真夜中の自白ドライブ
「えー、毎年恒例のオールナイトバーベキュー、今年もやります!との、会長からのご通達です」
終礼での課長の発表。それに対しキャスト達からはさまざまな波紋が起こった。
「にくー!」
「じるー!」
「酒でしょ、まずは!」
「あたしムリー」
「やだ日焼けする」
「いや夜でしょ?」
それらの囀りを鎮めるように課長が声を張る。
「日時は!来週日曜の閉店後。場所は荒井川河川敷。飲んでる人と交通手段がない人は店の車に乗せていきます」
「ねえ、それ無料?」
「すべて会長の奢りです」
課長のその言葉に女子の一部から歓声が上がる。他、3分の1ほどは古株で事の流れを把握しているとばかりに頷いている。残り3分の1は無関心の色丸出しだった。
「参加希望者は木曜までに店長に言ってください」
蘭治は、行ってみたい気もするけど、自分みたいなのが行って浮かないかな、やめとくか、と迷いだした。その時心の声が聞こえたかのように課長が彼に目線を合わせ言い放った。
「男子は全員出席ね」
*
その日蘭治の送りに割り振られたのはノアだった。
車中で蘭治は、去年のバーベキューに出席したというノアに詳しい話を聞いてみた。
「その日はお店早めに閉めて、みんなで川原向かって、始まったのは2時とかかな?」
「真っ暗じゃない?」
「会長の発電機とか使って」
あのなまっ白い会長、ああ見えてアウトドア好きなのだろうか。活動時間が夜だから日に焼けてないだけ?
「で、朝まで?」
蘭治はルームミラー越しにノアの顔を伺う。
「あたしは五時くらいに眠くなって帰っちゃったけど。後で聞いたら九時くらいまでやったみたい」
当然ボーイは最後までいて片付けをして会長や女子を送り届けるところまでする。それで次の日は通常営業したという。なんてブラック労働なんだろう、と蘭治は戦慄した。
「女の子は飲んで食べてだけど、ボーイさんは運転があるからってお酒我慢してた。岸くんの飲みてー!て雄叫びが響いて草……あ、」
蘭治はハンドルを切りながら首をかしげた。なぜ岸の話になったら急に止まるのだろう。
交差点を曲がり切るまで、沈黙は続いた。蘭治が妙に思っていることを察したのか、ノアはためらいつつ切り出した。
「なんか、実はさ……てか絶対言わない?」
言う、なんて答えるわけがない。
「岸さん関連……?」
蘭治が問うやいなや
「ごめん!」
突然ノアが改まった声を出す。びっくりした蘭治は、目は前方に向けながらも聴覚だけ後ろに集中した。
「岸くんと楓さんのこと殆どバレてて。でミレさんに操られた店長に圧力かけられて、二人は追い込まれてたんだ。で、あたしとミアは岸くんに色々相談されてて……」
「はあ」
蘭治は改めて一人だけ何も気付いていなかった自分の間抜けさを感じる。ノアは話を続ける。
「そんな中、あのカラオケの日になって。あの日ベートーベン飲みに来たでしょう?」
確かにあの日ベートーベン来たな。いつもより酔っ払ってて、楓の肩組んだりしてたんで、課長が注意して見てたや、と蘭治は回想する。そしてそうか、と合点する。
「もしかして岸さんがベートーベンをやったのって…」
「そうその日なんだよ。ベートーベンがお店を出た時きっしーが付いて出てさ、ぶん殴っちゃったわけ。でベートーベンは逃げていったけど、そんなん明日にはバレるだろって話でしょ。そんで急遽逃亡計画決行ってなった。で私らは急に呼び出されたわけ」
「…どういうこと?」
「協力したってこと、きっしーと楓ちゃんの逃亡に」
「は?」
蘭治が疑問符を投げた瞬間信号が黄色に変わり、普段なら通過してしまうタイミングだったが、とっさにブレーキを踏んで停車した。
「協力って?え?」
誰も通らない郊外の交差点。灯った信号に従い、二人は鉄の小箱の中でただ座っている。
「あのカラオケ行った時も、岸くんに雇われてて、ラーメン屋で合流したのもシナリオ通りだったんだ」
てことは……蘭治が脳内で事をまとまるよりノアの言葉のほうが先だった。
「ランちんに疑惑がかかるようにしたんだよ、逃げる時間稼ぎのために」
はあ?
蘭治は絶句した。自分がハメられてた?陰謀に巻き込まれてた?一般善良市民の自分が?と、なかなかしっくり噛み砕けなかった。
「青だよ」
ノアの声で我に返った蘭治は慌てて前方の信号機を見上げアクセルを踏んだ。
「ごめん。取り調べ、怖かったよね」
ノアはまた謝ってきた。
「いや、それは平気だけど」
蘭治は見栄を張った。
「疑い晴れたし」
「あたしもほっとした。自分でやっといて言うのもなんだけど、やってから怖くなって」
ノアの、普段と違う細々とした声を聞いていると、蘭治の中の湧きかけた怒りも、爆発できずに消化不良になる。
そこでふと気付いた。
「そういえば、最近ミアさん来てないよね」
「……」
車内に響くのは、タイヤと路面の擦れる音だけだ。その音を聞きながら蘭治は、この話のこれからの展開にあまり良い気配を感じられないでいた。




