伝説の物語2
握り拳程度の大きさになった火球を、魔王の方へと向ける。
「火蜥蜴の火球!」
あっという間に人の半身ほど大きくなった火の玉を、魔法使いは放った。
「んなっ!?」
しかし、回復が足りなかったか。精度が悪かった。予想より上、魔王の頭上に向かう火の玉。
「まだでぇい!」
しかし、その上を跳ぶ男がいた。
鍛え抜かれた肉体はまるで金属のよう。さらに元素の扱いにも長けており知恵もまわる参謀役という反則級の人間。
後年、そんな彼は禿頭王と呼ばれることになるが、その時は誰も知る由はなかった。
「風よ、飛ばせぇい!」
魔王の頭上。魔法使いの火球を、殴りつける。これが戦士であり拳士である男だった。
おお、と感嘆の声をもらす魔王。
「なかなかのものだが、防げばどうということはーーぐぅっ!?」
「そうは、させません!」
パーティーの紅一点、賢者の魔法が魔王の動きを【遅く】する。
風と水の両方の最上位加護を受けた彼女は、動き・流れに干渉する魔法が使えるのだ。
「ぐううっ。ぬああっ!」
まとわりつくような賢者のスロウ魔法を強引に打ち破る魔王。飛んできた火球に右腕を突き出し、弾き返す。
天井が破壊され、夜空がみえる。そこから淡い無数の光が、広間に差しこむ。その中央に、勇者はいた。
カツンと、金属のブーツが石畳を打ち鳴らす。
「ーー光よ」
天の光は、総て精霊の光。その加護を、この世において勇者のみが受けている。
「勇者あああああっ!!」
魔王が振りかぶり、引き裂かんと吶喊してくる。しかし、微動だにしない勇者。
魔力を使い果たしその場に跪いている魔法使いは、ふと、夜空の光がすべてなくなっていることに気づいた。
光は、勇者の身体に集まっていく。
勇者の身体が、まばゆいほどの光に包まれていく。
「おおおおおおーーっ!」
身体を護る聖鎧を通し、精霊が宿るという聖剣に光が注ぎ込まれていく。
勇者は、剣を振りかぶったーー。




