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第三章~有村アリカ編Ⅱ~

極楽園の中央に生える一本の塔、ハピネスタワーで起こった謎の現象。有村アリカはその不可思議な現象を忘れようとするのだが…。



「まったく、意味わかんない」




 一日にして、ロールプレイングゲームの主人公になった私。一日にして、SF映画の主人公になった私。私は確かに、街有数のお金持ちの娘という特殊な人間だけども、何ていうか先頭に立って世界救うような性格じゃないというか、まずビビリだし正義感なんて大層のもの持ってないし、基本的に日和見主義で今まで生きてきた普通の女子高生だ。まあいいや、とりあえず状況を整理しておこう。私は9月2日土曜日に有村家で働くメイド、間宮マミコとともに、父が創設に携わった"ハピネスタワー"の開設式典を見ていた。父がテープカットを行ったとき、私の周囲にいた人々が静止した。電池の切れたおもちゃのように、ただ止まっていた。私と間宮マミコを除いて。そして、ポケットの中には見たこともないような貝殻がいつの間にか入っていて、黄色に光っていて、しかもその貝殻を受話器みたいに耳に近づけたら、爽やかな男性の声が聞こえた。声の主はどうやら私を世界の救世主にしたいらしい。いま考えれば超勝手なお話だし、何より"崩壊する!"なんてこと言われても、そりゃ何時かは人類なんて衰退して、やがてイカが人類に代わって地球を支配するかもしれないから、「別に放っておいても、それは自然界の摂理として受け入れるべき」というのが私の正直な想いだ。ただ、あの非現実的な状況で、"崩壊する!"なんて言われたら、そりゃ気は動転するし、失禁しても仕方ないでしょう、うん。でも、あれから5日経って、前みたいに人が静止する現象なんて起こらないし、あの貝殻から人声が聞こえることもない。一方、その後の間宮マミコといえば「私には何も聞こえなかった」、「あまりお気になさらぬ様」などと、明らかに何かを隠している調子だった。だから私は9月2日に起こった不可思議な事象を、間宮マミコが仕組んだイタズラだと勝手に解釈して、深く考えないようにしていた。



 でも深く考えないようにすればするほど気になるのが人間の性、女性の性ってものだ。正直気になってしようがない。だから私は授業中、ポケットに入れた貝殻を手で転がしながら、色々と考えを巡らせていた。貝殻から聞こえた声の主、【前に何処かで聞いたことがあるような】とか思ったり、あの透明感のある美声をもう一回聞いてみたいなとか思ったりしていた。これってもしかして恋かしら、ニヤニヤ。気づけば一人でニヤニヤしちゃって右の席の女子に笑われていた。私超キモイ。



「大地主の娘である私を笑うとは、いい度胸だ!名を名乗れ!」



と決して言いたくはないのだが、私を目の前にして笑うとは中々度胸のある子だなと思った。これでも一応、私は高校では"お嬢様"として名を馳せている。だから無礼は許されない、と周囲の人間は勝手に思っている。でも無理もないか、彼女はつい先日に転校してきた生徒だ。きっと私がどういう人間であるか知らないのだろう。そういえば、後ろの席の男も転校生だったな。さすが新学期、みんな親の勝手な事情に振り回されて大変だな。そういえば、授業が始まってからその男は物音一つ立てていない。転校初端から居眠りするとは、こいつも中々度胸のある奴だ。結局その男は、授業終了のチャイムが鳴るまで、気配を消したように眠っていた。一生目を覚まさないのではないかと不安になったが、彼はチャイムが鳴った途端、スイッチが入ったようにダッシュで帰宅した。私といえば相変わらず貝殻を転がしていた。これは一体何の貝殻なのだろうか。見た目はサザエの貝殻のような感じ。しかしサザエの貝殻から声は出ないだろう、絶対に。




「アナタ、有村ユキナリの娘らしいねー」



 帰る準備をしていたら、さっき私を笑った女子に話かけられた。彼女の眼は大きく、黒く透き通っていて、まるで私の心の中を見ているかのようだった。私は一瞬固まり、その後返事する。



「そ、そうよ、有村アリカって言うの。アナタは転校生だったわよね」

「うん、私は山名【やまな】エミ。よろしくー」

「こちらこそ」

「あのね、アリちゃん、あのね、私アリカちゃんと友達になりたいの」



何て積極的な少女だろう。この子は生まれてからずっと、「友達になりたい」と話しかけて友達を作ってきたのだろうか。



「え、ええいいわよ」

「じゃあ、これからアリちゃんのおうち行きたいなあ」



何て積極的な少女だろう。というか、展開早すぎない?まだ一分も会話してないんだけど。



「き、今日は難しいわ。父の仕事の関係もあって、いきなり友人を家に招くことができないの。ゴメンなさいね、またの機会に」

「ふ~~~~~ん、なーんだあー残念だなあーー、じゃあケータイの番号教えて!暇なとき遊びに行くから!」

「え、ええ、いいわよ、これ私の番号。家に来る時は前日までに言ってくれると助かるわ」

「えー、何かそれめんどくさいよー」



何て幼い少女だろう。そして、正直に云うと馬鹿っぽい。しかし、馬鹿ではないのだろう。何故なら、私の通っている高校は【極楽園大学付属高校】だ。超名門校・超進学校・超エリート校であるが故、並の学力では転校などありえない(まあ…私は…特例で…入学できたけど…ゴホンゴホン…)。そういう訳で彼女は学力面から言えば、私よりはるかに優秀なのであろう。



「じゃあさ…これから一緒に帰ろうよ!」

「ええ、でも方向は同じなのかしら。私はご存知かもしれないけれど、記念公園の近くよ」

「知ってる!あのどでっかーいおうちだよね」

「アナタの家は?」

「私も公園の近くー」

「あらそう。じゃあ、途中まで一緒に帰りましょうか。慣れない道だろうし」

「やったー!デートだねデート!」

「で、デートだなんて!私たちは女性同士よ!」

「あはは、面白いねーアリちゃん」



い、いかん…この子のペースに完全にハマっている。これでは"お嬢様"として名を馳せている有村アリカのメッキが剥がれてしまいそうだ。



「じゃあいこっ!」



無理やり手を繋がれ、私たちは教室を出た。そして学校の正門を出たあと、中心街方面に向かって歩き出した。記念公園は中心街の向かい側にある。


 私は徒歩で帰ること自体久しぶりだった。懐かしく映える学校周辺の街並みは綺麗で、無駄なく、どこか寂しげだった。だから、彼女の手の温もりが少し嬉しかった。そこで私は彼女に極楽園のイロハを教える。



「この極楽園は創設してから17年経ってるの、つまり私たちが生まれた年に創設されたって訳ね」

「へー同い年なんだねー。でも街が"創設される"って何か変じゃなーい?」

「そうね。街の名称が変わったり、合併して違う街に吸収される事例はあるかもしれないけれど、"街"そのものが何もない所から創られるというケースはほとんどないでしょうね。しかもこんな巨大な街が閉じたシステムとして機能しているケースなんて、この極楽園以外存在しないでしょうね」

「へー、でも何でアリちゃんのパパはそんな大掛かりなモノを創ろうとしたのー?」



「?」



「んん?」

「アナタ、何も知らないの?」

「うん、私外国から来たから、ぜーんぜん知らないの」



この子はアフリカの奥地から来たのだろうか、それとも本当にただの馬鹿なのだろうか。



「外敵から身を守るためよ」



「外敵?」

「外敵、つまり外国の攻撃からこの国を防ぐため。この極楽園自体が巨大なシェルターであることは知ってるわよね」

「うん、港で見たよー、灰色のでっかい壁だよね」

「そうよ。この街は海上に埋め立てられた人工的な土地。そして海と土地の境界にはニョキッと生えた灰色のバリケードがある。だからそう簡単に機能が停止することはない。何れは国の主要機関を全て極楽園に移行させるつもりらしいわ」

「へー、すごいんだねー」

「でも外国からの攻撃なんて、極楽園が生まれて17年の間に一度もない。確かに長い目で見た場合、極楽園に主要機関を移行させる計画は有効なんだけど、効果が一切実証されていない今、父を代表とする極楽園の開発基盤チーム、つまり"極楽園の発展を目指す会"は結構つらい状況にあるのよ」

「へーへー、さっすがアリちゃんだね、この街のこといっぱい知ってるんだね」

「いやいや、ここまでの話はテレビニュースを見れば、誰でも知りうる情報よ。いくら創設者の娘といっても機密情報なんて一切知らないしね」

「そうなんだー。でも外敵が攻めてくるなんて、怖いなあー」

「大丈夫よ、この国がいきなり攻め込まれるなんて事はまずありえない。そして万が一攻めてきた時の為に、この極楽園があるわ」



そう…街が…世界が崩壊することなんてありえないんだ…。



「でもそれってすっごく卑怯な考え方だよねー」

「ひ、卑怯…?」

「自分たちだけが助かればそれでいいのかな?、極楽園の外の人達はどうなってもいいのかな?」

「…まあその考えもわかるわ。でもねエミちゃん、もし極楽園以外の地域が外国から攻撃を受けたとき、その地域を早急に復興するための機関が必要となるわ。加えて、第二、第三の犠牲も防ぐ必要がある。それらを一括して担うための機関、それが極楽園なのよ」



「ふーん」と言いながら、頬を膨らませながら私の目を覗く山名エミ。その反応は、先の質問に対する回答が納得できなかった訳ではなく、私自身の想いや考えが言葉に反映されていないことに対する憤りのように見えた。その通りだ、私は偉そうな事を言っておきながら何も考えていないのだ。私は私さえ助かればそれで良いと思っている。先の質問に対する回答なんて、あらかじめ暗記しておいた満点の回答にすぎない。それは単なる思考放棄だ。でも仕方ないじゃない、私は頭悪いんだから。親の存在さえなければ普通の女子高生なんだから!!



「あ、なんか怒らせちゃったかな、ごめんね」

「う、ううん、全然怒ってないわよ。私は冷静私は冷静私は冷静私は冷静私は冷静私は冷静………。私は冷静だよっ!」

「あはは!」

「え!?」

「アリちゃんって本当面白いねー」

「お、面白くなんかないわよ!」

「あはは!だって授業中も一人で笑ってるし!絶対面白いよ」

「…ば、ば、馬鹿にしているのかしら…?」

「馬鹿になんかしてないよー。でも何で授業中に笑ってたのかな?エミも笑いたいなあ面白いこと知りたいなあ」



貝殻の声の主が私好みの美声だったなんて事、口が裂けても言えない。確かに面白可笑しいオカルト話ではあるが。



「さ、昨夜のバラエティ番組に出演していた芸人を思い出して笑っただけよ」

「へー、アリちゃんみたいなお嬢様もバラエティ番組見るんだねー」

「た、たまによ。ふ、普段はニュース番組くらいしか見ないんだけどね!」

「ふーん」



また心を見透かすような目で私を見る。この子、馬鹿じゃないかもしれない。



「じゃあ、アイドルの水島タケルって知ってるー?」

「知ってるも何も彼はクラスメイトじゃない。滅多に学校には来ないけれど」

「カッコいいよねー、タケル様!」

「私は(バラエティ番組しか見ないから)アイドルなんてあまり知らないわ。彼に関しても数回しか会ったことないし…」

「あ、タケル様だ!」



 気がつけば、私たちは中心街まで歩いていた。ハピネスタワーのモニターに映しだされた清涼飲料水のCMに、水島タケルが出演していた。彼は清涼飲料水を一気飲みしていた。そして、爽やかな白い歯を通りかかる民衆に見せつけていた。「カッコ良いー」「素敵ー」といった女性の感嘆が聞こえる。山名エミも水島タケルをじっと見上げて目を輝かせていた。

 一方、私は先日ここで起こった事件を思い出していた。条件反射的に制服のポケットに手を突っ込んで、貝殻を触った。結局、あの瞬間に静止していたのは、タワー周辺にいた人間のみだったのだろうか。それとも、私と間宮マミコおよび貝殻の声の主以外の世界中の人間が静止したのだろうか。そもそも「静止する」、とはどういう事なのだろうか。時計の針は動いていた、つまり時間は過ぎているだろう。しかしそれが事実ならば、大事故がもっと頻発しているはずだ。考えれば考えるほど意味のわからない現象だった。あの現象が再度起こらない限り、それら証明は不可能だ。そう今この時みたいに、私だけがこの街に釘付けになっている状態に成らなければ…って…えっ…!!!


 水島タケルの表情が笑顔のままで動かない。山名エミは水島タケルを視つめたままで、口をポカンと開けていた。その他大勢の人間は、以前と同じように静止していた。私は深呼吸と背伸びをした。普通に動く。いやーまいったね。何だよこれ、マジびびるわ、もう失禁なんてしないけれど。

 私は横に居る山名エミの体を触ってみた。山名エミは私より15センチくらい背が小さく、小学生みたいで可愛い。その華奢な体に体温は感じられた。心臓が停止している状態とは言いがたく、まるで演技をしているかのようだった。このまま山名エミを道路の中央に放置して、静止が解除されるのを待てば、事故に見せかけて彼女を殺すことが可能だ。おー怖い怖い、そういう想像しちゃう私が怖い。でも逆の発想で、いま車に轢かれそうな人を歩道に戻してあげれば、事故を防ぐことができる。人の生死を左右できる能力を持った私はまるで【神】のようだ。もしかして、この特異な現象を利用して、やがて来るであろう世界の破滅を防ぐのだろうか。そう考えれば私はまさに救世主、貝殻の声の主が言ったことも筋が通る。また、その仮定から、この現象を起こしている人間=貝殻の声の主、と推察できる。おお!、私ってば超冷静だし、超頭冴えてるじゃん!!さすがに救世主候補に選ばれ人間は違うね。何はともあれ、先ず貝殻の声の主にこのことを確かめなければ、この推察は私の痛い妄想で終わる。私は貝殻をポケットから出して耳に当てた。



「ジジジ…ジ…ジジージジジー!!!」



 貝殻から聞こえてきたのは、物凄い電子ノイズだった。以前よりもはるかにボリュームのあるノイズだ。確か以前、ハピネスタワーの中に入ったことによりノイズが改善された。私はタワーの中で再度、貝殻を耳に当てた。



「ジジジ…ジ…ジジージジジー!!!」



改善されない。むしろ悪化しているように聞こえる。どうすれば良いのか分からなくなった私は、一先ず間宮マミコに電話をかけてみることにした。以前静止しなかった人物であり、タワーから離れた場所にいる彼女ならば、きっと通じるはずだ。私は携帯電話を開こうとした。



TLLLLLLLLLL!!!TLLLLLLLLLL!!!



 着信音が静かなタワーの中で鳴りひびいた。びびった。私をびびらせた送信者は、電話帳に登録されていなかった。不審すぎる状況下で、私の知らない電話番号…。"電話を出る"という行為だけで、心臓がバクバク揺れていた。



Pi!



「はい、もしもし」

「お、繋がった」

「!!!」



この透き通った声、私がいま一番話したい相手の声だった。貝殻から聞こえた声よりクリアで、より爽やかな印象を受ける。



「お前、有村アリカで間違いないな」

「は、はい!アナタは…以前、私と話した人ですよね!?」

「そうかもしれないけど」

「や、やっぱり、私アナタともう一度話したかったんです!」

「やたら嬉しそうだな。あ、一応名乗っておくと俺は石動【いするぎ】ケンジだ。お前の後ろの席に座っている男だ」

「え!?」

「んん!?」

「あの…アナタ以前私に"世界を救ってくれ"ってお願いしましたよね?」



「何言ってんだお前」



「ゴメン、聞かなかったことにして、どうやら別人だったみたい」

「アハハ!お前何者だよ!!」

「だから、もう忘れて下さい!!」

「わかったよ。あーだこーだ言い合ってる状況でもないしな」

「アナタは…静止していないみたいね」

「ああ、周りは固まってるけどな」

「じゃあ改めて質問!石動君、いま何処にいるの?何で私の携帯番号知ってるの?」

「ココにいる」


後ろを振り向くと極楽園付属高の制服を着た石動ケンジが目の前にいた。初めてまともに目を合した瞬間だった。


「うわっ!び、びっくりさせないでよ」

「びっくりなのは今更だろうが。しっかし…噂には聞いてたが、この状況はひどいな」

「噂?」

「しょうもないオカルト話だよ、気にするな」

「はあ…結局アンタもこの状況に対して何も知らないってことね」

「そういうことだ」

「でも、どういう訳か静止することを免れている」

「そういうことだな」

「あ、そうだマミマミに電話する所だったんだ!」

「マミマミ?」

「うちのメイドよ」

「メイドとか…金持ちは違うねえ。でもメイドに電話かけてどうするんだよ」

「ちょっと黙ってて!!」


私は間宮マミコに電話をかけようとした。しかし、



------------------おかけになった電話番号は現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っていません。



「あーもう!意味わからなすぎ!」

「お前の家って圏外にあるのか?」

「そんな訳ないでしょーが!もう…どうしたらいいの…」

「とりあえずさ、タワーの最上階に行ってみようぜ!どうせ警備員も静止してるだろ」

「…」

「じゃあ万引きでもしてみるか?」

「…」

「いっそ女の子のパンツでも覗いてみるか!」

「…」

「おい」

「冗談なら止めてくれる?」

「わかったよ、謝る。でもどうするんだ?このまま元に戻るのを傍観しているのか?一生このままかもしれないんだぞ」



 一生このままかもしれない…。でも9月2日は私が失禁した直後に元の状態に戻った。その瞬間、貝殻から声が聞こえなくなったけれど。人々が静止していた時間は確か5分くらいだったと記憶している。しかし、今回は既に10分以上経過しているのだ。焦りが募る中、私はもう一度貝殻を耳に当てた。それを見ていた石動ケンジの目は点になっていた。だが気にしない。



「ジジジ…ジジジ…ジジジ」



相変わらずノイズがひどくて何も聞こえない。



「お前大丈夫か…ついに気が狂ったのか…」



石動ケンジは割と本気で心配そうに私を見ていた。そりゃそうだ。



「事情は後で説明するから黙ってて!」

「お、おう…でも何で貝殻…」

「後で説明するって言ってるでしょ!」

「わかったわかった!じゃあその間に携帯を山名に返してくるわ」

「そういうことか…」

「こういう特殊な状況だ、山名だって許してくれるさ」

「あの子、案外怖いわよ」

「そりゃ意外だな、元に戻る前に謝っておくわ」

「はいはい、行ってらっしゃい」



石動ケンジ…悪い人間ではなさそうだけど、軽そうな男だ。少なくとも、貝殻の声の主と別人であることは確実だ。私は間宮マミコにもう一度電話をかけてみたが、結果は先程と同様だった。



「家に帰ろう、きっとそれが一番いい」



そう思った瞬間に、貝殻が赤く光り出した。私は間髪入れずに耳に近づけた。













「9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日9月16日」














何かを訴えかけるように、人工的な音声が一切のノイズを帯びずに"9月16日"と発していた。



「く、9月16日に何かあるのかしら?答えて!」



「クガツジュウロクニチニマチガ…マチガ…マチガ……ジジ…ジジジジ……………」

「街が、街がどうなるの!?」







「…………」





無音。



ノイズさえ聞こえなくなった貝殻。赤い光は消えていた。




ザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワ

ザワザワザワ



人々は動き出していた。

世界はこれで元通り、ちゃんちゃん♪




私は呆気に取られて、静止していた。










やばい、失禁しそう。




街と町と少年少女 第三章~有村アリカ編Ⅱ~ END





次回は、第四章~広井ヒロト編Ⅱ~です。お楽しみに。

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