1-8 声は、届かなかった。
実はタイトルを『マニアワナカッタ…』にしようかと思ったんですがふざけすぎだと思ってやめました。
[ 8 ]
白い髪を持つ美貌の少年、愛染乃至はそっとため息をついた。
何が、どうなっているのやら…。
二藍だけでなく、乃至にとっても全く予想外の出来事が続いていた。
“闇”が現れる前には、ほとんどの場合“H.A”の総司令部からの伝達が入る。
総司令部にいる予知能力者が出現する場所と時間を予言するのだ。
――しかし、今回入った任務は『“闇”が現れたから討伐しろ』という遅すぎる指令によるものだった。
妙だとは思っていたが、どうやら被害者は無事なようだし、敵を難なく倒すこともできた。
自分よりも五歳以上離れているディフェリルはその事実を疑いたくなるくらい帰りたいという気持ちを前面に出している。少しは仕事らしく緊張感を持ったらどうだと文句を言いそうになったが、そんなことをしたら倍以上の言葉で言い返されかねない。年上の女性に口で勝てるなどと考えてはならないと姉や年上の幼馴染から嫌になるほど丁寧に(・・・)教えてもらっている。
挙句の果てに少年の記憶消去までやらされそうになった。
「……俺がやるのか?」
通常部下がやる仕事だ。
年下でも、昇進したばかりでも、一応上司なのだが。
ここで自分がやったら、これからも部下に尻に敷かれてしまうのではないか、いやな予感が胸をよぎる。
そんな心情を読み取ったのだろう。
ディフェリルは頬を膨らませて言った。
「わかりましたよぉ。そんなに嫌そうな顔するなら、私がやりますぅ」
「いや、別に、そういうわけじゃ…」
「いいんですぅ~。どうせあたしは中尉には及ばない格下ですからぁ」
冗談めかした口調だが、微かな不満は彼女の中で確かにくすぶっているのだろう。
勝気な茶の瞳は一瞬だけ嫌なきらめきを灯していた。
近づいてくるディフェリルに少年はおののいている。
可哀想に思うがもうじき忘れてしまうのだから何の問題もないだろう。
――――そして、またもや予想外の出来事が起こる。
腰を抜かしてへたり込んでいたと思った少年が突然立ち上がり、逃げ出そうとしたのだ。
それを捕まえようと動くよりも早く、少年は自らふらついて近くの箪笥に激突した。
ものすごく痛そうな音に目を見開く。
あわてて駆け寄ろうとした瞬間、少年が絶叫する。
「くるなぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」
少年の背後から光があふれ出る。
彼がぶつかった箪笥の一部が強い光を放っている。
凄まじい耳鳴りが頭の中でこだました。
おぞましい記憶がフラッシュバックして、思わず脇腹を抑えた。
嘘だろ、冗談じゃない。
そうしている間に、目の前の少年は光の中心へと手を伸ばす。
美しい光の洪水は、何も知らない彼を引き込もうとしている。
手を伸ばす。届かない。駄目だ、それに触れるな―――
「やめっ――――」
声は、届かなかった。
今までのページのあとがきにも簡単な登場人物紹介をつけました。
ディフェリル・ザリアント:21歳。能力者。階級は准尉。