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5話

「まずは、皆集まってくれたことに感謝しよう」


 その夜、カリメルト村の広場に居を構える、一際大きな小屋の中にキンシの姿があった。

 この小屋は村長が住む家であるが、何かあった時の合議を取り行う為の広間が二階にある。

 広間には村長、年寄り組、戦士頭、猟師頭が円になって座していた。この度キンシは、猟師頭の代表としてこの場に参加している。

 まだ壮年期後半の若い村長が膝を打つ。


「つっても、いつものメンツじゃシャンとせんなー。ま、食いながら始めようや」


 村長がそう言うが早いか、晩食を抱えたエナが顔を出し、それを皆に配って回った。

 晩食と言えど、豪華な食事はこの村にはない。村の有力者ですら、毎日の様に蒸かした芋を口にしている。有力者の特権として挙げるなら、塩が少々まぶされているくらいだ。

 最後にエナから芋を受け取ったキンシは、彼女に礼を言ってかじりついた。

 エナはそれを認めると嬉しそうに彼の横に座り込んだ。


「おいエナ、お前は下に帰れ」

「お父さんはいちいちうるさいの!別に口出ししないし。ね、お兄様からも言って下さいっ」

「……まー、アルザ婆が良いんなら問題ないかな?」


 一同が年寄り組の一人であるアルザに目を向けると、彼女は「若い内は好きにしとくもんじゃ」と首を縦に振った。


「ふんっ……勝手にしろ」

「やったっ!」

「ありがとうございます」


 仲睦まじく、尾尻を絡ませるキンシとエナを村長は睨みつけてから、取り成すように咳払いした。


「でだ、今日集まってもらったのは他でもない。連日続いてる畑荒らしについてだ」

「話言うてもどうするんじゃデジラ!夜回りするくらいしかしょうがねーべ!」


 村長のデジラに向かって、戦士頭の老男クイリスが吠えた。


 クイリスは村では最年長の戦士頭の代表で、人族との戦争を経験した数少ない戦士の生き残り言われている。その身に受けた手傷は数知れず、それでも尚最後まで敵を食い止めた猛者だ。

 近頃視力が衰え始めたことから、周囲から引退をほのめかされているが、本人には全くともってその気がない。


「そう声をあげるな、耳に響く。……だがまあ、現状の対策としては警備体制の強化が第一なのは確かだ」

「じゃが、それでは一時凌ぎに過ぎんではないか?現状の打破に繋がる訳ではあるまい」


 年寄り組の一人が最もらしいことを口にするが、彼から続く言葉は出てこなかった。

 そこでキンシは発言の許可を求めて挙手した。


「一つ俺の話を聞いてくれないでしょうか?」

「小童がしゃしゃり出るな!そこで大人しく小娘と睦みおうておけ!」


 クイリスにピシャリと撥ねつけられ、エナがムッと彼を睨みつけた。キンシはそんな彼女の肩に手を置いてなだめようとする。が、彼女はいよいよ毛を逆立て始めた。

 それに見兼ねたのか、デジラが床を尾尻で叩いた。


「よさないかエナ。クイリスの爺さんも。ここは若いもんの意見も聞いてやろうじゃないか。キンシ、発言を許可する」

「ありがとうございます村長」


 キンシは村長に礼を述べ一身前に出た。


「今日荒らされた現場を見て回って確かめたのですが、どれも獣類の痕跡は望めず、それらの犯行とは考えにくいことが考えられます」

「それは俺たちも気になっていたところだ。……もしや、犯人が分かったのか?」


 興味深そうに身を乗り出すデジラだったが、


「いや、残念ながらそれにはまだ至っていません」


 とキンシが首を横に振ると、彼はため息混じりに肩を落とした。


「そうか……。で、話はそれで終わりか?」

「いえ、ここからが本題。いくら警備を固め柵を補強したとて、明日はまた別の畑が被害を被るのは目に見えて明らか。対策を施すにあたってはまず、敵が何なのか知る必要があるかと」

「確かにその通りだが……どうするつもりだ?」


 キンシは息を一度吐いてから、自信ありげに床を尾尻で打った。


「他の村を回り同様の被害がないか、又は情報の共有を図るべきです。そして願わくば、六部族が協力して森の内と外を一斉に調査し、畑荒らしのツラを拝みましょう」


 キンシの提案に、デジラをはじめ多くが「良いかもしれん」と個々に頷いた。だが、ここでアルザが難色を示す。


「じゃがのキンシ。食い詰めておる村は何もこの村だけではないぞ。全ての村が農耕に苦心しておる。現状、一番可能性が高いのは他の部族共じゃ」

「アルザ婆、そう決めつけるのは……」

「もし……!もし、奴らの企てじゃとしたら?協力はおろか、もっと酷い……。全部族で戦が始まるやもしれん」

「…………っ!」


 悲壮感を漂わせるアルザ。一同は静まりかえり、エナも心配そうにキンシを見上げた。

 だが、キンシは立ち上がって一歩前に出た。


「婆さんの心配は最もだ。だけど、その話だといずれ戦が起こるのは確実でしょう?それは問題の先送りでしかない。違いますか?」

「ううむ……。此度の件、どうも嫌な予感がしてならんのじゃ。しばし静観する方が良い」


 両者一歩も引く様子が見られず、これ以上二人の間で話が進まないことを察したデジラが割って入った。


「二人の意見は分かったここで決を採ろう。キンシに賛同する者は黒をアルザに賛同する者は白の石を中央へ」


 数秒の間を置いて、デジラが尾尻を床に叩きつけた。それを合図に円に座していた全員が、一斉に中央の窪みに白黒いずれかの石を放り投げた。


「……白が六、黒が七。よって、キンシの提案を採用しよう。皆、異存あるまいな」


 デジラがアルザに目を向けると、彼女は渋々頷いた。


「であるならばキンシよ。お前が使者として行くのじゃ。言い出しっぺの責任は果たしてもらうでな」

「もとよりそのつもりです」

「……小童一人では頼りあるまいて、不本意じゃがワシが付いて行ってやらんこともない」


 そう尾尻で床を叩いたのはクイリスだ。

 本人は不本意と言いつつも、実は黒の石を投じている。が、それを指摘するのは野暮というもの。

 キンシは素直に礼を言い、村長宅を後にするのだった。

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