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 私たちは吉川を運んでいた。私が足を持って、天城が片手で彼の襟首をつかむ。首が閉まってるんじゃないかと心配しつつ、後ろにくくりつけてあるスコップが気になった。スコップは備品室から拝借してきたらしく、ついでに返しに行くのだそうだ。

 というわけで、私たちは動かない少年とスコップを持って、なるべく見つからない道を行くという、はたから見たら、死体遺棄の道中みたいな格好になった。見つかったら事だなと私は思った。そして誰にも見つからないことを神とかそういうのに祈った。


 天は私を見放したらしい。誤解のないよう言っておくが、断じて「私達」ではない。天城は自業自得である。

 移動の途中で見つかった。おまけに具合の悪いことに、外人である。恐らく留学中の中学生なのだろう。

 留学生が何か聞いた。英語のように聞こえるが、聞き取れなかった。

 天城が返答をすると留学生は微妙な表情になった。少し会話したのち、困惑する留学生を置いて私達は歩いて行った。


「さっき何語話していたんですか?」

「あの留学生、ドイツ人だから、知ってるドイツ語で答えておいた」

「へえ。知り合いですか。それと、ドイツ語喋れるんですか?」

「まあね。ついでに言うと僕は『愛している』と『僕はあきらめない』と『ちょっと安くしてくんない』と『死体の処理中です』は二十五か国語で言えるのだよ」

 エッヘンとばかりに天城が言った。

「なんですか、その偏りまくったボキャブラリー。前の二つはやや中二病臭いし、最後の言葉はいつ使うのやら。ん? まさかあの留学生に最後の言葉言ったんじゃないですよね?」

「僕のドイツ語能力に期待しないでくれるかな。僕のドイツ語能力は『スタンガンで気絶させました』って言えるレベルじゃないんだよ」

こんなことをいわせるなよ、といった感じに天城は言った。

「話をややこしくさせないでください」


 保健室に吉川を置いてきた私は文化祭の準備で活性化している学校内を見回った。天城は映研の部室に行った。見回りの目的は発煙筒をたく位置や、バリケードを作る机などの配置の最終確認である。

「異常ないです」と携帯電話でしゃべった。

「本部了解」と天城。

「さて、ここが引き返し不能点というやつでしょうかね」

「そうだね。この運動に参加する気なら、君の任務の所定位置についてくれ」

「わかりました」私はそういって、電話を切った。今は十時十分前。作戦開始は十時。あと少し。


 十時になった瞬間、各所から煙がもうもうと広がった。そして事前に配置してあったサクラが悲鳴を上げたことにより、校内が一気に騒がしくなった。緊急火災警報もなり始め、事態は本格的に動き出した。

 外へ出て行く人の群れを私は眺めていたが、案外みんな冷静だった。さすが、東日本大震災で世界から絶賛された日本人である。

「さてと」私は任務に赴いた。


 校内では、生徒たちがてんでばらばらに避難していた。文化祭開催寸前で、生徒が各所に分散しているため各自の判断で避難しているらしい。

 私はその中に紛れて、発煙筒の回収を行った。決まりでは、発煙筒を投げた人物が回収することになっているが、どうしても取りこぼしがある。廊下に落ちているのなら、見つけやすいが、教室の中に落ちていたりすると面倒くさい。

 二階の喫茶店をやるつもりらしい教室の中に入って発煙筒を拾うと、ふと、教室の窓から外を見た。そして、コの字型の校舎の外側、道路から、見たことのない人物達が校舎の方に向かってくるのが見えた。彼らが持っているものは見間違えでなければ銃だ。

 その武装組織とでもいうべきものは手早く校舎に侵入した。とりあえず私は隠れて様子を見ることにした。

 


 武装した組織はすぐにいくつかの部隊に分かれ校内に散らばった。三つのグループは事前に持っていた校内の見取り図に合わせてあらかじめ配置されている人質を回収する。その中でメガネをかけた男がある場所に向かっていた。

 その場所に今回の協力者がいた。

「天城君」

 放送室前でたたずんでいた協力者に声をかけた。

「おひさしぶりですね。三村さん。あなたがこれに直接参加するとは思いませんでしたよ」

「私は頭脳派だがね。まあこういうのもたまにはいい」

「そうですか。まあ、放送室の準備はできてますから、どうぞ」

「ありがとう」

「ところで、人質は多いほうがいいのでは?」

 その口調はピクニックに持っていくおにぎりの数がもっと多いほうがいいんじゃないかといいか感じの軽い口調だった。

「必要以上はいらない」と三村がぴしゃりといった。

「そうですか。そういえば聞きたいことがあったんですが、かまいませんか?」

 三村は苦笑した。

「もう聞いてるじゃないか」

「親父はあなた方が命を懸けるに足る人物だったんですか?」

 三村は少し間をおいて、

「まあね。それにこの事件は我々なりに正義を行っているつもりだよ」

「そうですか。じゃ、お気をつけて」

 というと放送室から出て行った。

 三村はマイクを持ち上げると音声のスイッチを入れた。

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