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絶対領域

 その場の風景が撓むような錯覚さえする空気の重さに、お茶を持ってきた私は怯んで息を飲む。

 息苦しいほどの沈黙。空気が見えない重量を持って体へ伸し掛かるプレッシャーは半端ない。

 ジョナサンが愛した古き良き時代のちゃぶ台には3人の男と一つのタブレットがあった。

 プチ情報として漫画かアニメに出てきそうなシンプルな丸形のちゃぶ台だが、実は紫檀使用のお高いものらしい。


 長男のベンは仕事中のため、自分が座る席にタブレットを置いて画面の中から参加。仕事しろ。

 次男のテディはアニメTシャツで参加。普通の服を着ろ。

 三男のジンは上半身裸で参加。普通に服を着ろ。

 四男トニーは高校の制服で参加。普通に普段着にしろ。


 私はそっと3人とタブレットの前にお茶を置く。前にタブレットだからとお茶を置かなかったら、画面の向こうからクールビューティーが悲しそうに「ママ、差別と贔屓はいけない」と言ったから、今回はちゃんと置いておく。

 ママじゃないし、タブレットの前にお茶って遺影みたいだし。


 ちなみにお茶は夏の定番、麦茶です! トニーは番お砂糖入りね!


 四人の前に麦茶を置いた瞬間、それがスタートだったかのように、熱い議論が始まりました。


『私は現状維持のままでよいと思う。今までも問題なく行われてきた懸案だ。変に手を入れて環境を変えるのは好ましくない』

「守勢のみに走るのはよくないとおもうよ? 周囲の環境が変わるのに、こちらだけが変わらないというのは適応できていない事を示すし、逆に悪目立ちするんじゃないかな?」

「まず斥候が必要だろ。何事も情報を収集するのが先決だ。周囲の環境と状況を見据えてから動いても遅くない」

「でも狙い時を外せば、逆にこちらだけ取り残されてしまう可能性も大きいよ!? 判断が慎重なのと鈍重なのは違うよ」


 ――私は喧々諤々と始まった議題に遠い目になりました。

 ジョナサンが遺した自慢のハイスペックな息子たち。

 ジョナサンが有してきた巨大な利益を生む財団と資産総額は計り知れないとのこと。

 彼らはジョナサンが遺した莫大な財産もそれぞれに継いでいます。

 財団や資産を管理し守り運用する義務。それはしがない高校生である私でも大切なことと理解できます。

 こうやって兄弟で話し合いながらジョナサンの遺志がより良い形で守っているのでしょう。


 でもね?

 その内容はね?

 今回のはそうじゃないよね!?


『ママの制服のスカート丈はそのままでよろしい! それ以上短いのは危険すぎる』

「駄目だよ、ベン! 日本には女子高生のスカートには絶対領域ってものがあって、ママの絶対領域のために3,6ミリは裾をカットしないと!」

「夏休みが終わった途端に攻め過ぎるのは、むしろママが舐められたりしないか? 捺デビューとか言われないか? まずは1センチ単位で様子をみるべきだ」

「中途半端なカットは余計に恥ずかしいよ? 攻めるなら攻める、守るなら守るに徹したが良策だよ。それよりママの制服をオーダーメイドにした方がいいって。生地が違うだけでエレガントなママになる!」



 ――奴らは大まじめに私の制服のスカート丈について議論しています!!


 なにやってんの!

 残念イケメン極まれりだよ!


『オーダメイド案は悪くないが、今回に限っては却下だ』

「そうだね。10代はファストファッションでも可愛くなれる稀有の時期だからね。背伸びはよくないよ」

「制服は群にして個。個にして群を示すものだろ。一人だけ突出すると攻撃されかねない」

「ええ、でも高校生のママが一番長く着るのは制服でしょ? そういった部分をきちんとしたものにするのは愚策と思わないけど」


『「「一考の余地はあるな」」』


 ――ないよ! ないからね! スカート丈ごときで愁眉を寄せないで! イケメンの憂い顔って眼福だろうけど、理由を知る身では見ているだけで居た堪れない!!




 夏休み後。

 私の制服のスカート丈はどれくらいになっているのかな、ジョナサン……。

 私に決定権はあるのかな……。



 あと、夏休みの課題をしたいので、早く自分の部屋に帰るか仕事してよ! ここはジョナサンの部屋で私の部屋だし! 女子高生の部屋でスカート丈を議論するイケメンって、精神的に辛いから出て行きなさい! ジョナサンの息子たち!

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