1-5 夢は枯野を駆け巡り次を映すその色に祈りを込める
[ 5 ]
鎌木家は何百年もの歴史を持つ反物職人の一族だ。
その素晴らしい技術と斬新な柄や色遣いのために、様々な時代で将軍や朝廷、時の権力者たちからの寵愛を受け、今も本家では、皇族や有力政治家との交流があると聞いている。
二藍の住んでいる地域では、そういった職人の一家は特に珍しいものではなかったが、それでも鎌木家ほどの歴史、技術、格式のある巨大な一族はそういない。
いったいその長い歴史の中で、なぜこんな風習が始まり、今も続いているのかわからないが、
鎌木家の男は『色』、女は『重色目』から名前をもらう。
『重色目』というのは着物の表地と裏地の色の配色のことだ。
男の自分が貰った色の名は、二藍。
呉藍、つまり紅色と藍の二色からなる色で、暗い青に近い紫だ。
なぜ、この色を選んだのか。
幼い二藍が尋ねると、両親は決まって言葉に詰まった。
すると『枯野』と名付けられた姉はこう言うのだ。
『二藍は、昼と夜が変わるときの、一番綺麗な空と同じ色をしてるんだよ。
みんながあんそくを感じる夜を呼ぶの、
でも、夜だけだと人は寂しいから、
そっと、みんなを起こしてくれる――朝へと変わる色でもあるんだよ…すてきな名前でしょう?』
八つ違いの姉はとてもしっかりしていた。
二藍が、鎌木家の人間はすべて当主に命名され、両親が命名することは許されないということを知るのは、この数年後だった。
『二藍なら、解る事ができるの、
だって、二藍は…紅も、藍も、含んでいるから―――……』
鎌木枯野:二藍の実姉。海外留学中。鎌木朽葉と婚約中。