し落ち込んだようだった。


「うん、まぁフランだしね……分かってたよ、うん」


 なんだろうそれは。たまにベルトランの言ってることはよく分からない。男の子の心理なんて、勉強した中には無かったしなぁ……。


「そうだフラン、せっかくだから今度の休み、竜に乗ってどこかに出掛けないか。お弁当を持って、そうだな……国外に行ってみよう。行きたいところはあるか?」

「ドラゴヘッド」


 ベルトランと遠乗りか……竜に乗る練習にもなるし、楽しそうだ。その上彼と出掛けるとなると、学問と研究の国『ドラゴヘッド』しかないだろう。

 貴族は何かと遠出する必要があるから、竜に乗れるのは必須技能なのである。国の外に出るのは初めてなので、どうなることかと気持ちが弾む。


「即答かぁ……まぁ、君ならそう言いそうだと思ってたよ。それじゃあ次の光の日、ドラゴヘッドに行こう。朝から迎えに行くから、待っててね」

「はい、分かりました」


 そう言ったところで校舎が見えて来たので、私達はおしゃべりを止め、校門へと舞い降りたのだった。



 というところでその話を帰宅してからお母様に話したところ、何故だか大変に喜ばれた。


「まぁまぁ、それじゃあ、ベルトラン君とデートするのね。それもドラゴヘッドまで。うふふ、張り切ってお弁当作ってもらわなくちゃね」

「……デート?」


 デートというのは、前世知識で言えば恋人同士が一緒に出掛けるものだったように思うが……デート?


「お母様、これはただのドラゴンに乗る練習を兼ねた遠乗りで」

「あらやだ、婚約者の二人が出掛けるんだからデートでしょう? ごめんなさいね、どうしても護衛と使用人は付けないといえないから二人きりには出来ないけど……思い切り楽しんで来るのよ」

「お母様何を言ってるのですか?」


 どうやら私の認識していたもので間違いないようだが、私とベルトランはまだ十歳と十一歳で、そ、そういった事柄はまだ早いのでは? 高等部を卒業して成人と認められるまで、後九年もあるのだし……!


「あら、デートに早いも遅いもないわ。今まではどちらかの屋敷でしか過ごして来なかったのだもの。外でうんと羽を伸ばして来なさい」

「…………………………………………はい」


 これ以上お母様に逆らう気にはなれず、私はがくりと項垂れたのだった。



 そしてベルトランとのお出かけ当日、私の支度が終わる時間を分かってたかのようなタイミングでベルトランが我が家に迎えに来た。

 毎回毎回どうして彼はタイミングよく来れるのだろうか。不思議に思いつつも作ってもらったお弁当を手に玄関へと出る。

 とそこには珍しいことに、アメリーがお母様と共に見送りに出ていた。


「アメリー、どうしたの、いつも引っ込み思案なあなたが」


 アメリーは普段は自分の部屋から出てくることは殆どない。ベルトランと顔を合わせたのも数えるくらいで、その時だってすぐに部屋に引っ込んでしまった程だった。


「……お姉様が、ベルトランお兄様とお出掛けなさると聞いて」

「それでわざわざ見送りに出たの?」

「……いいえ」


 そこで、ベルトランが玄関ホールへと入って来た。


「フラン、おはよう。迎えに来たよ。オルタンス様、見送りありがとうございます。……おや?」


 いつものように挨拶をし、そこでアメリーが居ることに気が付いた様子で目を瞬かせる。ほんの僅か首を傾げたようだったが、すぐに笑顔になってアメリーにも挨拶をする。


「アメリー嬢もおはよう。珍しいね、君が居るなんて」

「……ベルトラン()()()()が、お姉様とドラゴヘッドにお出掛けになると聞きまして」


 ……ん? 何か今、「お兄様」の発音が違っていた気がするが……何だろう?


「ああ、見送りかい?」

「……いいえ」


 アメリーはまたも首を振り、ベルトランを見上げた。


「ベルトランお義兄様……もしもお姉様に怪我などさせたりしたら、許しませんからね……」


 アメリーのお父様譲りの赤毛がぶわぁ、と広がったような錯覚を覚える。何をどうして私の婚約者を威嚇しているのかうちの妹は。


「無論だよ。フランには傷一つ付けないことを約束しよう」


 そしてベルトランもベルトランで、何を大真面目に頷いているのか。今日これから行くドラゴヘッドはドラゴハートと同じくらい治安の良い国で、最も安全な国と呼ばれている。ドラゴバックやドラゴベリーの一部には治安の悪い地域もあるらしいが、頭脳都市というだけあって、安全には力を入れている場所だ。もしかすると、日本の観光地に旅行に行くよりも安全かも知れない。


「二人とも……大げさですよ……」


 額を抑えつつそう言ってみたが、二人はくわっと言う程に目を見開き、同時にこちらを向いてきた。


「何を言うのですかお姉様。よろしいですか、世の中何が起きるか分からないのですよ。魔物の襲撃とか悪い人に拐われるとか、そうでなくとも本棚から分厚い本が落ちてきてお姉様に直撃するとか」

「アメリーの言う通りだよ、フラン。僕もそりゃあ警戒するけどね、何かあってからじゃ遅いんだよ。注意するに越したことはないだろう」

「ええ、それに屋敷から遠く離れるのは二人とも初めてでしょう? やっぱり私としては、何かあるかもと心配してしまうのよ」


 おまけにお母様まで加わって詰め寄られる。三人とも、非常に息ぴったりですね?


「あ、あの……そんなに心配しなくても……ベルトランだけでなく、護衛の方や使用人もおりますし……」


 だから大丈夫、と念を押すが、アメリーとお母様はまだ少し不服そうだった。


「はぁ……心配だからいっそ付いて行きたいけど……ベルトラン君とフランの初デートを、邪魔するわけにもいかないわよね……」

「私も屋敷から出られるようになるには後三年くらい待たないといけませんし……ベルトランお義兄様……お姉様のこと、くれぐれも頼みましたよ……」

「お母様、アメリー……」


 だからデートではないし、そうそう危険なことをするつもりもない。どうしてこうもベルトランと出掛けるだけで話が大きくなるのやら。

 いっそ遠乗り自体を取り止めてしまうかとも一瞬思ったが、それではベルトランに悪いだろうと、その考えを振り払う。多少騒がれるのはもう仕方ないので、無視してさくっと行ってしまうことにした。


「もう行きましょうかベルン。お母様達にいつまでも付き合ってたら日が暮れてしまいますので」

「そうだね、それじゃあ、行って来ますねオルタンス様。フランは必ず無事に送り届けますので」

「はい、お母様、アメリー、行ってきます」


 二人に手を振り、玄関ホールを出る。


「行ってらっしゃいフラン、ベルトラン君。気を付けるのよ」

「お姉様、ベルトランお義兄様、行ってらっしゃいませ!」


 見送りの言葉を背にし、庭で待っててくれたアキへと乗り込む。同じくベルトランもサフィーの背に取り付けた鞍へと跨がった。


「ではアキ、ドラゴヘッドまでお願いしますね」

『ふむ、フランシーヌと小僧の初デートか。いささか思うところが無いでも無いが、まぁ飛んでやろう』

「アキ……貴方もですか……」


 まさか私の竜までそんなことを言うとは思わなかった。デートでなく、竜に乗って遠出をする練習だと言うのに。


『くかかかか。まぁあまり気にするな。お前の家族も私も、皆お前が好きなだけなのだ』

「……………………それはどうも」


 好きと言われると、なんだか落ち着かない気分になる。私がこんな風に好かれて良いのか、自分にそんな資格が有るのか分からないのだ。だって前世では誰も……そう、ちょっとだけ良いなと思ってた"彼"ですら……。


『我らは、その前世、とやらの人間達とは違うぞ?』

「それは……そう、ですが」


 どうしても、場違いな感じが拭えない――そう続けようとして、不意に腕を掴まれた。


「フラン、どうかしたのか!?」

「……ベルン?」


 気が付くと、ベルトランが必死の形相でサフィーの背からこちらに乗り出して腕を掴んでいるところだった。何をしてるのか、危ないではないか。そう言おうとした言葉が霧散する。ベルトランが、どこか泣きそうな顔をしていたから。


「その竜と話してたかと思ったら、急に様子がおかしくなったんだ。……どうした、アキが君に変なことでも言ったのか? 竜が友となった人間に危害を加えるとは思えないが、もし君が傷付けられたのだとしたら――」

「大丈夫です、大丈夫ですよベルン。少し……やなことを思い出してしまった、だけで……アキのせいじゃないのです、本当です」

「本当か? 本当なんだな? サフィー、本当か? ……そうか、ならいい……ありがとう」


 少し青ざめながら、ベルトランが私の腕から手を離す。それから、思い切り安堵した様子で深く息を吐き出した。

 竜は嘘を吐かない生き物だ。サフィーに一応の事情を聞いて、やっと納得してくれたようだった。


「はぁぁ……まったく、あまり心配させないでくれ、フラン。僕は君の婚約者だろう。さっきの君の様子ときたら顔色は悪いわ震えてるわで、無いとは思うが竜の背から落ちて死んでしまうかと思ったよ」

「それは……すいません……」


 そうまで言われるとは、私は余程ひどい顔色をしていたのだろう。分厚い眼鏡のレンズ越しでも、私を見付けてくれるベルトランを素直に尊敬する。


『くかかかか、好かれてるな、我が友よ』

「そのようですね……」


 初対面でかなり失礼なことを言ったというのに、どうしてベルトランはこんな私を気に入ってくれたのか、出会ってから二年経った今でもまるで分からないけど……彼が私の婚約者で本当に良かったと、そう思える。


「まったく、僕は今日のデートを楽しみにしてたんだぞ? きっと楽しいものになると思ってたんだから……ってどうしたフラン、肩を落として」

「べ、ベルンも今日のお出掛けをデートだと思ってたんですか?」

「え、フランは違っていたのか?」

「……ぴ、ピクニックだとばかり」

「……それはデートじゃないのか? それに、婚約者同士で出掛けるんだからデートだろう?」

「ベルンもお母様と同じことを言うんですね……」

「はは、オルタンス様は素晴らしい()()()()だとも。当たり前だろう」

「……うん?」


 なんか今、お母様の発音が少し違っていたような……既視感(デジャビュ)

 と言うかやはりこれはデートか。デートだったのか。そう思うとなんだか急に恥ずかしくなってきた。ちょっと帰りたくなってきたが、ベルトランもアキも誰も、許してはくれないだろう。


『我が友フランシーヌよ、諦めてデートを楽しむがいい。小僧だけでなく、サフィーも嬉しそうだしな』

「……分かりました。ええ、そうします。ドラゴヘッドは純粋に楽しみですし」


 きっとこちらでは見たこともないような学術書や研究所がたくさんあるに違いない。ドラゴヘッドにあるという、叡智の殿堂とも呼ばれる図書館も見てみたい。ああ、わくわくする。


「見えてきたよ、フラン。あれが学問と研究の国『ドラゴヘッド』の王都、ドラゴヘッドだ」

「わぁ……」


 地平線近くにある、大きな建物が密集している都市が見える。あれが今日の目的地、ドラゴヘッド。早く着かないかと、思わず鞍を握り締める。

 どんどん大きくなるその都市を前に、私は抑えきれない程の胸の高鳴りを感じていた。

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