これからの未来は、つづら折りよりはなだらかだよね?
最終話。
「これ限界。倒れる」
「この倍は積んでくれよ!がんばれ三雲。これタイトル『つづら折り』なんだから、つづらってくれなきゃ」
包丁とリンゴを持つ蘭治とA4の用紙を持った吉沢のせり合い。
「何でもいいから早くしてくれ。ここら辺だれすぎ全部カットだし」
カメラを構え欠伸をする林。吉沢の持つ紙には薄く螺旋状にスライスされたりんごが高くそびえ立つ図がプリントされていた。
「自分は思い付かないからデザインしてくれって言ったの三雲だろ!」
「図は頭に浮かぶけど不器用で包丁使えない吉沢が言うなよ」
言い争う二人の前で冷静に言い放つは林。
「あんまり鼻息荒くするなよ。揺らぐぞ」
とたん蘭治と吉沢は息を飲んで目の前のフルーツ盛りを見つめた。三雲家のダイニングの空気の対流はピタリと止まった。
「集中!すれば成さざるも成る」
蘭治は深呼吸し、再び包丁を動かし始める。サクリサクリと。
「できた!」
息を殺して蘭治と吉沢が感極まった声を出す。卓の上にはデザイン画と同じようにそびえ立ったつづら折りの林檎スライスと、その塔が収まったくり抜きパインとそこを埋める色鮮やかなフルーツ群。
林がカメラを動画から静止画に切り替え構え直す。
自身が写らないよう身を引いた蘭治が不意に慌てた声を出す。
「おいまたかよ、それ水っぽくてまずくなるんだけど」
「映え、映え」
カメラを覗いたまま答える林はクレームを受けた霧吹きを止める気はなさそうだ。吉沢は蘭治の肩をポンポンと叩きながらまな板の上に取り残されている、キズの付いたもしくは小粒の『映えない』ブドウを摘み口に入れた。
「仕方ない、林にかかったらそれは“被写体”だ」
蘭治も仕方なさそうにキッチンの調理台に転がされた二分の一の林檎を皮ごと齧った。旨い。
「にっが、かっら。何この葉っぱ?」
林檎を味わう蘭治の横で吉沢が顔をしかめている。ミントだよ、と蘭治は答える。
「お前が描いた絵に一番似たやつを選んだらそれだったんだよ?」
吉沢は口直しとばかりにバナナを齧った。そしてふと思い付いたように口にした。
「もう少ししたら栗とか柿とかで秋のやつやんないか?」
飽きずにいろんな角度からのショットを捉えていた林が手を止め激しく頷く。
「まかせる」
蘭治は一言答える。本音を言うと美には興味のない蘭治。しかし図の通りに精巧な作品を作るのは充実する時間なのだ。物理的に難しそうな形を何とか再現した時の達成感はたまらない。
対してイメージを広げ、降臨してきたインパクトを掴み、絵を描くのは神業だが、実技となるとてんで不器用な吉沢。
そして林は撮影、加工のあと自らのアカウントにアップロードする役目だ。
「この前の、ビュー三桁行ったな」
「だな」
「にしても」
蘭治は耳に入っているか怪しいが林を見やりながら言う。
「職業訓練スピード退学だったな、ほんとに」
「だってよ、受験生になったんだから」
即座に返答する林に、聞こえてたか、と蘭治は笑った。
Word・Excelメインの職業訓練で画像撮影・加工・挿入に魅入られた彼は、身悶えしながら親に土下座して写真専門学校の学費(とカメラとソフトを買う金)を出して貰う話を付けたのだった。
林の『訓練やめた』という報告にはいつもの事と平静に対応した蘭治と吉沢だが、後段の『専門学校を受ける』には驚愕を隠せなかったものだ。
「この周りへの散らばりと出来栄えのギャップも話題になり始めてるらしいぞ」
吉沢がまな板や調理台に飛び散ったフルーツの皮や芯、切れ端を指して笑った。うるせ、と言って蘭治も笑う。
「よし、撮り終わったよ」
「じゃもう一息、動画第二クールはおれ行くよ」
そう言ってスマホを構えたのは蘭治だった。頷いた吉沢が端に控えていたジューサーをテーブルに乗せ、カメラの前で掛け声をかけてフルーツ塔を崩し、そこに放り込んだ。そして蘭治がスイッチを押す。少し薄めの生ジュースができた。
それから、三人は卓に着いて残っていたフルーツを齧る。
「三雲も、キャバ嬢に囲まえてると環境よすぎて辞められないみたいだな」
「ブラックでも!」
吉沢と林の茶化しに蘭治はぶっきらぼうに答える。
「次どうするか考えてから辞めるだけだよ」
「いいじゃんこれでプロになれば」
林はバナナ片手に今撮った画像を再生させながら焚き付けるように言った。
「一体これなんのプロだよ?」
「うーん、ユーチューバー?」
「夢見るなよニート」
蘭治は皮を返した二分の一のキウイに吸い付きながらツッコミを入れた。おれは“受験生”だ!と林が答えた。




