第二回~序章~「退屈な人生」
―――今日もまた、平和で退屈な日常が続いていた。
目覚ましの音と共に目を覚ますと、窓からは優しい春の日差しが部屋に差し込んでいた。
眠い目を擦りながら台所へ向かう。
「おはよう」
…と言ってみたものの、返してくれる人は居ない。が、もう慣れたので虚しくはならない。
朝食はいつもと同じパン一枚に、サラダと牛乳。朝は苦手だしお腹もすかないから
これくらいで済ませてしまう。
朝食を食べ終え、顔を洗い、歯を磨き、髪を整えて少しだけ化粧をする。
特にモテたいとかそういう気持ちは無い。だけど、"一応"女の子なので。
高校へは徒歩で行ける。いつも通りの道を行き、いつも通りの時間に教室に着いた。
そしてつまらない授業を受け、一先ず午前の授業はおわった。
…さあ、地獄《ひるやすみ》の時間だ。
私には友達がいない。まぁ話しかけてくれる人がたまにいるが、
友達とは思っていない。
周りを見ればクラスメイトはみな4人から6人のグループを作り、
固まって弁当を食べている。
これだからさらに一人で食べている人間が浮いて見える。
もう「ぼっち」と呼ばれる身で何年か学生をやっているが、これだけは慣れない。
少し彼らの会話に耳を傾けてみれば、女子は化粧道具の話や最近ネットで話題の動画やらなんやら
の話で大盛り上がり。なかでも特に好きなのは恋愛の話と他人の悪口らしい。
よくもまあそんな中身もない薄っぺらい話が飽きずにできるもんだ。
男子の集団に目をやると、大方携帯のゲームに熱中している。
そんなくだらないことをするために"友達"ってのが必要なら、私は友達なんて
要らない。一人の方が何倍も有意義に時間を使える。
「そんな考えのやつに本当の友達なんてできる筈ない」と言われれば、
まぁそうなんだが。
そして午後の授業も終わり、帰宅する。
もしかしたら私は世界で一番退屈な人生を送っているのではないかと思う。
そういうギネス記録とかあるのかな。いや、あるわけないか。
今日も自分で作った夕食を食べながらそんなくだらないことを考える。
…一日が一行で表せてしまう人生。こうなったのは決して偶然ではない。
最初から決まっていたことなのだ。多分。
―――私の名前はエルミールバルザック。みんなと何一つ変わらない、普通の
女子高生…ではなく、私は俗に言う"陰キャ"だ。なにかとクラスから
孤立してしまう可哀想な人。大抵教室の隅の席で本を読んだり課題をやったりしている、
孤独な人。
言い訳をするわけではないが、こうなったのには私の育った環境に問題があると思う。
これは私がまだ幼かったころの話だ。多分小学2年生くらいだったと思う
…両親が二人して亡くなった。死因は分からない。病気なのか、事故なのか、
自殺か、他殺か…。でも二人同時に亡くなってしまうなんて、きっと何かがあるに
違いないと思う。まぁその真相を知りたいとは思ったことないけど。
両親が亡くなったときはすごく悲しんだと思う。甘え盛りの小学2年生の女の子から
急に親を奪うなんて、神様もたまにもの凄いことをする。
でも今となっては8年も前のこと。正直親の温もりなんて覚えていない。
でも、これが私の運命であり、人生。
だからそれを嫌でも受け入れるしかない。
その環境のおかげで、私は他人の温かさを受け入れなくなっていた。
自ら拒んだというよりは、身体が、心が受け入れなかった。なぜかは分からない。
そのうち私は、30名以上居る教室の中で、たった1人の生活を送るようになっていた。
同じ囲いに入れられているのに、私は1人だった。
ああ、いかんいかん。この感情に呑まれるとさすがに私も心に来るものがある。
取り合えずお風呂入って寝よう…。
―――私は明日も、また歯車のような生活が待っているのだと思っていた。
いや別に嫌ってわけじゃないけど。
しかし、その予想…をしていたわけでもないけど、
人生を大きく覆されることになるとは、まだ誰も…というか私しかいないけど、
思っていないのだった。