8話
あの後どう帰ったかもわからないくらいだった
拓人さんにあんな風に扱われた事が苦しくて悲しかった
あのキスを交わした夜から、あの写真を見てから、先生が来てから、先生と拓人さん、お互いが特別な感じなのを意識しすぎてもういっぱいいっぱいになっていた…
先生の存在が大きくて…悔しくて、辛い
どんなに頑張っても私は10代で、あんな風に綺麗な雰囲気はどうやっても出せないし、追いつく事なんかできない
コンコン
「お母さん?」
涙を拭きながらドアを開ける
ガチャ
「よっ」
そこには拓人さんが居て、まさか来るなんて思わなかった
「拓人さん…」
「大丈夫か?ケガしてねぇ?」
優しい声にまた胸が震える
「うん…」
嬉しかった。純粋に、あんな事言ったのに嫌わないで居てくれた
ドスッと沈むベッド、隣に拓人さんが居る…
「泣いてたのか?」
「…気にしないでいいから…」
そう言うと
拓人さんは真剣な表情になった
「……紀乃が謝ってた」
だけど来てくれた理由は明白だった、如月先生の為だって…解ってたのに。
「……………」
「愛桜?」
「うん…私も悪かったって思ってる」
「そうか…」
「ねぇ拓人さん…お願いがあるの…」
「お願い?」
「今週の土曜日の夜…予定あけといてほしい」
「土曜の夜?何かあるのか?」
「うん、大切なことだから」
「だったら今でいいじゃん」
「ダメ!
8時くらいに恋々神社で待ってる」
そう言いながら愛桜は俺を部屋から押し出した
「約束だよ」
バタンと閉まったドアと同時に涙が溢れだした
触れた手を握りしめ崩れ落ちた
日に日に増していく好きの気持ち、
初めて好きだって思った日より何倍も何十倍も好きになっている
拓人さんがくれる小さなことも、私には世界が色づくように幸せになる
本当に本当に大好きだからもう終わらさなきゃダメなんだ…
このままじゃ私…
拓人さんを困らせて、嫌いになられちゃう
そんなのは嫌だよ。
―――――――
「決めたの…」
「そっか…愛桜がそうしたいなら頑張れ
羽音と待ってるから」
「明日夜空けておく、1人じゃダメだったらすぐ駆けつけるからね…」
「ありがとう…拓人さんにちゃんと好きって言わなきゃ…やっぱり諦めつかないから」
「応援してる、だいたい拓人さんもかばう相手が違うよ」
「けど…愛桜が車にぶつかった瞬間からの反応は面白かったけどね、あんなに焦るなんて初めて見たかも」
「うん。でも…会いに来てくれたことだけで幸せ
解ってるよもう、拓人さんが先生を特別に思ってること、けどこれ以上嫌われたくない。普通に戻りたいの…」
そんな事をいいながらもどこかで拓人さんなら私の気持ちに答えてくれるんじゃないかなって思っていたんだと思う
幸せなんて一瞬で儚い、そんなの解らないでいた
ただ目の前にあるこの気持ちだけを信じて。
―――――――――
「これ…」
そう言って紀乃は見たこともない写真を俺に渡した
「愛桜ちゃんが返しといてって…拓人こんなのまだ持ってたんだ?」
「…愛桜ちゃんって?…」
「あれから少し仲良くなったの。
ねぇその気持ちってまだ有効?」
「紀乃?」
「愛桜ちゃんに言われたんだもん
幸せにしてあげてって、あっそうそう伝言頼まれてたの
明日無理になったみたいだよ?日曜日にしてほしいみたい」
「仲良くなったんだな
そんなの伝言じゃなくて直接いえばいいのに」
「女の子なんてそんなものなの…大切な話するんでしょ?
ねぇ今日は遅いから泊まっていくでしょ?」
「いや…帰るよ」
玄関に向かう拓人に抱きついた
「私…拓人を忘れた日なんかないよ」
「…」
俺の中で愛桜は大切で、でも傷つけることもある
本当はどっかで簡単に片付けてる自分が居るのは解っていた…
愛桜が居なくなると言うことがどれだけのことかまだ俺は知らないでいた




