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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第一章 春は無慈悲な時の女王
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1-7 “共鳴(リゾナンツァ)”

[ 7 ]


風が収まり、美しい光も消える。


鼓動にも似た空気の震えだけが、名残惜しいかのようにしばらく響いて、消えた。




二藍は、掌で糸を掬い取る。



細い一筋の糸だけれども、熱いほどに暖かい。







どさりという音が聞こえて目を向けると、ディフェリルと呼ばれた女性が腰を抜かしてへたり込んでいた。

余裕にあふれていた顔は蒼白で、小柄な体躯はかわいそうなほどに震えている。



カチカチと噛み合わない歯を気にせず、ヒステリックな声を上げる。



「どうして…どうしてっ…嘘でしょっ!!」




呆けたような瞳で二藍は彼女を見つめていた。

どうしてと聞かれても、説明がほしいのは二藍のほうだ。ホストのようなあの男が現れてから、今の今まで、訳が分からないことの連続だ。


「君は、今自分に何が起こったのか、わかっているのか?」


突然、目の前で白が揺れ、美少年が女性を庇うように二人の間に割って入っていた。

女性よりは落ち着いているようだが、その顔は同じように蒼白である。


少年はその冷たい青の瞳には似合わない動揺を隠しきれずに、詰問というには焦りが混じった口調で問いかける。

正直に首を横に振ると、少年は静かなため息をついた。


「何が起こっているの、“H.A”って、“闇”って、いったいなんなの、…もう、訳がわからない」


言いたいことを言ってしまうと、二藍は俯いた。

疲れた。頭が混乱しすぎてショートしてしまったようだ。


「簡単に言えば、“闇”は人間を襲う怪物だ。“H.A”はその怪物を討伐する世界規模の戦闘組織。“闇”は特別な力を持つ者にしか倒すことはできない。…その者達は“能力者”と呼ばれ、“魂の伴侶アニマ・ジェメッラ”と呼ばれる存在を武器として戦う。私と、そこにいる彼女は能力者だ」


「今、俺の身には、何が起こったの?」


「能力者は、“魂の伴侶”――簡単にジェメッラと呼んでいるんだが、それと“共鳴(リゾナンツァ”という儀式のようなものを通じてその力を開花させる。君に起こったのは、その“共鳴”だ。」


「リゾ、ナン…?」


「リゾナンツァ。イタリア語で共鳴という意味だ。君にもともと能力者としての素質があり、今回“闇”に襲われたのがきっかけで力が目覚めた可能性が高い。…わかったか?」



「…なんとなく。だけど、正直、信じられない…」


思ったままに二藍が言うと、当たり前だろうと白い髪の少年は頷いた。

彼は逡巡するように視線をさまよわせ、自分の後ろで蹲る女性を見て小さくため息をついた。

再び二藍へと向き直り口を開く。


「一緒に来てくれないか?」


思いがけない言葉に二藍は一瞬固まり、呆けていた表情を一変させた。


「どういうこと?どこへ行くの?…そもそも、君たちは俺を…“処分”、しようとしていたんじゃないの?」


思わず語尾が震える。怖がっているのを悟らせたくなくて青い瞳から目をそらさなかったが、逆に少年は二藍の恐怖に気づいてしまったようだ。

少年の深い色の瞳が何かに気づいたように見開かれた。そして小さく呻ると無造作に揺れる自身の白い髪の毛を乱して頭を抱えた。俯いた彼の表情は見えないが、その姿は何かを猛烈に反省する時に二藍が自室で行うポーズに見えて仕方がない。妙なところで親近感が湧く。


「“処分”じゃなくて“処理”だよ。…殺そうとはしていない。それなら君をあの男から助けた意味が無いじゃないか」


困ったような顔で言われて二藍は気まずくなった。

確かにそうだ。

先ほどの男は自分を殺そうとしていたが、それを救ったのは間違いなく彼らだ。

あまりにパニックになっていて殺されると勘違いしていたのか。


「俺、てっきり、口封じに…」


「君が襲われた記憶を消そうとしたんだ。これ以上君が関わらなくてもいいように」


もう、そうも言ってられない状況になってしまったけど、そう付け足した少年は、全てを吸い込むような青い瞳で二藍を見つめた。


「世界中の能力者は“H.A”によって管理されている。君は能力者として覚醒してしまった」


戸惑う二藍に少年はさらに言い募る。

深い青の瞳に、間抜けな顔をした自分が映っているのが見えた。


「君のとる道は二つある。…力を封じるか、能力者として戦うかだ」


縁側から差し込んでいたはずの夕日は、いつのまにか昏い二藍色へと変化していた。


もうすぐ夜が来る。


暖かい風が少年の白亜の髪を揺らす。


「選ぶのは君の自由だ。しっかりとした説明をするために、これから君を私たちの本拠地に連れて行くことになる。勿論、説明を終えたら君のことは責任をもってこの家に帰す」


少年は二藍に手を差し出した。

薄暗い中、その白い手が浮かび上がるように招いている。




「――わかった」


二藍は陶磁のように滑らかなその手に自分の手を重ねた。



”H.A”::闇を討伐する組織。

闇::怪物。“H.A”の討伐対象。

能力者::闇を倒す力を持った人間。

魂の伴侶::anima gemella。通称ジェメッラ。闇と戦える力。

共鳴::risonanza。人とジェメッラが起こす現象。これによって能力者になれる。

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