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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第二章 傷は優しい君の噛み痕
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3-1 白い“世界”でひとり

お久しぶりです

降る雪は祈りのように、じわりじわりと私を侵略する。



[1]



―――ああ、まただ。



目の前に広がっていた銀世界は今や禍々しい深紅に染められて見る影もない。辺りには、三人の死体と、二つの空っぽの戦闘服。そして、自分が今抱きかかえている死にかけの少年。

少年は笑っている。おそらくもう視力を失ったオレンジの瞳には、自分の血に汚れた幽鬼のような顔が映りこんでいた。


「そんな顔、するな」


掠れた声が雪の降る中響き、耳の奥でいつまでも消えない。自分はどういう顔をしているのだろうか。

師を失い、絶望に狂いそうになりながらも自分の手を掴んでいてくれた友を、この今、失おうとしている――――。



―――また一人ぼっちになってしまう。



誰かの泣き声がぐらぐらと頭を揺らす。体が熱い。


「置いていかないで」



ぽろりと零れた言葉が、すべてだった。



「俺を、置いていかないで。師匠も、お前もいなくて、それでも俺、頑張ったのに。ずっと待っていたのに。お前が帰ってくること。一人ぼっちで、“世界”がどんなに冷たくても、俺は、兄さんの帰りを、ずっと待っていたのに。セリンが起きてくれるの、ずっと、待っていたのに」


途中からは、何を言っているのか自分でもよく分からずに、自分を置き去りにしてしまう友を詰った。



「ねえ、置いてかないで」



気付けば友は動かなくなっていた。指の先から、ぽろぽろと光の粒になって、空中へと溶け消えていく。


「お願い、お願いだから!」


まだ温もりの残る体を抱きしめても、崩壊は止まらない。蛍のような光は舞い落ちる雪に逆行して、空へと昇っていく。とうとう胸に抱きかかえていた頭部も崩れ、最後の光の粒を追いかけるように立ち上がり、上へ向かって手を伸ばし、あと少しで指先が触れるという瞬間に、光は搔き消えた。


「あ、あぁ……」


喉が震える。言葉にならなかった。勢いよく真上に伸ばされた手は力を失いだらりと垂れ、一度だけ大きく見開かれた瞳は、長い睫毛に縁取られた瞼に隠された。見上げた体勢のまま、凍りついたように動かない姿はよくできた彫像のようだった。


このまま心臓を凍りつかせて、終わりにしてしまおう。そう思った。




―――また一人ぼっちに、なるぐらいなら。


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