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春は無慈悲な時の女王  作者: メイア
第一章 春は無慈悲な時の女王
12/64

1-11 暗闇(マックロ)

[ 11 ]


暗い、暗い、暗い。




目を開けているのか、閉じているのか分からない、本当の暗闇に二藍は漂っていた。


手を自分の正面に伸ばしてみるが、その手は見えず、また何かに触れることもない。

肉体が存在しているのかどうかさえ、疑いたくなるような孤立感。


暗いという事の圧迫感は強烈に不安を煽る。視覚を補うように研ぎ澄まされた聴覚がそれを助長していく。


カラカラに渇いた口腔から、呻きの様な音が生まれた。響きもしなかった。

ここから出してくれと叫びたい衝動に駆られ、それでもそんな惨めな事はできないと、妙なところでプライドのある自分が不思議で腹立たしい。不安は膨れていくのに、吐き出す場所が見つからない。





――怖い、苦しい。

 早く、誰か、







しかし、突然、微かに聞こえた誰かの声に、孤独と焦燥は一瞬にして打ち消された。



「―――たぃ」



『…?』


男か女かさえ分からない、泣き叫ぶような、苦しみによって吐き出される言葉。

悲しみだけが伝わってくる。


何を言っているのだろう。

知りたくて二藍は必死に耳を澄ませた。





「―…―いたい」





二藍の頬の上を熱い液体が下降した。

何故だろう、こんなに悲しい声は今まで聞いたことがないはずなのに。

頭のどこかで、何か、懐かしさのようなものが駆け巡る。





「――逢いたい」




今度こそ聞き取れたその声に、


「誰に、逢いたいの…?」




と、思わず二藍は尋ねてしまっていた。


答えてもらえるなどとは思っていなかったが、意外なことに声の主は反応を示した。


「…!」


息を呑む音が聞こえた。

暗闇の中でも、大気が震えているのが感じられた。



「あいたい、ひとは、―――」



「え?」



上手く聞き取れない、もう一度、言ってほしかった。


「…でも、もういい、」


悲しみのあまり、張り裂けそうだった声は、いつしか穏やかなものへと変わり、それでも悲壮に満ちたまま、静かにこの空間に響いていた。



「…どうして?」




「もう、答えはとっくに示されているんだから、」




訳が分からなかった。

何も返すことのできない二藍に、声は、囁くようにこう言った。




「 いいんだよ、たとえ、選ばれることはなくても、…あの日々は、確かに、そこにあった…」



ゆっくりとした、落ち着いたその声が、むせび泣くように聞こえたのは、何故だろうか。




遠のく声と共に、遥か彼方に白い光が見えた。


眩しくて、暖かい。



無意識のうちに伸ばしていた手は、人肌のようなその熱を、確かに感じていた。

段々と、白い光が近づいているのが分かる。


―――『あの光の向こうで、彼女は僕を待っている』



『…?』



不意に聞こえた声、低い、男のもの。




再び、頬に熱い涙が流れるのを感じた後、二藍は痛いほどに白い光の渦に身を投じた。





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