伝説の物語1
幾度となく繰り返される撃音。
破壊されつつある広間は、石畳に夜色の紋章が施され、最奥にはそれに相応しい大きな玉座がしつらえられていた。
玉座に腰掛けるのは、魔王。頭よりも大きな角を生やし、ニヤリと口元を歪める。
その前には倒れ伏す数人の人間がいた。
「戦士、賢者、魔法使い!」
いずれも勇者の仲間として旅立ち、魔族に支配されつつあった各地を取り戻した歴戦の勇士たちである。
「さて、どうする勇者よ?」
玉座の主が声をかける。
「お前の仲間は、いやなかなかに強者だった。ここまで我を追い詰めるとは思わなんだ。ほめてやろう」
魔王は続ける。
「尻尾をまいて逃げ出してもいいのだぞ?なぁに、死んだことにしてどこか山奥でひっそりと暮らすがよい。うむ、それがいい」
「ふざけるな!まだ終わってはいない!ーー風よ水よ、皆に癒しを!」
四大元素、と人は言う。この世を構成する四つの元素が火、水、土、風だ。
どんな人間でも、基本的にはどれかの元素の加護が与えられている。どの程度のものか、そもそもそれに気づくかどうかはともかく。
勇者が聖水を振りまくと、それがにわか雨のように倒れた仲間たちに降り注ぐ。
さすが勇者というべきか。風と水の加護によって、聖水の効果を増幅させた。
「ほう、面白いな」
まるで芸をみているかのように闇色の瞳を輝かせる魔王。
「そんな態度をとっていられるのも、今のうちですよ!」
一足早く復帰した魔法使いが、手のひらを擦る。火蜥蜴の紋章を刻まれた手袋を装備しているおかげだ。それだけの動作で火をおこす奇跡がなされる。
魔法使いとしての名家にうまれ、その才能に慢心することなく努力を続けた魔法の天才。それこそが、この魔法使いであった。