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プロローグ

初連載です。よろしくお願いします。




「――本当、暁子って残念だよね。少しくらいお洒落したら?」


「いつもむすっとしちゃってさぁ、愛想笑いの一つでも、した方がいいんじゃない?」


「えーっ、顔はまぁ、結構いいけどさぁ、あの愛想の無さは、ねーって」


「いつもさぁ、何でそんなに怒ってるの? 怒ってない? ウッソだぁ。じゃあなんでそんなに仏頂面なのよ」


「本当、マジお局様って感じ。いつもうちらに風当たり強いしさー、ああなったらおしまいだよねー」


「北條先輩、ですか? ああ……あの、仕事面では尊敬してますけど……女性として見るのは、ちょっと」



 ――うるさい、黙れ。あんたたちに、何が分かる。そっちの価値観を、私に押し付けないで……!

 そうやって好き勝手なことばかり言って……ろくに仕事も出来ないクセに、何言ってるのよ!

 ……え? 嘘、君がそういうこと……言うの……?



「……はぁ」


 帰宅するなり鞄をテーブルにどさり、と置いてベッドに寝転がる。スーツが皺になるのも構わず、きつく目を閉じた。

 陰口も悪口も言われ慣れていると、思っていた。その度に聞かなかったことにして、そんなものに負けないようにと胸を張ってきたその筈なのに、今回はやけに気になったのは、それが少しだけいいな、と思っていた後輩だったからだろうか。

 有名大学を卒業した、前途有望な新入社員。その教育を任され、光栄だとばかりに喜び勇んで引き受けた。

 久々に出会った、自分と遜色ない程に能力を持った年下の男性に、高揚感を覚えたのは間違いないが、下心は持っていなかった。

 しかし周囲はそうは思ってくれなかったらしい。


「北條先輩もさぁ、ちょっとがっつき過ぎだよなー」

「そうそう、まぁ、行き遅れだから気持ちはわからなく無いけど、あそこまで教育熱心だとさぁ……」

「バレバレだよなー。もう少し上手くやれば良いのに」

「手取り足取り、もっと深くまで教えてあげますー?」


 ――ギャハハハハ、と下品な笑い声と、その集団の中で困ったように笑う彼の姿がいやに目についた。

 確かに、その後輩のことは特別に目をかけていた。彼の能力を伸ばすことに重点を置き、時にマンツーマンで指導してきた。だが、それだけだ。下心など、ましてや恋愛感情など持ち得る筈はないし、彼もそれを分かっている筈だと、そう思い込んでいたのは傲慢だろうか。


「もう、疲れちゃったな……」


 その場で訂正出来たらよかったのだが、留まることは出来ずに彼らに背を向けたのは、己が小心者だからだろうか。物心ついたころから勉強ばかりしてきたせいか、人との距離感が掴めないことがままあった。それが、恐らく誤解を生んだのだろう。

 そう分析はしてみたものの、ショックを受けない筈がない。彼とはいい信頼関係を築けていると思っていた。それこそが誤りで、思い上がりなのだと指摘されたような気分だった。

 その後、後輩と言葉を交わすことすらなく狂ったように仕事に打ち込み、漸く帰って来た時は深夜を回っていた。

 心も身体も疲れはて、指一本動きそうにない。幸いなことに明日は休みである。もうこのまま眠ってしまおうと目を閉じ――二度と、そのまま目覚めることはなかった。



 ――彼らがその、異変に気が付いたのは週明けのことだった。

 彼女から指導を受けていた後輩が、これまで一日も欠かさず来ていた彼女が無断欠席などおかしいと周囲に訴え、彼女が一人暮らしするマンションへと突撃したのだ。そこで彼らは、変わり果てた姿の彼女を発見した。

 前の週は特に気温が高く、深夜でも気温が下がらずに連日熱帯夜となっていたことと冷房が動いていなかったこと。及び帰宅してから水分補給した形跡もなく、スーツ姿で外傷も何一つ見当たらなかったことから、死因は熱中症であると診断された。

 ……彼女にとって幸いだったことは、殆ど苦しむことなく、眠るように息を引き取ったことであろう。





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