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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第一章 春は無慈悲な時の女王
26/64

1-24 能力者

[24]


二藍が振り向くよりも早く振り下ろされた偃月刀エンゲツトウは、二藍と刀の間に突然現れた一枚の札によって受け止められていた。

空中に浮かぶその札は、青白い光を放つ紋様を二藍たちを庇うように展開している。紋様は七芒星と正円と見たこともない横文字が組み合わせてあり、刃と触れている部分はバチバチと物騒な音を立てて光が荒ぶっている。


偃月刀を振り下ろした物騒な人物は、フードの付いた踝までの灰色のコートを身に着けていて、かぶっているフードの下の表情は見えないが攻撃を受け止められたことへの微かな動揺が伝わってくる。

顔も見えなければ声も聴いていないので性別は分からないが、体格からして男のように見える。


男が思わぬ出来事に動きを止めたのは一瞬の事で、すぐさま左方から飛びかかってきた黒服の別の男が振りかざした剣を受け止めて、後方へ大きく飛び退いた。

それを追いかけて黒服の男は更に跳躍し、外国の映画で中世の騎士がもっていそうな長剣を突き出す。追い詰められた男は体勢を崩しながらも偃月刀で受け止めた。甲高い金属音が響き火花が散る。

剣の男の黒服は軍服のようなデザインで、白いワイシャツに黒いネクタイ、腰元にベルトが回され所々にワッペンのような装飾が付いた黒いスーツで、靴はサラリーマンの革靴とは似ても似つかないゴツい軍靴。男自身は茶の短髪に黒の瞳で褐色の肌をしていた。顔つきは東南アジアを思わせ、黒く深い瞳が印象的だ。ひとまず日本人ではないようだった。


何が起きたのか分からず呆然としている二藍に、もう一人の黒服の男が駆け寄った。服の細部は異なるがほぼ同じ造りであり、二人は仲間のようだ。


「大丈夫ですか?!怪我は有りませんか?!」


二藍達のもとにしゃがみ込み黒髪黒目の青年が問いかける。


「あ、いえ…俺は大丈夫ですけど、この子が…」


二藍は戸惑いながら腕の中の初雪を示す。

青年は少し驚きながら、


「安全な場所に移動します、こちらへ」


そう二藍を刀剣を合わせて戦う二人とは別の方向に促す。

混乱した頭ながらも初雪を抱えて歩きだしたその時、行く手を阻むかのように、偃月刀を持った男と同じ灰色のロングコートを着た者たちが出現した。

何もない空間から飛び出してきたそれらは手に手に物騒なものを持ち、二藍たちと一気に距離を詰めた。


「…!」


飛びかかってきたフード姿の者たちから二藍を守ったのは、誘導していた青年が投げた三枚の札だった。先程と同じ七芒星と正円と見慣れない文字の模様を放ち、繰り出された剣や鎌、ナイフといった

刃物類を弾き返した。

札の光が消えるよりも早く、黒服の青年が二藍たちをかばうように前に出る。

そのまま地面に膝をつき、腕を勢いよく振り下ろして地面に何かを突き刺した。その瞬間強く風が吹き、ドーム状の青い光の膜が青年と初雪を抱えた二藍を包み込む。

半透明の膜を見上げる二藍に、青年は腰をおろして三人身を寄せ合うように指示した。二藍が青年に近づきしゃがみ込むと、その分だけドームの大きさが小さくなった。

青年が突き刺した物に目を遣ると、それは手のひらサイズの角ばった杭だった。青い光を幽かに放つ白い杭は表面に青い六芒星や七芒星が描かれている。

杭をじっと見つめる二藍に、青年は「触らないでくださいね」と釘をさす。ドーム越しに向かってくるものが、すべて弾き返されている。盾の役割をしているようだ。


青年は黒服の襟元に付いた銀色のバッジを指先でいじり、切迫した声で話しだす。


「こちら、第三部隊の李月仁イ・ウォルインです。対象者とその連れを一人保護しましたが、闇の数が増えました。十体ほどです。結界を張り、バイスが戦っていますが、数が多いです。至急、応援を要請します」


ガガッとノイズ音がして、バッジ越しに女性の声が聞こえてくる。


『分かりました。愛染乃至アイゼンナイシ中尉が任務が終わり次第そちらに向かうとのことです。遅くて三十分程で着きますが、持ちこたえられますか?』


青年はドームの外で戦う黒服の男を見た。偃月刀を得物とする灰色のコートを着た者をちょうど斬り捨てた所だ。金の粒子となって闇が霧散する。

他の闇は自分が張った結界を少しでも弱めようとドームへ攻撃を続けている。バイスにはまた一体の闇が相手をしている。


「恐らく大丈夫です。ですが、なるべく早くお願いします」


『勿論です。戦況が変わりましたら、直ぐに連絡してください』


「はい、了解しました」


会話を終えてまたバッジを弄ると、青年は杭に触れないようにしながら、慎重に二藍達に向き直った。


「初めまして、鎌木二藍さん。私達は世界機構“H.A”の者です。私は李月仁イ・ウォルイン、向こうで戦う彼はバイス=モンローです。色々と驚かれたと思いますが、私達は貴方を守る為にここにいます」


李月仁の真剣な瞳に二藍は頷いた。黒服の彼らが助けてくれたのは分かる。

「貴方を今襲っているあの灰色のコートのモノたちは、闇と呼ばれる、人のカタチを模した怪物です」


「…。」


固まった二藍に、李月仁は気の毒そうな様子で

「信じられないのも無理はありません」

と慰めとも何ともつかない言葉をかける。


「あの闇を倒すことができるのは、能力者と呼ばれる、特別な力を得た人間だけです。能力者でない人間は奴等に擦り傷ひとつつけることはできません。今、バイスが一人で戦っているのは、彼が能力者で、私が能力者でないからです」


ドーム越しに見えるバイス=モンローは、一体の闇と戦い続けている。表情に焦りは見えず、他の闇はドームへ攻撃し続けている。


「このドームは結界というもので、攻撃を防ぐことができます。結界は能力者が作ったツールを私が使っているだけで、私自身の力ではありません。そして、私達と闇がいるこの空間ごと、今は能力者による結界で隔離されています」


「…隔離って、どういうことですか?」


「闇が狙っているのは貴方ですから、近くにいる他の人や建物に被害を与えないように閉鎖空間を作っているんです。…そうですね、例えば、この空間で大爆発が起こっても、爆発の被害を受けるのはこの隔離された空間の内部にあるのものだけです」


なんという物騒な例えだ。


「今は、私達は結界に守られているので安全です。敵のランクもDやEで…つまり、あまり強くはないので、後五時間は持ちます。少なくともそれまでには応援は来るので安心してください」


目と鼻の先で刃物が結界に弾かれているのに、安心など出来るわけがないと思いつつ、二藍は一応頷く。


心配なのは初雪だ。

先程よりは落ち着いているが、顔色は悪く、呼吸は荒い。


初雪を不安気に見つめる二藍に、李月仁が声をかける。


「…時々、能力者の持つ“魄動”や“魂動”…オーラのようなものに具合が悪くなる体質の人がいます。アレルギーのようなもので、非常に珍しく、私も直に見るのは初めてです」


「あの、どうにかならないんですか、彼女すごく苦しそうで…」


「私にはどうにも…いえ、完全に気絶してしまえばいいと聞いたことがあります」


試してみますか?と李月仁が尋ねる。やらないよりはやってみたらいいのではないだろうか。


「じゃあ、お願いします」


初雪を李月仁に差し出すと李月仁は手刀で少女の項を軽く叩いた。初雪はがくりと首を落とし、その体から力が抜けていく。


『やっぱり力業(チカラワザ)なんだな…』


謎の罪悪感が沸き上がるが、初雪の呼吸が落ち着いたので効果はあったようだ。

二藍と李月仁はほっと胸を撫で下ろした。


二藍が、初雪の体を抱えなおし、額にかかる前髪をそっと避けた。

「どうして、どうして俺が狙われているんですか?」


李月仁は『闇が狙っているのは貴方です』と言っていた。ということは、初雪はそれに巻き込まれたのだ。

この間行方不明になった事といい、今回の襲撃といい、一体自分に何が起こっているのだろうか。


二藍の黒い瞳が真っ直ぐに李月仁を捉える。

先程まで戸惑い混乱していた少年が初めて見せた強い色に李月仁は驚きながら口ごもった。


「、それは…」



言いかけたその時、ガガッと、李月仁の襟元からノイズが発せられた。響いてきたのは、焦った男の声。


月仁ウォルイン!結界から何か侵入したぞ!警戒しろ!』


その言葉の末と同時に、今度は通信機越しでない、はっきりとした声が響く。




「それはね、君が能力者だからだよ」





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