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ついに言えるこのセリフ『こないだ2×2でカラオケ行ってさ〜』

 岸はジョッキを握ったまま俯いていた。

 蘭治は、また何かしら地雷を踏んだかな、と構えた。割り箸の袋よりランクアップしたものが飛んできてもいいように。


「だろ?」


 おもむろに顔を上げた岸は大げさに目を見開いて言った。そして続ける。


「課長も楓ちん推しだし。流れはそっち向いてるでしょ」


 流れ?そうなのか?関係ないと分かりつつも蘭治は子供の頃兄やその友人とよく行った川のせせらぎを思い浮かべた。


「今は店長と古株のミレレミが仕切ってて、新しい子がやりずらくて根づかないじゃん?その点楓はマイペースでいちいち人に干渉しないから」


 岸は嬉々として冗舌に語り始めた。長いセンテンスの苦手な蘭治は急に酔いが回ってくるのを感じた。 


「あれ、なにやってーん」


 蘭治の眠気をつんざいたのは聞き慣れた女の声。顔を上げたそこにあったのは。


「お稲荷……」  


 もといミア。


「え?このラーメン屋お稲荷さんあるの?食べたい!」


 ミアに連れ立っている相棒ノアは壁に貼られたメニューに見入る。しかしその思いはすぐにおすすめメニューの冷し担々麺で上書きされたようだ。


「なんだよ〜ここ座るよー」


 ミアは岸の横に、ノアは蘭治の隣に席を陣取った。岸も歓迎している。蘭治も、岸の語りと自分の眠気にストップがかけられて安心していた。


「仕事終わりにノアちんとカラオケ行ってたんだけどー、なんかノらなくて上がってきた」


「腹へっちっちだしなー」


 ミアとノアはそう言ったあと、店員を呼んで争うようにオーダーを連呼した。


「すご、テンションたか」


という蘭治の言葉は、『チャーシューメンマ!』や『豚足!』という彼女たちの叫びにかき消された。



*


 昇りきった朝日のもと、支える岸の体は重く、かつ密着した肩辺りは暑苦しく不快だった。それらプラス通勤歩行者の冷たい視線にひたすら耐えながら蘭治は駐車場にたどり着いた。


「じゃ、お疲れさまでした」


 蘭治はほぼ寝ている岸を車の運転席に押し込み、冷たい棒読みで挨拶を放つ。ドアを締め回れ右をし、軽くなった肩を回しながら歩き出す。


 三回も吐いた。

 岸とのラーメン屋なんてアルハラと呼ぶにはまだまだだった。その後のミアたちとのカラオケに比べれば。


「だいたい、カラオケ飽きてラーメン屋来たんじゃないのかよ」


 そんな理屈は通用しなかった、あいつらには。さすが飲ませのプロ。


 目がしょぼしょぼする。口が乾く。


「眩し」

 

 朝日ってこんなにやな奴だったか?


「親に怒られるかな」


 まあでもまた吉沢たちとの集まりで話すネタができたな。

 しかも、曲がりなりにも女子とのカラオケ。実態は女子たちに飲まされ歌わされどつかれ…パワハラ接待みたいなもんだったけど、一応は紛れもない事実、


『こないだ2×2でカラオケいってさ』


 なんて。しびい!あいつらより一歩リード!


「あ」


 前から歩いてくる、見覚えのある顔。


「ランくん。おはよ〜今帰り?」


「サキさん!」


 正面の朝日が、まさに後光になっている。



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