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1話 君を助けるための30分


もし、たった30分だけ過去に戻れるとしたら――お前は何をする?

 なんて、少し前の俺に聞いたら、たぶん「寝ながらアニメ見る」なんて答えてたと思う。

 でも今なら、迷わずこう言う。

 ――“あの時に戻らせてくれ”って


「礼央、おはよ」

 教室に入ると、当たり前みたいに清水香里が声をかけてくる。テレビで見るより少し柔らかい雰囲気で、けどやっぱり目を引く存在で、最初は周りも騒いでいた。でも香里自身が変に壁を作らないせいで、クラスでは“ちょっと特別だけど普通に話せるやつ”みたいな位置に落ち着いている。

「おはよ」

 礼央も最初はぎこちなかったが、今ではこうして自然に返せるくらいには慣れていた。

「昨日遅かったの?」

「ゲームしてたら寝るの遅くなってさ」

「受験大変だったもんねー、私も最近食べすぎてて不安だよー」

 少し笑う。その笑い方はテレビの中より無防備で、近くにいる俺しか見れない表情のように思えて、好きだった。

「おおおお朝からいい雰囲気出してますな」

 後ろから西園寺蓮が肩に腕を回してくる。

「うるせえ…!」

「なんだよ真実だろ?それとも俺は空気読んで離れればいいか?」

「読めてねえからいるんだろ」

 くだらないやり取り。でも、それも含めて日常だった。

 放課後、香里と校門で別れる。

「また明日ね」

「おう」

 軽く手を振るだけ。それ以上でもそれ以下でもない距離。でも、それがちょうどいいと礼央は思っていた。


帰り道、いつものようにバレないように持ってきていたスマホで音楽を聴きながら歩いていると人だかりができている

「大丈夫ですか!?」

「意識が……!」

 人をかき分ける。そこにいたのは、地面に倒れている香里だった。

意味が分からない。ついさっきまで普通だった。笑っていた。冗談も言っていた。

「おい、しっかりしろよ……!」

 呼びかけても反応がない。顔色が悪い。さっき見た笑顔が崩れたように冷めている

 何もできないまま、担架に乗せられていく。遠ざかっていく背中を、ただ見ていることしかできない。

「……ふざけんなよ」

 こんな終わり方、納得できるわけがない。何かできたはずだ。気づけたはずだ。

 そのとき、頭の奥に浮かんだ。

 ――戻れたら。

 たった一度でいい。もう一度、あの瞬間に戻れたら。

「戻れ……!」

 次の瞬間、視界が歪んだ。

 足元の感覚が抜ける。

 そして――

 気づいたとき、俺は同じ場所に立っていた。香里が事故にあったあの場所に

「……は?」

 思わず声が漏れる。

 周りの景色。夕方の空気。さっきと同じ帰り道。

 違うのは、ポケットから出したスマホの時間だけだった。

「30分前……?」

 理解が追いつかない。

 夢かと思った。けど、さっき見た光景があまりにもはっきりしている。

 香里が倒れて、運ばれていくあの感じ。

 胸の奥がざわつく。

「……いや、待て」

 呼吸が少し早くなる。

 もしこれが夢じゃなかったら。

 もし本当に時間が戻ってるなら。

 ――また同じことが起きる?

「……なんだよ、これ」

 小さく呟く。

 怖い。

 正直、意味が分からない。

 でも。

 さっき何もできなかったことの方が、もっと嫌だった。

 視線を上げる。

 少し先に、まだ無事な香里がいる。

「……やるしかない」

 完全に理解なんてできてない。

 それでも、立ち止まってる時間はないんだ。


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