1-12 「いつだって私はあなたを愛してます」
タイトルは椿の花言葉より
[ 12 ]
固くて冷たい床の感触を全身で感じる。倒れこんでいる。
頭の奥で、何かが疼く様な痛みに、二藍は顔をしかめた。
思わず手を頭にあてると、指に絡まっていた二藍色の染糸が少し癖のある髪の毛にも絡み付く。きちんと束にして持っていたはずなのに、ぐちゃぐちゃにほどけて横になった二藍の体を覆うように広がっている。
先程までいた暗闇の中では肉体を感じる事がなかったため、安心したような溜息がこぼれた。
もう十五なのに泣くなんて死ぬほど恥ずかしいが、あれは今まで経験したことのない恐怖だった。
自分を見失いそうなほどの、孤独感。
「僕は、存在してる」
確かめるように呟いてから、手を見つめ、強く握った。
糸を回収しながらようやく体を起こし、二藍は顔を上げた。
一体、ここは何処だろうか。
マルクと言う金髪の青年の能力で、“H.A”に瞬間移動したはずだ。だが、残ると言っていた人間離れした美貌の白髪の少年は勿論、二藍を運んだであろう当のマルクも、一緒に移動したはずのデイフェリルも何処にも姿が見えなかった。
代わりに、二藍が目にしたのは、大きな円筒形の水槽と、その中に浮かぶ、一人の少女だった。
二藍はぽかんと口をあけた。なんだ、これは。
最初に目に入ったのは薄浅黄色の液体の中で揺れる金色だ。
淡く癖のない金髪が十歳程に見える少女の身長の何倍もの長さで、少女を繭のように包み込むように広い水槽の中で圧倒的な体積で存在し、底では渦を巻くように沈んでいて、台座の白いライトを反射しながら微かに揺れている。
水槽は大の男が両腕をのばしても抱えきれないだろう程の太い直径であり、複雑そうな機械の組み込まれた台座を含めずとも縦が三、四メートルはある。
薄浅黄色の液体には、時折少女の僅かに開かれた唇から零れる気泡が揺らめいては消え、液体の中で、管も装置も付けない少女が呼吸していることを示していた。
少女の身に付けた白のドレスは少女の爪先を少しちらつかせる程度の長いものであったが、身体に合わせてあるようで中に何かを仕込めそうにはない。
一体この少女は何者で、ここはどこなのだろうか。
二藍がじっと少女を観察していると、不意に少女の柔らかそうな唇から大きな気泡が出た。
金細工の様な睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開く。
固唾を呑んで見守る二藍に曝された瞳の色は、艶やかな椿の赤。
彼女と目と目が合い、吸い込まれそうな丸く大きな瞳に驚いた表情の二藍が映っている。
桜色の唇の端を上げて、少女は優しげに微笑んだ。




