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第4章 もう一つの世界

すると、目の前が一瞬暗くなり、次の瞬間視界が開けた。


「な・・・なんなんだここは」

葵は唖然とした。葵の表情が段々と歪んでいく。

何故ならば。

葵の目が捉えたのは、廃墟の街だったからだ。

半壊したビル。窓ガラスが割れて逆さまに転がっている車、地面にはガラスやコンクリートの破片があらゆる所に散らばっており足の踏み場も無いくらいだった。

そんな自分が立っているのは、スクランブル交差点ののど真ん中だった。


後ろから誰かに右腕を掴まれる。

「葵くん!急いで移動するよ!早くしないとゾンビに囲まれる」

ミリルだった。

ミリルは葵の腕を掴んだままビルの中に逃げ込み壁の後ろに隠れる。

「おい。ミリル。これは一体・・・」

ミリルは、静かにしろというふうに葵の唇に当てる。

「しっ、静かに。ゾンビに見つかる。ゾンビは多分私達の気配を感じてあそこの交差点に来る。もし、五体より多くいたらここでゾンビが消えるまでやり過ごそう。五体以下なら行こう。銃は太股にあるから、私が前に出る。葵は後ろで私を援護して」

「うん。分かった」


ミリルと葵はそう言って、前のビルの壁に移動し息を潜める。

「ここで相手の出方をしばらく見ましょう」


ミリルの背中まである銀髪の髪からほんのりと花の良い香りがする。

薔薇の匂いだろうか。

ミリルの髪の匂いのせいなのか、VRの世界の中だとはいえ、人生で始めてリアルにゾンビに襲われているからなのか、心臓がドクドクと鼓動を打つ音が聞こえる。


四方へ散ったゾンビ達の一部がこちらに向かって歩いてくる。まるで、死体が自分の意思で動いているようだ。

その恐怖心ときたら!

ゲームの中では、いくら人を銃で撃ち殺しても、ナイフで刺し殺しても、なんとも感じないのに、こうやって実際に向かいあってみると、死体が動くというのはなんとも恐ろしいものだ。


そのゾンビ一人一人にも(一体一体と言うべきか?)家族がいるはずで、不老不死というのは、人の夢であるわけだけれども、それは、病気にもならず、肉体的、精神的、認知的に全く衰えが無く、永遠と生きているのが理想像なのだと思い知らされる。


目の前のゾンビ達を見ていると、体が死んでも、動くという自然の摂理に反した生物というものは、恐怖を感じずにはいられない。

これが、人間なのかと、それはまるで、生き物、生物という存在を侮辱しているかのように思えた。


それにしても、ミリルの息遣いは、自分とは違ってとても落ち着いていた。

このゲームに相当慣れているのだろう。


ミリルは拳銃を構えて前へ出てゾンビ達に向かって銃を三発撃つ。

弾は全てゾンビの頭に当たった。

ゾンビの頭には穴が開き、灰のようにサラサラと粉となって消えていった。


あの女全部ヘッドショットかよ!

上手すぎだろ!


ミリルが俺に向かって少し焦るような声で、

「早くゾンビに向かって撃って!やられちゃう!」

「あ、うん」

俺は、拳銃を取り出してゾンビに向かって焦点を合わせ、引き金を引く。


弾は、見事にゾンビのこめかみに当たり、細かい粉となって消滅した。

「へぇ~」

ミリルは、感心したような声を出して、

「葵くんは、こういうシューティングゲームとかやったことあるの?初めてって言っていたけど、いきなりヘッドショットなんて凄いじゃない!」


ミリルと俺は、お互いに向かい合わせに立って銃を構える。

美人で可愛い女の子に褒められて少し照れくさくなる。

「まぁ、生きていた時に一通りのジャンルのゲームはしたから」

「へぇ、それじゃ結構ゲームは好きな方なんだ」

「まあな」

「それじゃ、この世界では、結構生きやすい方なのかもね」


ミリルは、そう言って残り三体となったゾンビにヘッドショットを喰らわした。

「あそこの車に隠れるよ!」

俺とミリルは、窓が全壊している車の陰に隠れた。

「葵くん、ポケットの中にマップが入ってない?赤いボタンが付いた灰色の棒みたいなやつ」

「あるよ」

「よし!それじゃ、今いるところとセーブポイントを確認しよう」


ミリルはそう言って、赤いボタンを押した。

すると、地図のようなものが浮かび上がってきた。

手を突っ込んでもすり抜ける。電子映像で恐らくできているのだろう。

ミリルは、地図に示されている所に指で指しながら丁寧に説明をしてくれた。

「良い?今私たちがいるところがここ。で、ここから右後ろにある建物を通り抜けると、広場があるから、そこにセーブボタンがあるから一応、そこまで行きましょう。でも、この広場には中ボスがいるからここは、慎重に行きましょう」

「うん。分かった」

俺は、素直に頷く。


いつもなら、反抗をするところだが、経験も腕もこのミリルという少女の方が圧倒的に上のようなので、彼女に従うことにした。


葵も、様々なVRゲームを数え切れないくらいやって来たつもりだったが、まだまだ、上には上がいるものだなとつくづく実感すると同時に、このミリルという少女に感心した。


「良い?理解できた?因みに、ゾンビがどこにいるのかは私にも分からないからね。常に周囲の警戒を怠らないようにね」

「ああ、分かった」


俺と、ミリルは右側にある建物に入って行った。

その建物も他の建物と同様に殆ど崩壊しており、いつ崩れ落ちてもおかしくは無い状態だ。

コンクリートの臭いが鼻をつく。

ミリルが先頭で俺は、その後ろについて行った。


時々、ガラスの破片やコンクリートの破片を踏んで転びそうになる。

俺とミリルは、ゆっくりと周囲を見渡しながら前へ前へと進んで行く。

ここまでは、ゾンビは一体も出てこなかった。が、だからと言ってこの後もゾンビが出てこないという事にはならない。

ゾンビはいつ、どこから現れても可笑しくないのだ。


「いい?この通りをまっすぐに行った広場にセーブポイントがあるからそこまで走って行くよ。ゾンビが出て来ても無視して。でも、どうしてもゾンビの攻撃が避けられないっていうのなら倒して。それが、今回の作戦よ。中ボスは、何が出てくるか分からないから、その場で対応するしかない」

「うん。分かった」

行くよ、というミリルの掛け声と共に俺とミリルは直線の道を突っ走った。左右からゾンビが上の階から飛び降りて来た。


どうやら待ち伏せをしていたらしい。

無視だ!

無視をするんだ!

俺達は次々に空から降ってくるゾンビを避けながら、既に目の前に見えている広場まで走り抜ける。


ゾンビは 、葵とミリルの方に向かって来る。

それでも二人は広場に向かって走り続けた。

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