03 姫と竜
結局、魔物はタツキの手で倒された
倒れていた跡には白い粉が残されていて、ホウキを持った人達が丁寧に集めている
魔物の体から出たとは思えない程純白に輝くその粉は、様々な病に効く薬として重宝される
「ありがとうタツキ、これでしばらくは薬に困らないわ」
「どういたしまして」
お礼に訪れた女性に軽く頭を下げる
女性を見送ると、ふと考えた
(今週に入って三体目、町に出たのは初めてだ)
カオスはそうそう頻繁に出るものではない
以前は月に一体、多くて二体、町から離れた場所に現れる程度
中央の騎士団に報告すれば、すぐに専門の部隊が対処する
しかし最近は、騎士団でも手に負えない程急増している
タツキはそんなことを考えながら道場に戻った
ドアを開けて中に入ると、横から声をかけられた
「兄貴!」
「姫乃、どうした?」
声をかけたのは、二つ下の妹ヒメノ
ドスドス足音をたて、いきなり凄い迫力で迫ってくる
明らかにご機嫌ナナメ
「カオスとやり合ったんだって?何でアタシを連れてってくんないのさ!?」
「何でってお前、危ないだろ」
タツキを壁ぎわまで追い詰めても勢いは止まらない
「剣も格闘も最上級生のグループでやってるんだ!アタシが勝ったことないの兄貴だけだよ!」
ヒメノはその名前と正反対の男勝りな女の子
剣と格闘はかなりの実力で、槍はどうも苦手
いつかは一人でカオスに勝ちたいと願っている
故に町の近くにカオスが出た時は、一緒に行きたいと頼むがタツキは許さない
「確かにお前は強いよ でもいつも言ってるだろ?危険な目に合わせたくないんだ」
タツキはヒメノの肩にポンと手を置いて言った
ヒメノが強いと言っても一般人と比べての話
とてもカオスと戦えるものではない
「いつもそう言って!もういいよ!」
ヒメノはタツキの手を払い、走り去ってしまった
「……ふぅ」
走り去るヒメノの後ろ姿を見ながら、軽く息を吐く
「タツキ」
「あ、師範 すいません、騒がしくて」
「いつもの事だろ」
師範は水の入ったコップを差し出した
コップを受け取り一口飲んだ
「あいつ……ヒメノな、稽古が終わっても一人残ってやってるんだよ」
「はい、わかってます」
彼女の手のひらや足には、マメや傷がいくつもあった
タツキはそれらを見るたびに、嬉しくもあり心配でもあった
「ヒメノにはおれに何かあった時、子供達を守ってほしいんです」
今までは運がいいだけで、いつタツキでも勝てないようなカオスが現れるかわからない
ヒメノを連れていかないのはその時のためでもあった
―――――――――
ヒメノは自分の部屋で剣の手入れをしている
(次は絶対、兄貴より早く……)
―――――――――
数日後――
タツキは午前中の稽古を終え、一階の食堂で好物のうどんを持って席についた
「いただきまーす」
まずダシの効いたツユを一口すすり、箸を持ってうどんを口に入れようとした
その時――
「タツキ!大変だ!」
突然の大声に驚き、机に足をぶつけた
うどんは箸と共に床に落ちている
「なんだよ!?うどん返せ!」
タツキはちょっと涙目で振り向いた
「カオスが出たんだ!」
「……あのやろぅ」
恨みの対象はすでにカオスに向けられているようだ
「うどんは後でおごるから!それよりヒメノがいないんだよ!」
「え?」
「部屋に行ったらあいつがいなくて、剣もなかった!」
それを聞いてタツキはガタッと立ち上がった
「どこに出た!?」
「ルクス遺跡の近く」
タツキはものすごい勢いで道場を飛び出して行った
「気を付けろよ!前のよりでかいらしい!」
後ろから聞こえる声をしっかり聞きながら猛然と走った
剣を持ったヒメノの行き先、そんなものは分かりきっている
「あのバカ……!」
タツキは町の南西にあるルクス遺跡へ急いだ