3杯目。熱燗、獺祭。(1)
主任の、正直な告白をひとしきり聞いたのち、ヤスオはゾンビ騎士も真っ青な表情で主任に掴みがかった。
「てんめぇええええええ! このやろ、主任!!」
「いや! ちょ、待てヤス! 別に俺はお前の容貌について何ら評価は下してない! お前の容姿に評価を下したのはほかならぬ、この世界のにん―――」
青筋を立てて「バーサーカー」モードに突入した迷惑元勇者の攻撃に、さしもの濡れ衣だと元魔王は必死に抵抗をする。抑え込む力と立ち向かう力のせめぎ合いである。
「ざけんな、ざけんなよぉおおおお!」
「ヤ、ヤスオ! ここは、喧嘩ご法度!」
「んなの関係あるかっ、このくっそ野郎が! お前なんてな、人間のふりしてなきゃただのチョーキモの潰れたスライム以下の容貌のくせに、何そんな上から目線で人の顔の判定勝手に下してんだぁ!」
「いや、だから! 判定は下してない―――って」
「うるっせぇえ! お前なぁ、人の顔を勝手に使って面接に行きやがって、それで全部落ちたってどういうことだぁコラァ!? せめて一社くらいは受かれよぉ」
そこかよ、とのツッコミはさておいてヤスオの手首を下から支えて押し戻しながら、元魔王ディグレマ――みんな忘れていると思うが、これが魔王の名前だ!――は、そういえばと一瞬記憶を呼び戻した。
「あ」
「あぁあん?」
シャーコ、シャーコ、と刃物をリズミカルに研ぐ音が店の中に響き渡った。
大将の電球のような頭部に青筋が浮かんでいる。
「―――一つだけ。アダルトショップの店員の面接には受かったな」
「は!?」
「あ、でも。さすがに正社員じゃないし、アルバイトだし。ただ、時給は良かったな。社割で3割引きだし、その顔だったら大歓迎とか言われたが、こんないかがわしいところで、しかも借り物のお前の顔で働くのもなぁと思ってな。そもそも、友人の紹介で受けたものはいいが、社員割引で買うものも何もないし。人間の女に興味もないし」
「え、ちょっ、ナニソレ」
急に青菜に塩が如くヤスオが込める腕の力が緩んだ。
イッタイドウシタコトダロウ。
「な」
パクパクと鯉のようにヤスオが顔面蒼白で口を開閉している。
主任はあまりにもショックだったのかと察し、心の底から謝意を示した。
「悪かった、ヤスオ。面接に使って本当に悪かった。せっかく受かったのに、あんな店で働くのはきっとお前でも嫌だっただろう。だからこそ、断ってこうして別の顔でまっとうな仕事に就いたんだ」
「そ」
「そうだ。まっとうな仕事だ。お前のおかげで、俺は今まっとうな仕事にこちらの世界で就き、稼ぎ、その金でダンジョンを―――」
「ちげぇえだろぉがぁあああああああ!」
「なん――――」
再び先ほどとは比べものにもならないほどの圧力が主任を襲った。
反射的にヤスオの腕を掴み上げたが、手加減の使用がないほど元勇者は怒り狂っていた。
「なんで、なんでなんでなんで!? なんでお前、それ、そこにいなかった!? 就職しなかったの!?」
「は!?」
「お間。ちょ、おま、冷静になって考えてみんよ。アダルトイコール男の夢ショップだぜ? 永久保存版のDVDやらなんやら初回限定封入版やら、等身大ポスター、即販物やらなんやら持ち帰り放題だぜ? モシカシタラ、女優さんとかも来ちゃったりしてサインとか、体にじかにウハウハなのに!? それなのにオマエ、どうしてそこで勤めなかったの??」
「いや、やはりまっとうな仕事で稼いだ金で―――」
「金にまっとうかそうでないかの区別なんてあるかぁああああああ」
「ヤ、ヤスオ!?」
ヤスオは右手を振りほどくと空に掲げ、炎をまとわせた。
継続的に続いていた包丁を研ぐ音が、ピタリ、と止んだ。




