⑬
「本部、至急救援頼む。繰り返す、至急救援頼む」
「本部だ。そちらにすでに向かっている」
「情報は漏洩していた模様」
「なに?」
「奴ら以前にこのルートを知ってるとしか思えません!」
「わかった。とにかく持ちこたえろ」
「了解」そして隊長は無線に、
「あと少しで救援が来る。それまで持ちこたえろ」と吹き込んだ。
「はい」
銃撃を続けロケットランチャーを持つタクシーをけん制続ける隊員からはいい返事が聞こえた。
「横に陣地。撃て」隊員は銃を打ち込んだが反応がない。
「囮か?」
見渡すと陣地が田の中に大量にある。
「くそ」
隊員は憎々しげにつぶやいた。
僕は次の陣地に移動していた。天城の作戦が正しければ車列はここに来るはずらしい。
出来れば来ないでほしいなと思った。
「こちら一号車。前方に乗用車。指示をこう」
「こちら指揮通信車。曲がれ」そういった隊長は罠にはめられているのではないかとぼんやりながら思った。
「きたよ」
土嚢にでかい銃をセットした僕はいつの間にか一台減っている装甲車列の一番前の車体を狙った。
正義の味方なんて気取る気はないけど、僕のやっていることは相対的に正義なんだよね。
誰かにそう聞きたかった。そして肯定してほしかった。でも、そういうわけにいかない。
タクシーに乗る天城は自分の作戦がうまくいっていることに満足していた。
「さすが、豊旗工兵隊。一晩でやってくれるとはね」
学校は休みになっており、生徒のほぼ全員が家にいたのが幸いした。もっとも彼らが何を思ったか天城の知るところではない。
フリードリヒの操る対物狙撃銃が火を噴いた。
「横から銃撃! 損害大」
「なに」
「ついに護衛はなくなってしまったな……」
隊長がそういったとたん衝撃が走った。
「本車に銃撃。銃弾はタイヤに向けられたもののよう」
「ここまでか」
そういうと司令部につないだ。
「こちら、指揮通信車。護衛の装甲車全車行動不能の模様。指示をこう」
護衛がついに亡くなった乗用車は走り続けた。塗装されていない地面は非常に走りづらい。
突然、車体が沈んだ。そして、動かなくなる。まるで落とし穴にはまったかのように。
「さて、チェックメイト」
と言って天城はタクシーから降りた。装甲車は隊員出てこないうちに通り過ぎて、豊旗工兵隊が掘った落とし穴に落ちている乗用車に向かった。
すべてを終えて帰ってきた天城は
「吉田さん。もういいです。帰りましょう」とタクシーに乗るなり言った。
「は、はい」
「何をやっているのかな? フリードリヒ君」
「ヒッ」
陣地で銃を構えている僕の後ろにいつの間にか習志野さんが立っていた。学校の制服のままだ。ヘッドフォンを外していたのに足音ひとつ聞こえなかった。
「あなたですか。驚かさないでくださいよ」
僕はこの異常な状況の中から、現実に戻ったような気がした。
「銃を持っている君に言われたかないよ」
「てか、よく脱出できましたね」
「手先は器用なんだ」
手先の器用さで手錠って外れるのだろうか? さっきから異常な事態に巻き込まれて感覚がマヒしている。
「あっちで、車何台か燃えてたけど、君の仕業か?」
習志野さんは先ほどとは違う、冷徹を音声に現したような声で言った。
「いえ」
しばらく間をおいて
「僕が撃った車は爆発してません」
「そうか。さっき、この場所に不釣り合いなタクシーがぼろぼろになって走って行ったけど、天城が乗ってたのか?」
乗用車の人間を射殺してカバンを奪った天城は自宅アパートに帰った。
「あれ? 公安パシリ君いないな」そうつぶやいたが、それ以上気にすることもなくパソコンを起動させた。どうせ、ここはすぐ引き払う。そもそも、あの証拠品が協力者が持ってくれている限り、僕が逮捕されることはない。まあ、今は事情が違っているかもしれないが。
奪ったファイルを開いた。そこに知りたい思うことは書いてあった。
「命張ったかいはあったな。じゃあ、これから、ちょっくら黒幕の暗殺と行きますか」
天城はアパートのためてあった武器をまとめて始めた。
テレビを確認すると三村に電話をかけた。
「あ。三村さん? ええ。お願いしたいことがあります。いや、簡単なことですよ」
三村に話をつけると天城はつぶやいた。
「じゃ、学校へ行こうかな。そろそろ、登校の時間だし」
そういってカーテンを開いた。朝日がまぶしい。
私はフリードリヒとともに天城の家に戻った。
思った通り家はもぬけの殻だ。銃器類は残っていた。が少なくなっている。
「君は彼に体よく利用されたな。まあいいや。あの人が何をするつもりだったか調べなくては」
とはいえ、パソコンも消えている。ヒントらしいものはない。
私が悩む中フリードリヒ君はテレビをつけた。
「えー犯人グループは現在でも籠城を続けています。現場の松田さん」
「はい松田です。現場今も緊迫した雰囲気です。とある情報筋によりますと、豊旗市長の近衛秀介氏が現場にでむく可能性がある…」
近衛市長、呑気なことだ。天城は何をするか天城の視線で考えてみた。
銃器を持っている。 私なら使う。 派手なことが好きだ 私なら事件にまた関与はずだ。 何をする。 全国的に有名な政治家の射殺。
「学校だ」
「はい?」フリードリヒ君が困惑した目を向けた。
「近衛市長が学校近くに来る。天城はそれを殺す気か……」
「え?」
「天城の銃がなくなったってことは、使う気だ。処分するなら残しておかないだろうし……天城は籠城犯ともつながりがある。そこを利用しての校内からの狙撃……」
「何を根拠に……」
「天城の行動に一貫性を求めちゃいけない。私はよく知っている。楽しそうなんて理由で現金輸送車襲った男だぞ」
「そうなんですか」
「君もついてきてくんないかな?」
「なんで、ですか?」
「悪いけど、銃なんて撃てないんでね。それに君も天城に聞きたいことあるんだろ?」
天城は盗んだバイクで走っていた。警察とテロリストが満載な場所に。
この狙撃を終えれば、もう、豊旗高校に来ることもないだろう。もともと、この籠城事件以降は逃亡を余儀なくされるだろうから、もう一回来るのは意外な気もした。
学校最後の日が狙撃とは笑えないジョークだなとも思う。
思えば豊旗高校で過ごした日々は楽しかった。これからも楽しい日々を過ごすだろうが。
特に公安パシリが僕の握る証拠を誰に預けてあるのか探ってた時の頭脳戦はなかなか楽しかった。
それがなくなるのは少しさびしい気もした。




