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現在、ピッコマ様にて『公爵さまは女がお嫌い!』のWEBTOONが始まっております!
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神である父は、この世を纏めるただ唯一の種として、ペイル人を作り給うた。
それからしばらく、世界はペイル人によって一つにまとまっていた。
そこには国境も争いも差別もありはしなかった。
それらが生まれたのは、他の人種が生まれてからだった。
彼らは一つだった土地をいくつかに分け、身分を作り、差別を始めた。
差別はやがて大きな争いとなり、彼らは戦争というものを作りあげた。
ペイル人以外の人種は、神である父の力を削ぐため、悪魔が作り給うた種だったのだ。
だから我々は、奪われたものを取り戻さないといけない。
散り散りになってしまった同胞を集めなければならない。
別れてしまった国を一つにしなければならない。
そうすれば差別がなくなり、争いはなくなり、戦争なんてものは起こらないのだ。
まずはこの国から。
同胞が最もいるこの国から、我々は取り戻さなければならない。
あの腕輪がこの土地を統べる者の証だというのならば、我々が持つべきなのだ。
..◆◇◆
深夜、雲ひとつない夜空の下で、男は馬車を操っていた。
彼はペイル人とジスラール人のハーフで、それ故にペイル人の特徴的な褐色の肌に白銀の髪という特徴を持ってはいなかった。ペイル人の特徴は他の人種と混じり合うと、すぐに上書きされてしまうのだ。したがって、男の見た目はほとんどジスラール人で、それ故に組織の中ではこういった仕事につくことが多かった。
男が操る馬車の前後には、同じような形の馬車が並んでいる。馬の鼻先は皆一様に王都を出るための門へ向いていた。馬車の列は二列あり、男の馬車は進みが早い方の列に並んでいた。
腕輪が国王のもとからなくなってから、王都を出るためには厳しい検問を受けなければならなくなった。その検問の厳しさは、鼠一匹どころか、蟻の一匹も通す気はないようで、腕輪を持ったまま通るのは自殺行為だった。
しかし、この度とうとうそれが緩和されたのだ。理由はエリックの誕生祭だ。国一番の祭りを前に、どうやっても検問を緩和せざるを得なかったらしい。しかしながら、すべての馬車を簡易な検問で通すことはできない。それが許されたのは、国王のお墨付きである三つの商会の馬車のみだった。
男がいる列に並んでいる馬車は、お墨付きをもらったいずれかの商会の馬車だった。
無論、男が操る馬車は商会の馬車ではない。いや、馬車自体は奪ったのもなので本物だが、通行証は偽造したものだ。しかし、偽造は完璧だった。なぜそう言えるかというと、今までにもこの偽造通行証で彼らはこの門を幾度となく通過してきたからだ。金箔を織り込んだ特別製の紙に、王家を表す獅子の印鑑が押してあるそれは、紙の入手こそ難しかったものの、簡単に偽造できた。これがあれば、このぐらいの簡易な検問ならば通れるはずである。
(後はここだけだ。ここだけ通ってしまえば、後は仲間が迎えに来てくれる)
簡易な検問と言っても検問自体はある。順番を待っている間、彼は緊張を押し隠したまま、手綱を握っていた。
そのままあまりにもゆっくりと時は流れて、とうとう男の馬車の順番になった。
正直このまま朝になってしまうのではないかとやきもきしていたところだった。
二人の衛兵が馬車についている紋章を確認して、積荷をさっと確認した。一応、軽く手を伸ばして布の掛かっている積み荷を覗いたりする。そして最後には、馬車の下を確認した。
「ん。もういいぞ」
素っ気なくそう言われ、肩の力が抜けた。そうして馬車を走らせようとした時。
「ちょっと待て!」
そう呼び止められ、背筋が伸びた。
衛兵は手のひらを男に差し出す。
「通行証」
「はい。すみません」
男は懐から通行証を出す。
衛兵は、偽物であるそれを持ったまま近くの小屋の中に入っていく。
そして、しばらくの後、通行証を持って帰ってきた。
「よし。気をつけろよ」
衛兵は男にそう言って、視線を後ろに並んでいた馬車に向けた。
男はそれでようやく自分が最大の難関を突破したのだということを知る。
馬車を操り、門をくぐると、そこはもう王都の外だった。
男は胸をなでおろしながら馬車を走らせる。振り返ると、王都を囲んでいた背の高い壁がだんだんと遠ざかっていく。それが夜の藍で完全に見えなくなって、彼はようやく安堵の息をついた。
「うまく行ったな」
男の心を代弁したのは、隣の男だった。こちらもペイル人とジスラール人のハーフである。
「そうだな。でも……」
「どうかしたか?」
「うまくいきすぎているような気もする」
男は背後を振り返る。道は一本道。振り返っても、誰もいない。後をつけられているというわけでもなさそうだった。
「お前は本当に心配性だな」
「そうかな?」
「そうだよ」
視線を前へと戻し、男は自分の杞憂を振り払うかのように馬に鞭を打った。
..◆◇◆
「ヴァレッド様、通行証を偽造している馬車を発見しました」
ジルベールの言葉に、馬車の中にいたヴァレッドは固く瞑っていた目を開けた。
昨晩から馬車の中で待機していたせいで身体は固まっていたし、徹夜をしているせいて体調がいいとはいい難かったが、そんなことはもう言ってられなかった。彼は座面に埋めていた身体を起こすと、馬車の外にいるジルベールに声をかける。
「ちゃんとつけているか?」
「はい、もちろんです。ハルトに追わせています」
とても優秀な双子の片割れの名前を挙げられ、ヴァレッドはほっと息をつく。
「それならいい。俺たちも準備をするぞ」
それを合図に、ジルベールが頷き、周りがにわかに騒がしくなる。
ヴァレッドの考えた作戦はこうだ。
エリックの生誕祭があるという理由から、荷馬車の検問を簡易なものにした。しかし、すべての荷馬車をすんなり通すのではなく、比較的大きな三つの商会の荷馬車のみ簡易な検問で通らせることにした。
そしてその上で、発行する通行証の印鑑をいつも使っているものとは別のものにした。別のものと言っても、意匠を全て変えたわけではない。見分けがつかない程度の変更を加えたのだ。その変更とは、獅子の鬣の毛先の向きを一箇所変更しただけ。本当にそこだけなので、じっくり見てもほとんど見分けがつかなかった。しかし、わかっている者が本物と見比べれば一目で違うとわかる。
それぞれの商会には、その通行証を数時間前に配った。もちろん今まで使っていたものと交換するという形で、だ。商会に渡している通行証の数はそれぞれの商会の規模によって決まっている。今回検問を簡易にした三つの商会に渡してある通行証は一つ残らず交換することができた。つまり、選ばれし三つの商会の馬車のうち、新しい通行証を持っていない馬車が来たら、その通行証は偽造ということになる。そしてそれは、べワイズの者が操っている馬車である可能性が高いということだった。
そしてたった今、その罠にかかった馬車があったのだ。
「馬車の紋章はどこの商会のものだった?」
「バートン商家のものです」
「よりにもよって、そこか」
バートン商会はティアナの元夫の家が運営する商会である。
「馬車の方も偽造だとは思うのですが奪われたという可能性もあるので、一応バートン商会に部下を向かわせました。なにかあり次第保護する形を取らせます」
「頼む」
それだけ言って、ヴァレッドは馬に乗り込んだ。
「わかっていると思うが、アジトまで泳がせろ。どうせ支部だろうが、この際だ。一網打尽にするぞ」
その号令にジルベールはしっかりと頷いた。




