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 昼休み、私は屋上に行った。もっとも、屋上はカギがかかっていることになっているがあいていることも多い。というか、鍵を盗んだ天城が勝手に開けている。

 私は屋上の建物の上の給水塔らしきものの上に上った。途中から聞き覚えのある声が聞こえる。彼がよく歌う歌だ。

予想通り天城があおむけに寝転がっている。ご丁寧にブルーシートまでしいている。

「やあ」私を認識すると天城が言った。

「いつからそこにいるんです?」

「四限から。日教組の奴らの授業は受けたくないからね」天城が空を見たまま言う。

「なぜですか?」

「僕の父親は自衛隊員なんだけどさ、ずいぶん昔日教組の教師が『君の父親は憲法違反』とかぬかしやがって、あだなが「ケンポ―違反」になっていじめられてね。日教組だけは許さないと子供心に誓った」   

天城が上を見たまま語った。私はおそらく嘘だろうと思った。自衛隊を憲法違反という前時代的な教師などもういないだろう。

「ところでさ」

天城がゆっくり起き上がって私の方を見た。

「頼んでおいた物出来たかい?」

 私はポケットから天城が所望しているものを取り出して、天城に投げて渡した。天城はそれを眺めて、満足げにうなずいた。

「すごいね。ホントに手先が器用だね。君は」

「それほどでも」

「お礼。うけとれ」

 天城が投げてよこしたのは鍵だった。

「なんですこの鍵?」

 手にとって重さを確かめながら言った。普通の鍵。それ以上でもそれ以下でもない。

「さあ。忘れちゃった。処分に困ってるんだ」

「完全にごみの押しつけですね」

「いつか役に立つさ。多分近いうちに」

「そうですか」

 私はここで言葉を区切り、あたりを見回す。学校全体が眺めることができた。学校の外は緑の田んぼだ。

「それにしても、なんでこんなところで過ごしたがるのやら」

「天才と光化学スモッグは高いところが好きなのさ」

「馬鹿と煙でしょ」



 文化祭が近くなっても、「豊旗工兵隊」が何をしたいのかは依然不明だった。もう数日しかない。デマ情報だったのかと思い始めた時、意外なところから情報が入った。

 昼休み、友人と弁当を食べているときのこと突如電話がかかってきた。知らない番号からだった。

「吉川さん」

 聞き覚えのない声だ。

「誰?」

「名無しの権兵衛(ごんのひょうえ)

 ごんべえじゃないの? てか、誰? なんで俺の電話番号知ってんの? などの疑問が浮かんだものの、それを言う前に

「文化祭当日、何かが起きると思っているなら、天城さんのところへいけばいい。今は屋上にいる」

 と言われた。だから、あんた誰?

「ついでにいうと、あなたは罠にはまっている。工兵隊が動くというのは天城が情報局を通じて流したデマだ。関心をそちらに振り向けるためのね。それでは」

 何を言う暇もなく、電話は切れた。だから誰なんだよ、お前は。


 屋上に行った俺は給水塔の上で寝転ぶ天城を見つけた。

「間宮さんによろしく」と電話で話していた。

「天城さん」俺が声をかけると、電話を切って首だけこちらに向けた。

「なんだ、風月君か」

「なんだじゃないですよ。それと、俺は吉川です」

「何の用?」

「生徒会室に来ましたよね?」

「いったよ。交渉は決裂したけど」ここで天城は首をもとの位置に戻した。

「文化祭で何か起こすんだそうですよね?」

「よく知ってんね」

「何をやる気か知れませんが、やめてくださいね」

「そういって、やめるような人物だと思うかい?」

「思いません。でも、生徒会員である以上言わなきゃダメなんです」

 ここまでいうと、天城はケタケタと笑った。俺が睨むと、

「ホントまじめだね、君は。なんでそうなったのやら」

「先輩には関係ないことです」

「中学の時、いじめを学級委員長として糾弾できなかったこととか関係あるの?」

 瞬間、天城に対して足が無意識に動いていた。

 俺の蹴りに天城は器用にも体を転がしてよけた。場所を変えた際、下の方から誰かが見ているのが見えた。

「なんで知ってるんです?」

「情報局は大抵の人間の情報は手に入られるからね」

 立ち上がりながら天城が言った。

「そのようすだと無関係じゃないみたいだね。でも、背負いすぎるのはやめた方がいいよ。背負いすぎている人間は簡単につぶれるから」

 一発ぶん殴ってやろうかと思ったがやめておく。

「ところで、天城さん。さっき男子生徒がいましたけど、知り合いですか?」

「いや? 僕は四限からここにいるけど、君以外誰もここには来てないよ?」

 四限からサボっているのかこの男。

「変ですね。さっきみえたんですけど、あれ? いない」

 俺は先ほどまで佇んでいた場所に目をやったがそこには誰もいなかった。

「幽霊でも見たんでしょ。旧校舎にたたずむ少年の学校都市伝説」

「はあ」



 放課後、生徒会室に出向くと、会長が、文化祭にくる鈴木元防衛大臣のあいさつを考えていた。文化祭が始まる前、全校集会があるが、その時に読み上げるらしい。生徒会長は大変だ。

「あ、吉川君。手伝って」会長が俺を認識するなり言った。

「はいはい」

 例の元防衛大臣ははっきり言って、悪名だけは高い。閣僚経験は一度だけだし、三か月もたたないうちに問責決議で追い出されている。

 しかし、三か月の間に自衛隊に不祥事があり、国境問題を不用意な発言で大変悪くしたらしい。

 ちなみに我が校のОBは統合される前の中学、高校両方で大した人がいない。とりあえず、著名なのはこの元の防衛大臣で、悪い意味で有名なのは前に自衛隊内でクーデターを目論んで逮捕された日番谷とかいう自衛官。噂だが、我が校初の東大合格者は殺人犯という話もある。

 そしてこの日番谷の知名度を百とすると鈴木元防衛大臣の知名度は五もないだろう。

 俺は会長とともにうなりながら挨拶を考えた。


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