07 終わりの始まり
「まずいなぁ、だいぶ差つけられちゃったな」
タツキが謎の人物と出会った頃、同じくハテノタウンを目指す者がいた
「ぼくなんかが師匠に付いて行けるわけないのになぁ」
「澄王、喋ってる暇があったら急ぎなさい 夜が明ければ世界中は混乱に陥ってしまいます」
もう一つ別の声がしてきたようだ
スオウと呼ばれたのはまだあどけなさも残る少年
だが彼の周りに人影は見当たらない
「わかってます、これでもめいっぱい飛ばしてますよ」
飛ばしていると言う少年は、飛ぶよりはるかに早いスピードで草原を駆け抜けている
「金竜様、お体の方はどうなんですか?」
「まだ完治ではありませんが、だいぶ良くなりました」
「間に合いますか?」
「間に合わせます あなたは早く合流しなさい」
森に入ってもスオウのスピードは落ちる事無く巧みに木をかわしながら進んでいく
―――――――――
(おぬしなら止める事が出来よう……)
ベッドに横になりながら、タツキは昨夜の事を思い出していた
「終わりを、おれが止める……?」
いくら考えても訳の分からない話だ
今日もいつもと同じように、町は活気にあふれ大勢の人が行き交っている
とても何かが起こるようには思えない
太陽はもう真上まで昇っている
タツキは考えるのをやめ、稽古に向かった
稽古も順調に進み、太陽も夕日に変わろうとしていた頃――
「結局何も起きないか」
だが次の瞬間、下から突き上げるように、大地が激しく揺れた
「なっ……!」
突然の衝撃にタツキは倒れこんだ
立ち上がろうにもあまりに揺れるため、掴まらなければ立てない
窓ガラスが割れ、壁の額が次々と落ちる中、壁に手をつきながら立ち上がった
「ど、どうなってるんだ!?」
外を見ると皆立っていられずしゃがみこんでいる
古い家屋は崩れ始め、悲鳴も聞こえてきた
「まさか、本当に……」
約二分間にもわたって揺れ続けたこの地震によって、多くの怪我人や家屋の倒壊、火災も発生した
この地震を境に、タツキとヒメノは、巨大な運命の輪に呑まれていく
―――――――――
「おい!もっと薬はないのか!?」
「誰か手ぇ貸してくれ!」
町の広場には怪我人が集められ治療を受けている
その場にはヒメノの姿もあった
「どお、おじさん 少しは楽になった?」
「ああ、ありがとうヒメノちゃん」
それを聞くと、ヒメノは次の怪我人の所に走って行った
そんなヒメノを見下ろす二つの人影があった
広場近くの建物の屋根にいる、奇妙な仮面を被った白い装束の二人組
「あの娘か?」
「そのようだな だが覚醒してはいないようだ」
「よし目標は確認した 夜まで待つぞ」
すると二人組は屋根を飛び跳ねながらどこかへ消えた
地震で破損した家屋の修復を手伝ったタツキは夜になって道場に戻ると軽く夕飯を済ませ、すぐベッドに横になった
そして深夜、ガタッという物音で目を覚ました
「ん……なんだ?」
目をこすりながら起き上がると、今度は声が聞こえてきた
「ちょっと!何すんの!?」
それは隣のヒメノの部屋からだった
タツキはベッドから飛び上がり、自分の部屋を飛び出し、ヒメノの部屋のドアを勢いよく開けた
「ヒメノ、どうした!?」
ドアを開け目に飛び込んで来たのは、窓から外に出ようとしている、白い服の二人組
一人はヒメノを抱えている
ヒメノは眠らされているのか、気絶しているのか、ダラリと両手足を下げたままタツキの声に反応しない
「なんだあんた達!ヒメノをどうする気だ!?」
「かまうな、行け!」
二人はタツキを無視し窓から飛び降りた
「くそっ!」
タツキもすかさず後を追う
二人組は、一般人より能力の高いタツキでも中々追い付けない速さで、静寂の町を駆け抜けていく
「なんなんだあいつら!」
二人組はついに町の出口まできた
「あの小僧しつこいな」
「おれが時間を稼ぐ お前はその娘を連れていけ」
「この速さに付いてくる奴だ 用心しろよ」
すると一人が向きを変え、背中に背負った短めの剣を抜き、タツキの方に向かってきた
「時間稼ぎか!」
タツキも剣を抜こうと腰に手をのばす
「ヤバッ!急いでたから丸腰だ!」
そんなことはお構いなしに、
「敵」
は眼光鋭くタツキを睨みながら、瞬く間に間合いを詰めてきた
「邪魔はさせん」
「は、早い!」
敵はほんの数歩で目の前まで迫ってきた
姿勢を低くしたまま懐に飛び込み、剣を横に凪いだ
地面に数滴の血が落ちた
「浅かったか」
タツキは驚異的な反射神経で後ろに跳んのだ
「くっ……!おい、あんた!何が目的だ!ヒメノをどうする気だ!?」
「答える義理はない」
敵は尚も攻め続けてくる
武器を持たないタツキは防戦一方だ
「なんとかしないと!」
そんなタツキに頭上から敵の白刃が襲う
それをギリギリで躱すと、剣が下り切ったと同時にがら空きになった頭部へ回し蹴りを繰り出す
蹴りは側頭部に直撃し敵の体は大きく吹き飛んだ
「この手応えは……」
敵は何事もなかったかのように立ち上がった
「まともに食らっていたら危なかったな」
「当たる瞬間に自分から飛んだか」
(強い……でも急がないと追い付けなくなる)
するとその時、敵が何かを感じとっさに後ろに跳んだ
敵がいた場所には二本の短剣が刺さっている
「誰だ!」
そう叫び、飛んできた方向を見る
「あんたはあの時の!」
近くの木の上に立っていたのは、あの時タツキに不可解な言葉を残した白髪の女性だった
すると彼女は、木から飛び降り短剣を挟んで敵と向かいあった
「死にたくなければ、今すぐ去れ」
そう言いながら突き出した手を開いた
途端に敵の様子が変わった
「……!くっ!だが時間は稼いだ!」
敵は煙幕弾を叩きつけ、その場から消えた
煙幕が晴れたそこに立っているのは、確かにあの時の女性だ
振り返るとゆっくりと近づいてきた
「ケガはないか?タツキ」
「ちょっと腹を……ってなんで名前を……?」
「そんなことは今はどうでもいい」
「そうだ!ヒメノを追わないと!」
ヒメノを追い走りだそうとしたタツキは白髪の女性に止められた
「なんでだよ!?」
「無駄だ、追い付ける距離ではない それに向かった先は分かっておる」
女性はタツキに背を向けたまま、独特の口調で言った
「……あんた、何者なんだ?」
「私は光蘭 タツキよ、お前を迎えに来た」
振り向いたコウランを月の光がやさしく包む
その白い長髪は、風に揺れ、月の光を受けて美しく輝く
「終わりが、始まった」