表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第一章 春は無慈悲な時の女王
23/64

1-21 それぞれの居場所へ

短いです

[21]



ルストゥルトゥの部屋のあった最上階から二つ下のフロア、銅のプレートの掛かったドアの前で、二藍と乃至は向かい合っていた。


「ここで記憶と力を封印して、君を家に返す。あとは中にいる能力者が出す指示に従うだけだ。…俺はここまでだ」


「そっか…」


乃至の言葉に、二藍は力なく返事をした。



二藍は、元の生活に戻ることを選び、ジェメッラである糸を手放した。

糸束が手から離れた瞬間、何かひどく大切なものが自分の中から抜け落ちたのを感じた。心臓を鷲掴みにされたような痛みが襲い、小さな子どものように喚き立てて『やっぱりいやだ』と駄々をこねてしまいたいと、今思うと自分でもぞっとするようなことをしたいと本気で思った。


それでも糸を置いてくることができたのは、ここにいる愛染乃至のおかげだった。

乃至が少女とも見紛うその見かけからは想像もつかない万力のような力で二藍の手首を締め付け、有無を言わさず部屋から連れ出したのだ。手首には跡が残ったが、ありがたいことに変わりはない。



「今日は、助けてくれてありがとう」



深い青の瞳をまっすぐに見つめて、心の底からお礼を言う。すると、乃至は少し驚いたように目を見開き、柔らかく微笑んだ。絵に描いたような美しさだ。



「こちらこそ、怖い目に合わせてすまなかった……じゃあ、元気で。さようなら」



「…君も元気で。さよなら」



真夜中の青。薄闇の中で輝くこの青色を忘れてしまうのが、少し残念だと思う。

けれど、二藍は元の暮らしに戻ることを選んだのだ。

戦うことへの恐怖と、自分の中に欠片ほど残っていた意地が、自分をそうさせた。

自分が職人になることを妬み、厭う者たちの思う壺にはさせたくなかった。


確かに今の生活は単調で、決して面白いといえるものではないかもしれない。けれど、幼い頃から憧れていたことに変わりはなく、乃至への一時の羨望だけで捨ててよい夢ではない気がしたのだ。



現実離れした美しい少年に背を向け、ドアノブに手をかける。




――――戻ろう、自分の居場所へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ