1-11 暗闇(マックロ)
[ 11 ]
暗い、暗い、暗い。
目を開けているのか、閉じているのか分からない、本当の暗闇に二藍は漂っていた。
手を自分の正面に伸ばしてみるが、その手は見えず、また何かに触れることもない。
肉体が存在しているのかどうかさえ、疑いたくなるような孤立感。
暗いという事の圧迫感は強烈に不安を煽る。視覚を補うように研ぎ澄まされた聴覚がそれを助長していく。
カラカラに渇いた口腔から、呻きの様な音が生まれた。響きもしなかった。
ここから出してくれと叫びたい衝動に駆られ、それでもそんな惨めな事はできないと、妙なところでプライドのある自分が不思議で腹立たしい。不安は膨れていくのに、吐き出す場所が見つからない。
――怖い、苦しい。
早く、誰か、
しかし、突然、微かに聞こえた誰かの声に、孤独と焦燥は一瞬にして打ち消された。
「―――たぃ」
『…?』
男か女かさえ分からない、泣き叫ぶような、苦しみによって吐き出される言葉。
悲しみだけが伝わってくる。
何を言っているのだろう。
知りたくて二藍は必死に耳を澄ませた。
「―…―いたい」
二藍の頬の上を熱い液体が下降した。
何故だろう、こんなに悲しい声は今まで聞いたことがないはずなのに。
頭のどこかで、何か、懐かしさのようなものが駆け巡る。
「――逢いたい」
今度こそ聞き取れたその声に、
「誰に、逢いたいの…?」
と、思わず二藍は尋ねてしまっていた。
答えてもらえるなどとは思っていなかったが、意外なことに声の主は反応を示した。
「…!」
息を呑む音が聞こえた。
暗闇の中でも、大気が震えているのが感じられた。
「あいたい、ひとは、―――」
「え?」
上手く聞き取れない、もう一度、言ってほしかった。
「…でも、もういい、」
悲しみのあまり、張り裂けそうだった声は、いつしか穏やかなものへと変わり、それでも悲壮に満ちたまま、静かにこの空間に響いていた。
「…どうして?」
「もう、答えはとっくに示されているんだから、」
訳が分からなかった。
何も返すことのできない二藍に、声は、囁くようにこう言った。
「 いいんだよ、たとえ、選ばれることはなくても、…あの日々は、確かに、そこにあった…」
ゆっくりとした、落ち着いたその声が、むせび泣くように聞こえたのは、何故だろうか。
遠のく声と共に、遥か彼方に白い光が見えた。
眩しくて、暖かい。
無意識のうちに伸ばしていた手は、人肌のようなその熱を、確かに感じていた。
段々と、白い光が近づいているのが分かる。
―――『あの光の向こうで、彼女は僕を待っている』
『…?』
不意に聞こえた声、低い、男のもの。
再び、頬に熱い涙が流れるのを感じた後、二藍は痛いほどに白い光の渦に身を投じた。




