1-14 枯野
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二藍は、またあの暗闇の中、一人漂っていた。
そしてまた、自分が泣いているのに気付いた。
『小学生じゃないんだからさ…』
我ながら呆れてしまう。今日で何回目だろうか。本来自分は滅多に泣かないのだけれど、色々なことがありすぎて随分涙腺が緩くなっているようだ。
ふと、あの少女の哀しげな笑みが誰の表情と酷似しているのかやっと分かった。あの笑顔は、自分の姉が時折見せるものだ。
全てを、何をされても、許す聖母の慈愛。
二藍は、姉のその微笑を見るたび不安になった。
全てを許し続けたその先には、何があるのか。
いつか姉が、佳麗乃が、枯野が、壊れてしまうのではないのかと。
あの少女は、壊れてしまわないだろうか、
あの、少女、は…
『あ、れ…?』
名前を、なんと言っていただろうか、
姿は、どんな姿をしていた…?
声は…?
濃い霧に覆われたように、記憶の輪郭がおぼろげになっていく。
――――――『貴方が私を忘れてしまっても…』
その言葉の意味が今になって分かった。
「忘れたく、ない、な…」
呟きはやはり響かない。
そして、何を忘れたくないのかも、二藍は思い出すことができなくなった。
遠くに光が見える。
二藍が何をしなくとも、その光は自ら近づいてきた。暖かい。
その光の温もりは、二藍の記憶を静かに覆い隠していく。
「ごめん」
記憶を失っていく中、古い滲みの様にぽつんと残った感情が、口をついて出た。
それを最後に、もう忘れたことさえもあやふやになり、二藍は目を閉じた。
光が、二藍の身体を呑み込んでいく。




