学生食堂 その2
学食の端っこで、何か思い詰めたような顔をしながらノートを広げる女子学生。親友香華純夏の姿を認め、未希は声をかける。
「純夏!」
「あ、未希……ッ!」
彼女は振り向いて笑うと、直後にひどく驚いた表情。未希の代わりに後ろの佳佑が、更に後ろの幸平を指しながら笑って答える。
「ああ、コイツなら気にしなくていいから。ちょっと頭冷やしただけだから」
「おかげさまですっげぇ冷えた。お礼に、この前冷蔵庫から発掘した2年モノの納豆でもごちそうするわ」
「なんだよ、水も滴るなんとやらだろ」
「大事なところを思い出せやコラ」
相変わらず佳佑と幸平の漫才は聞いていて飽きない。
「どしたの?あ、演劇部の?」
確か学園祭ではミュージカルをやるとか。
純夏は本を読むのが好きで、自身で小説を書いたり、それを元に劇の台本を作ったり、しかもその演出のレベルが高いらしい。友達づてに聞くところによると、入部の頃から才能を見抜かれて脚本を任されたらしいが、本人は先輩に遠慮して断ったのだとか。ネタノートを堂々と広げているところを見ると、どうやら二年目でようやく踏ん切りが突いたみたいだ。
「そ、そうだよ。夏休みなんてあっという間だから、今から考えとかないと……」
「へぇ、台本書くの?すごいね。どんな話なの?」
純夏の向かいに座る佳佑。心無しか、純夏の背筋がピンと伸びた。純夏は、お世辞にも男性への免疫があるとは言い難い。
彼女は大学に入ってからの友人だが、初めてあった時から未希と馬が合った。未希からすれば、純夏の少し引っ込み思案で控えめなところを可愛くて羨ましく思っている……のだが、当の本人はコンプレックスにさえ感じている。
少し茶を入れたセミロングの髪は彼女のうなじを隠す程度の長さで、遠慮がちな長さも彼女らしい。知的な光を称えた黒い瞳と、それに拍車をかける縁なし眼鏡。
どこか儚げで知的な香りを漂わせる雰囲気が、体育会系の未希には本当に羨ましかった。
さぞかしモテたんだろうと思ったら、本人に聞くとあまり恋愛経験は無いと言う。どうして男どもはこんな知的美人を放っておくのだろうと怒ってしまったが、純夏は静かに笑うだけだった。
に、しても純夏が困ったような顔をしているので、未希が助け舟を出す。
「佳佑君、今ネタばらしできる訳ないでしょ?学園祭で上演するのに」
「あ……そりゃそっか。ゴメンゴメン」
苦笑いする佳佑。ぎこちない笑顔を返す純夏。ため息をつく未希。
少しだけ、積極的になってもらってもいいかもしれないな。
ご精読ありがとうございました。