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【第5章開始!】断罪も追放も全てを済ませた悪役令嬢のその後の人生  作者: 月雅
第5章

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第2話「宰相の馬車」

私は翠風堂の戸を開けて、外に出た。


村の道の向こうから、馬車の音が聞こえていた。車輪が土の道を踏む音。馬の蹄が石を弾く音。ラーゼン村の入口に近づいてくる、聞き慣れた響き。


宰相の馬車だった。


前回この馬車が村に来たのは、レナードが辺境を訪れて婚姻承認申請の提出を告げた時だった。あの朝、翠風堂で最終改良版の呼吸の茶を淹れ、額に口づけを交わし、二つの杯を調合台に並べた。


馬車が翠風堂の前で止まった。


御者が降り、扉を開けた。


レナードが降りてきた。宰相の執務服。濃紺の上着に銀の釦。帝都から三日の道を経た後の姿だが、背筋は真っ直ぐだった。


続いて、ハインツが降りた。護衛騎士の制服。腰に剣。レナードの半歩後ろに立ち、周囲を確認してから軽く一礼した。


「ヴィオレッタ殿、お元気そうで」


「ハインツ殿、遠路ありがとうございます」


村人たちが遠巻きに見ていたが、以前のような緊張はなかった。宰相の馬車は、もうラーゼン村の風景の一部になりつつある。


レナードが私の前に立った。


「ヴィオレッタ」


「レナード。お疲れではありませんか」


「馬車の中で書類を読んでいただけです」


少しだけ口元が緩んだ。笑みと呼ぶには小さい。けれど、確かに緩んでいた。


「中へどうぞ。茶を淹れます」


翠風堂の戸をくぐった。


竈の火はリーゼルが入れていてくれた。鍋の中の湯がちょうどよい温度に近づいている。


リーゼルが調合台の前に立っていた。帳簿を閉じて、背筋を伸ばした。


「宰相閣下、いらっしゃいませ」


「リーゼル殿。翠風堂は相変わらずよい香りですね」


リーゼルが少し照れたように頷いた。


ハインツは翠風堂の入口の脇に立った。護衛の定位置。中には入らず、外から工房の出入りを見守る形。


私は棚から薄荷と菩提樹の花を取り出し、急須に入れた。湯を注いだ。淡い緑色が広がり、薄荷の清涼な香りが工房に満ちた。


呼吸の茶。


杯を二つ。レナードの前と、自分の前に置いた。


レナードが杯を手に取り、口に含んだ。


「変わらない味です」


「配合は同じです。三年間かけて辿り着いた形ですから」


「それが一番いい」


リーゼルが棚の方で作業をしていた。気を遣って距離を取っているのか、本当に作業が忙しいのか。おそらく両方だった。


「リーゼル、あなたの新しい配合も淹れてください」


リーゼルが振り向いた。


「え、宰相閣下に?」


「ええ。翠風堂の商品です」


リーゼルは少し戸惑った後、乾燥棚からトウキの根とカミツレの花を取り出した。手つきは慣れていた。割合を量り、急須に入れ、六十度の湯を注ぐ。


琥珀色の茶がレナードの前に置かれた。


レナードが口に含んだ。少し間を置いた。


「よい茶です。温かさと穏やかさが同居している」


リーゼルの顔がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます」


リーゼルが奥の棚に戻った後、レナードが書類を鞄から取り出した。


二通。


一通は宰相府の公印が押された公文書。もう一通は封印のない私信の形式。


「管理所の設置計画です」


レナードが公文書を広げた。


「帝国各地に十二箇所の薬草管理所を設置します。最初の三箇所は帝都近郊と南部の主要都市。年内に残りの九箇所を順次設置。運営指針の策定が急務で、薬草顧問としての参考意見を正式に求めます」


「参考意見の提出は、帝都で行うのですか」


「宰相府で指針策定会議を開きます。法務官と担当官が出席。きみには参考人として出席してもらいたい」


管理所の話は、書簡で知らされていた通りだった。けれど、書類で見ると規模が違う。十二箇所。帝国全土を覆う管理体制。翠風堂の帳簿から始まった記録が、十二箇所の管理所の基準になろうとしている。


「もう一つ」


レナードが二通目を手に取った。


「婚約署名の日程です。三週間後。場所は皇帝の執務室。陛下が立ち会われます。法務官が立会人を務めます」


三週間後。


「署名の場には、きみは薬草顧問として出席する。婚約者としてだけではなく」


私の二つの立場。帝国公認辺境薬草顧問と、宰相の婚約者。その両方が、皇帝の面前で公的に並び立つ。


「管理所の参考意見提出も、署名と同じ時期に帝都で行えます。二つの公務を一度の出仕で」


制度で道を整えるレナードのやり方だった。


「公務と私事を同じ場所で話すことに、もう抵抗はありませんか」


レナードが静かに聞いた。


私は工房の中を見回した。竈の火。乾燥棚。調合台の上の二つの杯。公文書と私信が同じ机の上に並んでいる。


「この工房では、全部が一つです」


レナードが私を見た。少しだけ目を細めた。


「そうですね」


書類を片付けた。


茶が少し冷めていた。けれど、六十度を下回った呼吸の茶は、薄荷の香りがより穏やかになる。それも悪くない。


署名は三週間後。管理所の指針策定会議も同じ時期。帝都へ、三度目の道を行く。


けれど、今日ではない。


今日はまだ翠風堂にいる。今日の仕事をする。


「レナード」


「はい」


「明日、村長に報告に行きませんか。婚約のこと」


レナードが少し間を置いた。


「村長殿に」


「ええ。トーマス村長は、私がこの村に来た時からずっと見守ってくれた方です。帝都に行く前に、きちんと報告したい」


レナードが頷いた。


「もちろん」


窓の外で、午後の風が薬草畑を渡っていた。レナードの馬車が翠風堂の前に停まっている。ハインツが入口の脇で腕を組んでいる。


三週間後、帝都で署名する。その日が来る。


けれど、今日はまだここにいる。


竈に火を足した。リーゼルが乾燥棚のヤナギソウを確認している。レナードが杯の残りを飲み干した。


翠風堂の午後は、いつもと同じように過ぎていく。

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