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お題スレ投稿作品集

遺品の整理

 先日、祖父が亡くなった。葬式も終わり、今は遺品の整理をしているところだった。


 幼い頃には祖父に懐いていた俺も最近では都合が合わないことも多くなり、介護サービスを受けるようになっていた祖父とも距離が出来てしまい、そのまま最後の時を迎えてしまったのだ。

 もう少し話していればと後悔するもののそれはもう既に過ぎたこと。


 大好きだった祖父の事を思い出しながら、遺品を整理していく。整理しているのは俺と祖父の娘である俺の母の二人だけだ。博打好きのダメ親父は金目の物を見つければ何を言い出すかわからないので家に置いてきた。


「……なんだこれ?」


 遺品を整理していく内に、何やら妙なものを見つけた。古めかしいが大事に扱われていたのか手入りの行き届いた木箱がある。幼い頃は結構な頻度で入り浸っていたものだが初めて見たものである。

 好奇心も合わせて、整理するためにその箱を開けてみる。するとその中には、クナイや手裏剣、黒い装束などが仕舞われていた。いかにも忍者と言った風情である。


「なぁ母さん、これ何?」

「え? あぁ、父さんまだそんな物持ってたのね」


 母親が何か知らないものか尋ねてみたら、なにか知っている様子だ。


「それ、昔からずっと大事に持ってた物よ。本物らしいから手を切らないようにね」

「え? これ本物!?」


 まさかの本物発言に驚いた。


「道具がってだけよ。今時、忍者なんているわけないじゃない。あ、でも一日だけ、本物の忍者だって言う日もあったわね」

「あ、それ、俺も覚えてるかも」


 そして俺は思い出す。祖父が元気で俺も入り浸っていた頃、祖父が自分は忍者だと言っていた事を。


「爺ちゃんな、昔は忍者だったんじゃよ」

「え! そうなの!? 爺ちゃんすごい!」

「そうじゃろう。巨大な悪の組織を壊滅させたりもしたんじゃよ?」

「え! そんなのいるんだ!」


 そう、そんな感じで祖父は自分の事を忍者だと言っていた。幼かった俺は随分と食いついて色々語ってもらっていたものだ。あぁ、そういえばそれが嘘だということを分かるような年になってから、なんだか騙された気になって入り浸る回数が減っていったんだった。

 今考えると孫への遊びのサービスだったのかもしれない。今更になってなんだか祖父に悪い事をしてしまった気がしてくる。


 確かに祖父がそれを言う日は決まって四月一日。つまりエイプリルフールだ。初めから嘘だとは示されていたのだ。

 今更かもしれないが、墓参りをする時に祖父に謝ろう。


 そうして、俺と母は遺産の整理を済ませ、帰路についた。




「……おい、ちゃんと回収しておかないか!」

「すみません、頭領。まさかまだ忍び装束を持っていたとは思わず……」

「……まぁいい。我らの存在には感づかれてはいないようだ」

「……頭領、彼らには言わなくても宜しいのですか?」

「奴が家族には受け継がせないと決めたんだ。下手な博打は打てんさ。それに我らは影に忍ぶ者。知らないなら、そのほうが良い」

「それもそうですね」


 そうして二人分の人影が暗闇の中へと消えていくのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 実は、頭領が祖父当人で、亡くなったのは影武者だった、としたほうが面白いかも知れない。
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