③
天城主導の学校占拠の準備が進む中、天城は生徒会に交渉に出向くことになった。
もっとも「とりあえず交渉した」という事実を残しておくための交渉らしい。すなわち、成功、不成功はどうでもいいのだろう。なぜか私もついていく羽目になった。
「こういう時は頭数そろえることが重要さね。君は映研の副部長の山寺ということにするから、それらしく振舞って」
と言いつけられた。映研の人間を連れて行けばいいだろうが、天城はあえて連れて行かなかった。おそらく、
「どうも、天城です」生徒会室に入るなり天城が言った。相変わらず調子がいい。私も「山寺です」と名乗った。
生徒会の面々は一人を除いてそろっていた。
「映研の件で話があります」と天城が切り出した。
「知っています。公開なら許可しませんよ」
「はやいな」
「先生方からダメと言われました。それでいいじゃないですか」と会長。
「でも、何が不満なんですか。僕の作品に」
「僕の作品?」会長が怪訝な顔になった。
「原作者は僕ですからね。エンドクレジットにも名前が入っていますし」
「私も詳しくは知りませんが、学生として不適切だそうですね」
「どのへんが?」
「知らないといいましたよね?」
「学生として不適切って何? お色気シーンの一つもないし、血の一滴すら出ませんよ」
「そういうことは先生方に行ってくれる?」会長が素に戻ってる。とのつぶやきが漏れた。
「やだね。僕は先生方の恨みを買ってるし」と天城。むしろ停学の一度もなってないことが奇跡のような人物だからなと私は思った。そして携帯電話に着信が入った。
「正直に言うと、理由知ってるよね?」あいまいな笑みを浮かべ天城が言う。
「はい?」
「歓迎のあいさつは君がやるのだろうし」
「何のことですか?」
「来るんだろ? 鈴木元防衛大臣」
映画のタイトルが「ああ大臣」というのを思い出した。
「部外秘を何で知ってるんです?」会長が言った。
「壁に耳あり、障子に目あり、棚に盗聴器あり」
最後の言葉に驚いてはいけない。彼は生徒会室どころか、職員室、職員用トイレにまで盗聴器を仕掛けていることを私は知っている。
「盗聴してるんですか?」早口で会長がまくしたてた。
「嘘だけど」という言葉が嘘。しかし、会長は信じたようで、
「じゃあ、なんで知ってるんですか」
「情報局を舐めないことですね」
「…………」
「今回の映画は、実はその防衛大臣を馬鹿にしくさった映画なんですよね。本人が来るとあっては、さすがに公開するわけにいかないという判断なんでしょうけど」
天城が仕切りなおすように口調を変えていった。
「だったら、自業自得じゃないですか」
「彼らが映画を作り始めたのは大臣が来るって決まるはるか前の事ですよ」
生徒会の面々が黙る。
「学校にしたら、唯一著名なОBだからね。機嫌損ねたくもないんだろうけど、そんな考えで言論統制していいと思ってるのかい?」
言論統制とは少し違う気がしたが生徒会の面々は指摘しなかった。
「私に言われても……」
「だいたい、君らが彼らのために骨を折らないのは彼らの事を嫌っているからだろうに。映研はオタクが多いからね」
「そんなことありません」早口で会長はいった。
「たとえ、だれであっても、公平に接するのが行政の基本じゃないの? それをしないなら全体主義ともいえるね。ん? 違うかな?」
違う。がまたも誰も何も言わなかった。
薄ら笑いの天城と通夜のような面持ちの生徒がしばらく対峙した後会長が口を開いた。
「わか……」
「まあ、映研の連中も君らの事は期待してないようだし、公開禁止なら、公開禁止でいいよ。公開の方法は別にあるし」と天城が会長の発言を遮っていうと、カードらしきものを机に置き、
「いこうか。あれ、名前なんだったけ? 君」と言って、生徒会室から出て行った。
「山寺です」二度目にして最後の、そして、最初と同じ発言をして私も出て行った。思えば生徒会室で嘘しか言ってない。
「会長『わかりました』って言う気だったと思いますが?」と天城に聞くと、
「ちがうよ、あれは『若いっていいわね』っていう気だったのさ」
「完全に会長のことをばあさん扱いですね」
「いいじゃん。僕らの目的は映画公開じゃなくて、学校の占拠を楽しむことだよ」
「まあ、先輩はそうなんでしょうけど」
とりあえず調子を合わせておいた。この男の目的がなんであるのかいまだにつかめない。
そういえばさっきメールがマナーモードで動いたので携帯電話を確認する。
メールを確認している途中、天城が「君にメールとは珍しいね」と声をかけてきた。
「誰からだった?」
「バイト先からですよ」
「へえ。バイトしてるんだ」
「まあ、一応」
風紀委員会の情報によれば、「豊旗工兵隊」が文化祭当日、決起するらしい。決起の内容自体は分からない。
放課後、とりあえず「豊旗工兵隊」のリーダーと話をつけることにした。途中映研の部室を通ったが、異常な雰囲気だった。映研の映画の公開が禁止になったので謝罪にでも行こうかと思ったが、やめておくことにした。
映研の映画公開禁止は先生方が勝手に決めたことであり、生徒会としては抗議すべきだと、俺は言ったが、生徒会員はどことなくやる気がなかった。映研はオタクが多く、生徒会には同情する気がなかったのが問題だ。こういう問題は、たとえだれであっても助けるのが生徒会のあるべき姿だと思う。生徒会員にも、顧問の先生にもそういったが、「青いなあ」と言われて終わった。
なんだか釈然としないが、俺は俺のできる範囲で最善を尽くすべきであると思った。そして、それはあきらめることではないと思う。
この問題はいったん置いといて、「豊旗工兵隊」である。
「豊旗工兵隊」のリーダー野田はこちらの会見に応じたものの知らぬ、存ぜぬ、解せぬ、わからぬ、関わらぬ、を決め込んだ。
何も成果を得られないまま、生徒会室にいくと、全員が重苦しい雰囲気になっていた。
何があったのか聞こうと思ったが、机の上にあるカードが目に留まった。カードはトランプのジョーカーで「天城」という名前と電話番号と「いつでもご連絡を」という文章が書いてあった。