5話
「あれ、拓人さんだ」
放課後居残りで課題を終わらせ学校をでようと校門に近づいた所で駐車場に停まる拓人さんの車が目に留まった
「乗せて帰ってもらおう」
少しだけ気が紛れた
拓人さんを見ると、会えると、全てが嘘のように嫌なことなんか消えていく。いつもそうだった、友達との事が辛い時も、お母さんと喧嘩した時もいつでも私の中で、拓人さんが居てくれたから乗り越えられてきた
だからきっと、違うよね?
車に走りよると拓人さんが気づいて車から出てきた
「昨日はありがとう」
「今終わりか?」
「うん。…送ってくれる?」
「はあ?用事あるから無理だ」
「何?用事って…」
「それよりさっきおばさん帰ってきてたぞ」
流したよね…今…
いつもの酒屋スタイルではなく、私服の姿に顔がほころびそうになる
「知らないよ?」
「ん?何が?」
そういいながらタバコに火をつけた拓人さんが私を見つめている
「暗い夜道変な人に襲われても!」
「何だそれ、襲うの間違いだろ」
笑いだす拓人さんを睨む
「酷い!おばさんに言いつけてやる」
「はいはい、笑って悪かったよ」
こうやって子供扱いされてるうちに、進めなくなっていた
大人の恋愛とかよく解らない、でも好きな気持ちは誰よりも大きいんだよ…
だから逃げたくもなるし、確信には触れられないんだよ
「ねぇ、本当に送ってくれないの?」
やっと出た言葉に、拓人さんも少し困った顔をした
その瞬間に胸が痛くなる
「あのな…」
「拓人?…と紺野さん?かな」
私たちを裂くように声が響く。
どうして気づかなかったんだろ…
拓人さんは如月先生を待ってたんだ…
「まさか紀乃が言ってた担任のクラスって愛桜のクラスか?」
「うん!そうだよ、愛桜って漢字可愛いなって思ったからすぐ覚えたの、それより拓人の知り合い?」
「ああ…近所の子」
先生のことを 紀乃 って呼んだこと
拓人さんの事を 拓人って呼んだこと
私はただの近所の子だと紹介されたこと
頭の中をグルグル嫌なことが回り出す
「……………」
「そうだったんだ!偶然だけど嬉しいなぁ。
紺野さんこれからよろしくね」
差し出された手を見つめる
この人は悪い人じゃない、悪気もない
ただ知らないだけ
私が大好きなことを…
けどそれが一番苦しかった
溢れそうな涙を精一杯我慢した
「さようなら」
その手を握る勇気はなかった
震えてるこの気持ちまで伝わりそうだから
「おい、愛桜?」
拓人さんを軽く睨み逃げるように帰り道の方へ足早に進んだ
「私…嫌われてるかな?」
「人懐っこいタイプじゃねぇだけ、一旦家帰るか?」
「うん…」
タバコを車の灰皿に押し付け帰りを急ぐ小さな愛桜の背中を見つめた
「紀乃、学校迎えにくるのこれからはやめておく」
「…紺野さんに見られるから?」
「あいつは俺に懐いてるかららあんまり無下にできねぇの」
「そんなんだから恋愛も上手くいかないのよ」
「うるせぇな…これでも焦ってんだから、痛いとこつくなよ」
「来るもの拒まずはやめたの?」
「やめろ、その言い方」
そう言えば紀乃はため息をついた
「久しぶりだな、2ヶ月ぶりくらいか?集まるの」
「そうだよ、誰かさんが忙しいって言うから」
「悪かったって、それじゃあ行きますか」
後ろ髪を引かれる思いだったが迫る約束の時間に車を走らせた