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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第二章 傷は優しい君の噛み痕
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2-2 再始動

誰も知らない世界の裏側で、今日も私たちは世界のために闇と戦う術を学ぶ―――


[2]


 今日は戦闘クラスに編入生がやって来るらしい。


 教室は朝からその話題で持ちきりだった。

 生徒たちの間で飛び交うどこから転がってきたのかも分からない――言ってしまえば大変胡散臭い噂話によれば、その編入生は今まで一般人として暮らしてきたが、闇に襲われたことをきっかけに共鳴(リゾナンツァ)して能力者になったらしい。

 そんな馬鹿げたことそうそう起こるはずはないだろうと俺は友人の言葉を切り捨てた。共鳴の素質は殆どが遺伝によるものだし、時々極稀に突発的に発生する血縁関係のない能力者は何十年に一人の割合でしか見つからないはずだ。現在はそんな能力者が二人もいる状態だと聞く。短期間にそんなにたくさん一般人が共鳴するなんて異常としか思えない。そう思っていたのだ。


「えー、でもこれは本当だって。カイレミヤ先生が言ってたってデヴィットが…」


「あの教師はいつも適当なことしか言わないだろ」


 俺の身も蓋もない返答に友人は唇を尖らせた。

 もうすぐ朝のホームルームが始まるとそいつを席に追い返し、今日の課題が鞄の中にあることを確認しておく。よかった、入っている。


 ここは“H.A”所属機関、ハリエイオス能力者養成学園。

 その名の通り能力者を養成するために“H.A”が管理する施設だ。幼等部、中等部、高等部の三つに分かれており、それぞれ戦闘・非戦闘・準資格の三つのクラスにさらに分けられる。

 武器を持ったり変化したりして肉弾戦を基本とする能力者は戦闘クラスへ、封印や治癒、瞬間移動など後衛やサポートをするのに適していれば非戦闘クラスへ、まだ共鳴をしていないがその可能性がある者、もしくは非能力者として治療や能力者のサポートをする兵士となることを志望する者は準資格クラスへ配属される。まあつまり、厳密に言えば能力者ではない者たちもこの学園にはいるのだが、クラスごと校舎が離れているためにあまり交流はない。

 俺の所属は非戦闘クラスで、十六歳という年齢に見合う高等部だ。高等部では実践に活かせる能力者は年齢に関係なく“H.A”に引き抜かれるため学年は存在しない。短い人は一年か二年、長い人では四年ほどかけて能力を磨き、不定期に行われる卒業試験に合格すれば一人前の能力者として戦場へ向かうことができる。俺は今年で二年目だが、去年の成績を見る限り卒業はまだまだ先のようだ。


 教室に入ってくる担任が今日の連絡事項などを伝えていくのを、俺は欠伸をこらえながらぼんやりと聞いた。



まさか本当に編入生が来るだなんて、その時の俺は欠片も思っていなかった。

ましてや、俺と“彼女”の行く末を大きく変える決定的な出来事になるとは、この時はまだ想像できるはずがなかった。




********



「皆さん、静かに!」


 教室に入ってきた担任が手を叩き、ざわつく生徒の注意を引く。いつもより騒々しいのは編入生が来るという噂のためだろう。

 こんな微妙な時期にやって来る編入生は、驚くべきことに元は“外”の人間だったらしい。たまたま共鳴が起こって能力者になったらしく、生徒たちがその稀有な出自に色々と考え(という名の妄想だろうか)を巡らせたためにその編入生は「超絶かっこいいどこぞかの上流家門の隠し子」になってしまっているとリリアに聞いた。

 どこぞかの隠し子であるという可能性は無きにしも非ずだが、前半部分の容姿については主に女子たちの期待が大きく影響したようだ。私が言うのもなんだが、四つある戦闘クラスのうち、学園内で話題になるような容姿の男子生徒がこのクラスにいないからかもしれない。


「知っている人もいるかと思いますが、今日は皆さんの新しい仲間を紹介します!」


 一度は静まった生徒たちがまた騒ぎ出す。


「さあ、カマギ君、入ってきて!」


 教室の外で待たされていた新入生は落ち着いた足取りで中に入って来た。あれだけ騒がしかった教室が一瞬で静まり返り、生徒たちは固唾をのんでその様子を見守る。


「初めまして、カマギフタアイです」


 グレーの髪に、薄茶の瞳、背は少し低く、体型も痩せ型。

 色素が薄いせいか儚げに見え、顔つきもまるで女のような黄色人種の少年。

戦闘員となるために幼少期から鍛えており体格の良い者の多い同級生たちを見慣れているせいか、自分たちとそう変わらない年齢には見えなかった。



 正直に言って、弱そう。それが彼、フタアイ・カマギへの私の第一印象だった。


 もちろんそんな不名誉な印象はすぐに挽回されることになるうえに、フタアイは学園の卒業最短記録を更新してしまうほどの能力者であったのだけれど、その時は私を含めきっとクラスのほとんどが同じことを考えたと思う。もともと小柄な日本人の少年はとても幼く見え、到底戦場で血みどろになって凶悪な闇と戦うことなどできないように見えたのだ。


「カマギが名字で、フタアイが名前です。出身は日本です。よろしくお願いします」


担任から促されるだけの情報を私たちに告げると、指示された席に彼は着く。教室の後方、一つだけ飛び出るように設置された机は彼が新参であるということを憚りもなく見せしめるようであんまりだと思った。だが、一番後ろのおかげで彼に向けられる好奇の目は減ることとなる。わざわざ振り返ってまで彼を観察する勇気は生徒たちにはなかったのだ。

表面上は落ち着きを取り戻した教室で、改めてホームルームが始まった。

またいつも通りの、長い一日の始まりだと、私は窓の外の良く晴れた空に目をやる。


世界はいつも通り、憎らしいほど変わらず、私の氷とやらもそのままで。

流れる水の中に浮かび通り過ぎていく泡が一つ増えたところで底に沈んだ石ころが何も変わらないのと同じように、編入生が現れたところで私には何一つ変わりはないと、そう感じた。



……こんな、フタアイにとっては失礼極まりないこの出会いが、私と“彼”の行く末に決定的な出来事になるとは、この時はまだ想像もしていなかった。私の勘は当たらないことが多いということを、私は失念していたのだ。






あまり気に入らないので改稿するかもしれません。

もし改稿してもストーリーは大きく変わらないと思います

次回の更新→九月第一週のうちに

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