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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第一章 春は無慈悲な時の女王
21/64

1-19 「俺は――」

[19]



「――“H.A”は双子の名前が由来だと伝えられている。…双子の本名は伝わっていないが、双子の子孫が現在も“H.A”の総指揮をとっている」


ルストゥルトゥは左右の色の異なる瞳で二藍を見つめた。

「双子に力を与えられた協力者が近親者を中心にさらに力を貸し与えていき、力を持つ者――能力者がふえていった」

二藍はそこでほんの少しの違和感を覚えた。愛染乃至の説明では、予め“共鳴(リゾナンツァ”を起こす素質を持ち、なおかつ運良く自分のジェメッラというものに出会うことのできた者が能力者となれる、ということだった気がする。

しかしルストゥルトゥの話では、力の貸与なるものが行われているという。

さらに能力者が増えたということだから、その協力者たちは譲渡しても力を失わず、かつ何人かの人に譲渡を行ったのだろうか。その場合は自分のジェメッラはいったいどうなるのだろうか。


混乱が顔にも現れていたらしく、乃至にどうしたと尋ねられたので正直に聞いてみた。

「双子が協力者に与えた力も、協力者がほかの者達に与えた力も、あくまで“共鳴(リゾナンツァ)”を起こす力だ。力を与えた者のジェメッラと“共鳴”するのではなく、誰もがオンリーワンのジェメッラをもち、それと“共鳴”する」


白い髪と青い瞳の少年はそう答えて温くなった紅茶を啜る。


「つまり、力を与えるっていうのは、“共鳴”するための素質を与えるっていうこと?」


乃至につられて二藍もティーカップを手に取る。揺れる薄茶色の液体に、自分の顔が映り込む。


「そういうことだ。与えられたのは“共鳴”するチャンスに過ぎなかった。だから力を与えられても、自分のジェメッラに出会えなかった者には“共鳴”が起こらなかったし、もちろん能力者にもなれなかった」


ようやく納得して、二藍は紅茶に口をつけた。生温いながらも高級そうな香りが口腔に広がる。


「双子、協力者、また彼らに力らを与えられた者の子孫には“共鳴”を起こす素質が絶対ではないにせよ遺伝した。能力者同士の子どもは、能力者と能力者でない者との間に生まれた子どもより“共鳴”する確率が高い」


ルストゥルトゥも紅茶を口に運ぶ。フロルは会話に加わらずに本棚の書類の整理をしている。

「じゃあ、俺にはどうして“共鳴”が起こったんですか。俺の家は、確かに古い家柄なのかもしれないけど、両親はもちろん、親戚たちもそんな…力なんて持っている人はいません」


二藍の両親はサラリーマンと専業主婦だ。姉は確かに驚くほど優秀だが、ただの大学生であることに変わりはない


「能力者は、その先祖に能力者がいることがほとんどだ。“H.A”で把握している能力者の九割は能力者の先祖がいる。…しかし、後の一割は能力者が先祖にいたかは分かっていない。君のようにごく普通の家庭で暮らしていた者が、ある日突然“共鳴”を起こして能力者となることは、少ないながらも今までになかったことではない。それは、もしかしたらその者の先祖に能力者がいたのかもしれないし、突然に素質を持つ者が生まれたのかもしれない。私たちにも、どちらなのかは分からない」


ルストゥルトゥは続ける。


「普通の能力者は“H.A”の施設内で一生を過ごす。能力者のための学校に行き、教養と戦うための技術を幼い頃から学び身に着ける。しかし、君は今までごく普通に暮らしていた一般人だ。たとえ“共鳴”を起こそうとも、翼ある者と双子が交わした契約に君を縛るべきではない。能力者として戦うか、今日のことを全て忘れて元の日常に戻るか、君には選ぶ権利がある」


選ぶ権利がある、と言われても、さすがに答えは決まっている。今日だってもう十分に恐怖を味わったのだ。――命懸けの戦いなんて、できるはずがない。


「俺は…」

「一つ付け加えるべきことは」


言いかけた二藍を遮るように口を開いたのは、今まで聞いているだけであったフロルだった。偶然タイミングが重なってしまったのか、本当に遮ったのかは分からなかった。


「もし鎌木さんが今までの日常に戻るということでしたら、鎌木さんの今日一日の記憶と目覚めた力を封印し、ジエメッラをこちらに引き渡してもらうことになります」

「え…」

思わず二藍は声をもらした。


『どういうことだ…。糸を、ジェメッラを失ってしまうのか…?』


「ジェメッラは闇と戦うためのものだ。闇と戦わない一般人に持たせておくわけにはいかないし、ジェメッラを持っていたら君は元の世界に戻ることはできないだろう」

「闇はジェメッラを持つ者を嗅ぎ付けるんだ。その糸を持つたままだと、君は闇を引き寄せてしまう」


ルストゥルトゥと乃至の言葉に、二藍は黙り込んだ。

懐に入れた糸の束。この数時間で二藍にとってまるで体の一部のように思えるまでにその存在を膨らませていた。この糸を“H.A”に置いていってしまうのは、二藍に片手を切り落としていけというようなものだった。この糸を、自分のジェメッラを失いたくはない。だけど、あの死を感じた瞬間の恐怖は耐えがたい。ひたすらに修業を続ける、平和ででもつまらない毎日を思い浮かべる。何の刺激もないまま、何十年先の活躍を夢見て今の生活を続けていくのか。


ふと、今日の愛染乃至の姿を思い出す。


『かっこよかったな…』


自分と同い年にもかかわらず、部下に指示を出し、他の人達を守って戦う。

自分も彼と同じく力がある。自分にしかない力が。他の人のためになる力だ。姉にも義兄にも迷惑をかけ続ける今の“職人”の道とは違い、ここでは二藍を必要としている人がいるのではないか。

二藍は口を開いた。



「俺は――」





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