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END

 フリードリヒは警察が突入したらしい。こっちにはまだ人質がいるのに。間宮さんたちは俺たちを人質にするでもなく、理科室のドアを開けて言った。

「いけ。君たちは心中する義理はない」といった。有無を言わせぬ口調だった。

 え?

「いけ」もう一度間宮が言った。

 映研部員も、他の生徒も、唖然としたまま動かなかった。俺は一応代表していった。

「いいんですか?」

「いいんだ。早く学校から抜けて、カメラに写れ。それなら大丈夫だ」

 間宮はそういうと、銃をとった。そして、理科室を出て行く。何人かの部下と三村がついて行った。

 俺たちはよくわからないまま、理科室を後にした。



「警察の突入か。近衛さん来ませんでしたね」

「いいや?」

 天城はそういった。カーテンを少し少し上げて外を見ている。

「あの車は近衛さんのだよ。ふふ。これから三か月はこの話題で持ちきりだろうな」

「動かないで!」

 フリードリヒが天城に銃を向けた。

 天城は動ずるでもなく、胸を張るでもなく、ただ言った。

「君に目の前の人間が撃てるのかい?」



 俺はみんなの最後尾にいた。みんなが全員出てきてからついてきたためだ。みんな階段を駆け下りている。

 俺は何とも言えない安心感を味わっていた。月並みな言葉だけど、「家に帰れる」

 そう思った時、下の方から走る音がした。そして、聞いた。

 銃撃音と悲鳴と断末魔が混ざり合った死の音を。



「銃をよこしてください。天城さん!」フリードリヒが強い口調で言った。

「やーだね」

 天城の顔は変わらない。バイオリンを持ったままだった。

 もたもたしていると警察が来てしまう。



 後方を走っていた俺たちはUターンした。そして、駆け上がる。死の音はどんどん近づく。上っている階段が天国の階段のように思えてきた。

 最上階につく。そこは天国ではない。最上階はいつもと変わらない。それが俺を生きている気分にさせてくれる。俺は走った。

走った方向は音楽室だった。もう俺しかいない。ちらりと後ろを見やると、POLICEと書かれた黒服の人が俺を狙っていた。



「近衛さんを殺すことに何の意味がありますか?」

「そうだなあ。この国を変えられるんじゃない?」

「また」

 それを言うか。私は思った。

「昨日、魔王云々の話はしたよね。でも、この国に非合法でも劇的な変化を望むのは、魔王だけじゃない。国民さ。生命至上主義の建前がある癖に、地球で起こっている悲劇を無視して、もうなれてしまったくだらない娯楽を楽しむ。欺瞞に満ちて、変化を望むくせに自分は変化しようとしない。

 この国にはヒトラーはいない。無自覚で潜在的な悪が多いだけさ。魔王というのもそういう小さな悪の一部なのかもね。

 近衛さんはこの国の希望であると同時に、魔王に通じている。まさに次世代のリーダーだ。

 フリードリヒ君。悪いね。昨日は嘘ついた。彼らが運んでいたのは細菌兵器じゃない。細菌兵器のデータだった。送り先は魔王のメンバーの近衛さんだったよ」

 

 その時、誰かが、音楽室に入ってきた。天城がポケットから拳銃を取り出す。入ってきたのは吉川だった。

「うつな!」

 私はフリードリヒが構える銃を無理やりおろした。そして、天城の目の前に立った。

銃声が響く。


 音楽室に三人がいた。天城と留学生と知らない誰かだ。天城が銃を撃とうとしたところ、見知らぬ誰かが、俺をかばった。

「いで」

 男が崩れ落ちた。そしてあおむけになる。

「やっぱりすごいな、君は。」

 天城がそういった。

 フリードリヒは持っている銃を向けようとした。が、その前に天城が銃を突きつけた。そして、容赦なく銃弾を撃った。銃弾は彼の腕にかすったようで、彼は銃を取り落した。それを天城が手早く拾う。

 そんな中、後ろから足音が聞こえてくる。

「あ、風月君。どいて」

「へ」俺は言われた通りにした。というか、言われなくてもどく。

 天城が銃を乱射した。

 死の音が聞こえた。


 テロリストと銃撃戦が学校各所で起こっていたが、警察の突入部隊は概ね、テロリストを制圧しつつあった。

 突入部隊のある部隊は公式に残らない命令を受けていた。脱出してきた生徒を口封じのために可能な限り殺害すること。

 その命令を受け、生徒を追っていた、警視庁公安部特殊班は四階にて不意打ちを食らった。


 生徒会員さんが来てから銃声が連続した。

「最高だ」

 天城は窓のもとによって、校内を見てつぶやいていた。手には僕からひったくった銃を持っている。そして、手には何かのスイッチ。

「これはね。あそこらへんに埋めてある爆弾のスイッチさ。あれが爆発したら近衛さんも車に引きこもってるわけにいかないだろう。そこを狙い撃つって作戦さ。はい。スイッチオン」

 爆発音がした。

「悪魔……」僕は言った。

「そうだね。今回の籠城事件は……悪魔の喜劇、いや、魔王の喜劇

 かな。僕が魔王ならだけど。知ってるかい? イタリアの戯曲『神曲』の原題は『神の喜劇』なんだよ」

 知らないよそんなこと。そう思って立ち上がろうとしたとき、習志野さんが目に映った。こちらを優先することにした。

 生徒会員さんが駆け寄ってくる。彼はワイシャツをもたもた脱いで出血している習志野さんの腹部にあてた。

 

「おい、天城」習志野さんが声を発した。

「『先輩』は?」天城さんが銃弾を装填した。ガシャという音が聞こえる。

「天城先輩。頼みがあります。そのふたり、必ず生き延びさせてください」

「そう言うってことは君は置いて行っていいのかい?」

 天城さんは銃を構えたままだ。そして、撃った。

「ええ」

「それでいいの?」

「構いません」

 外が騒がしくなる。

「僕の辞書に撤退の文字はないんだよ。ここで討ち死にする所存だ」

「撤退はなくてもトンズラはあるんでしょ」

「そうだね」そういって天城は笑った。そして、銃を背負うと

「ついてくる? 彼と心中したいなら別だけど。彼は、さっきフリードリヒ君から僕を守った。そのお礼」

「僕はいいです」僕は力なくいった。

「人も殺した。もう誰を犠牲にしたくない」と続けた。

「死ぬ権利はあっても生きる義務はないからね。でも、彼の最後は君ら二人しか知らない。彼を大切に思うなら、君くらい覚えててあげて。彼の事は誰も覚えてないのだから」


 私は、校内に一人で残っていた。世界の音楽家たちが私を見下ろしている。私の死をみとるのが、ベートーベンとか、シューベルトなのは誇りにすべきか、笑うべきか。

 遠くで銃声が聞こえる。天城が暴れているのだろうか。あの三人は上手く逃げ出せただろうか。天城との思いでや、

私が大の字に寝ていると、頭の方に誰かが立った。見上げてみる。

「あなたか」

 私はいった。

「ああ」

 私の前に近衛秀介豊旗市長が現れた。

「生きてたのか。亮介」

「あなたこそ、死にましたか」父親に言うことじゃないな。

「ああ。ひどいもんだよ。いきなり頭に一発だ」

「そうですか。私はどこへ行くんでしょうね。まあ、天国じゃないことは分かります。私は一人殺したことは間違いないですし」

「やっぱり、あの死体は、お前のじゃなかったか」

「まあ。自殺偽造はうまくいきましたからね」

 中学時代、いじめられていた。かばってくれたのは吉川だけだ。いじめの理由は名家だからとかそんな理由だ。

 いじめから逃れるために、自殺しようとしていたクラスメイトを体よく利用したことがある。あれも人殺しに入るのだろう。彼にとどめを刺したのだから。

 彼の死を利用して私は死人ということになった、誰からも覚えられようとするのを避けた。

 そのうち、誰からも気づかれなくなった。生きる死人というわけだ。

 私は立ち上がった。痛みはなかった。窓に歩み寄り、空を見上げた。

 公安に拾われて、天城の監視をしている間は人間として生きていた気がする。その終着が死か。

悪くないと思った。天城の監視をこれからはずっとやれるということだ。


そうか。俺は天城を友人だと思っていたのか。

  

 僕は、あの時、音楽室に誰かが立っているのを見た。見間違いなんかじゃない。

 見えたのは幽霊だったのかもしれない。それでもいい。彼は空に向かってついぞ見せることがなかった曇りのない笑顔を見せていたのだから。

 この作品は実在の学校、警察、政治家とは一切関係ありません。

 幾分、長いうえに複雑になってしまったことをまずはお詫び申し上げます。そしてきちんと読んでいただいた方に心より感謝いたします。

 なんとなく二時間のドラマを意識して書きました。だから、話は相当駆け足なものになっています。

 書いているうちに中身がどんどん変化してしまい、第一項とずいぶん違う話になってしまいました。

 また作中に出てくる考え方は私の考えではなく、いい加減に作り上げた考え方ですので。


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