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姫と竜  作者: 久保 徹
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08 決意の夜、旅立ちの朝

 

「迎えに来た?一体どうゆう……うっ!」

 

 そこまで言いかけて、突然糸が切れたように崩れ落ちた

 

「毒か」

 

「体が動かない……」

 

 いくら動かそうとしても指先がかすかに動くだけ

 

「アレは倭国の忍の者、武器に毒が塗ってあるのだ」

 

「倭国……忍……」

 

 コウランが体の動かないタツキの前に立ち、問い掛ける

 

「分かったろう、おぬしは弱い それでも助けたいか?」

 

「……どうすればいい?」

 

 タツキは下を向いたまま静かに言った

 

 聞かれるまでもなく、最初から答えは決まっている

 

「おねしは力を持っている だが使い方を知らぬ、まずはそれを知ってもらう」

 

「了解 とりあえず動けないのなんとかして」

 

「少し待っておれ、私の連れが来る」

 

「連れ?」

 

「ちょうどいい 来たぞ」

 

 コウランは振り返り、町の門から続く一本道の先を見た

 

 それにつられてタツキも目だけ動かす

 

 道の向こうから人影が走ってくるのが見える

 

 そして地面を蹴って一気に飛び上がり、タツキの目の前に着地した

 

「だ、誰だ……?」

 

 首が上がらないタツキには足元しか見えない

 

 その頭の上で、話は進む

 

「遅いぞ、スオウ」

 

「師匠が早すぎなんです……で、この人ですか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「そんな下向いて何してんですか?」

 

「毒にやられてな、体が動かない」

 

「おーいお二人さん、ちょっとちょっと!」

 

 訳がわからずただ聞いているだけだったタツキは、ここでようやく話に割って入った

 

「今からスオウがおぬしの毒を治療する おとなしくしておれ」

 

「治せんの?」

 

 スオウは不敵な笑みを浮かべながら、手にした杖を体の前に構えた

 

 そして目を閉じて集中すると、杖に見たことのない文字が浮かび上がる 

「な、なんだ?」

 

 文字が杖全体に広がると、ゆっくり杖から手を離す

「竜陣壱式……」

 

 杖の文字が下へ動き始め、タツキを囲むように円を描いた

 

「竜の息吹」

 

 スオウが唱えると円が激しく回転を始め、風が渦巻いた

 

「この風は……」

 

 すこし経つと風は収まり、陣も消えた

 

「どうだ?」

 

「え……あ、動ける」

 

 さっきまで指先しか動かなかったのが嘘のように、サッと立ち上がった 

 スオウは誇らしげに笑っている

 

「今のは、なに?」

 

「《竜陣》っていう術です ぼくしか使えないんですよ」

 

 スオウはさらに誇らしげに言う

 

「他にも種類があるんですけど、どうしてもって言うなら……」

 

 言葉尻に重ねるようにコウランが割り込んだ

 

「タツキよ、妹を助けだすと決めたなら、しばらくここには帰ってこれない 別れの時間がほしいなら、明日まで待つ」

 

 別れという言葉に一瞬戸惑ったがすぐに冷静さを取り戻した

 

「そうだな……そうするよ」

 

「では明日の朝、ここで待っている」

 

 そう言って二人は森の中に消え、タツキも町へと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあみんな、そろそろ行くよ」

 

「頼むぞタツキ!絶対助けて来いよ!」

 

「タツキよ、疲れたらいつでも帰ってきなさい」

 

「ありがとう、みんな」

 

 翌朝タツキは、みんなに昨夜の出来事を打ち明けた

 

 みんな急な話に驚いたが、止める者はいなかった

 

「タツキ、これを持っていけ」

 

「大将、これは……?」

 

 歩き出そうとしたタツキに、大将は一本の剣を手渡した

 

 豪華な装飾がされているわけでもない普通の、鞘に収められている剣だ 

「それはな、お前の親父さんの剣だ お前が町を出る時が来たら渡してくれと頼まれた」

 

「父さんの剣……わかった、ありがとう」

 

「気を付けてな」

 

 形見の剣を手に、タツキは歩き出した

 

 声援を背に、振り向くことなく、ただ真っすぐ昇った朝日だけを見て

 

 

 

 

 

 町を出てしばらく、昨日の夜コウラン達と別れた場所に来た

 

 まだ二人の姿はない

 

「何してるんだ?」

 

 二人を探して辺りを見回していると、後ろから声がした

 

「来たな、タツキ」

 

「あ、コウランさん」

 

 振り向くと、コウランと重そうな荷物を持つスオウがいた

 

「タツキさん、その剣はなんですか?」

 

 スオウがタツキの形見の剣を指差して言った

 

「ああこれは父さんの形見の剣だよ 出がけにもらったんだ」

 

 それを聞いてコウランの眉がピクッと動いた

 

(ケンオウの形見!?ならばあれが…… なるほど本人のそばにあったのか)

 

「コウランさん、どうしたんですか?」

 

「………タツキ、その形見の剣、片時も離すでないぞ」

 

「え……あ、はい」

 

「では出発だ 目指すは《王都カサレリア》だ」

 

 

 

 彼らは歩き始めた

 

 奪われた平穏を取り戻すために

 

 目的を果たすため、歩みを止めることはない

 

 いずれその道が別れようとも、いずれその道が途切れようとも……

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