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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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夜明けの Runaway

夜が、明けきる前だった。

聖者はほとんど眠っていない。


ただの湿った板である

寝台と呼ばれるものに

横になっても眠れず、

思考だけが起きていた。


――このまま村にいたら、まずい。


聖者の誘拐はたぶん重罪だ。

誰かに知られた瞬間、

事情や善意は関係なくなる。

村がどうなるか、

想像するのも嫌だった。


理由は十分だ。

迷う必要はない。


荷物はない。

外へ出ると、朝の空気が冷たく頬に当たる。


騎士が、少し後ろに立っている。


「……行く」


それだけ言って歩き出す。


振り返らない。


しばらくして、背後から声が落ちた。


「――お連れください」


低く、整った声。


流れるような動作で側にきて、膝をついた


「私は、聖者さまの意思に従います。

 意思に反する事はいたしません。

 ……同行の許可をお願いします」


命令でも、主張でもない。

選択を、預けてくる言い方。


「……このままだと、村が危ない」


独り言みたいに言う。


「神殿には戻らないし、

 ここが知られるのも嫌だ」


騎士は、何も挟まない。

ただ、静かに聞いている。


少し間があって、

聖者は言った。


「……買い物のとき」


言葉を探す。


「誰かに、連絡を取ったり

 ……したか?」


騎士は即座に首を振った。


「しておりません。

 あなたの意思にそぐわぬことは、一切」


誓いというより、事実の報告だった。


聖者は、騎士の目を見つめ短く息を吐く。


――村に残せば、

いずれ神殿へ戻る。


そうなれば、

追跡されるだけだ。


「……じゃあ、いい」


それ以上、確認しない。


歩き出す。

騎士は、半歩遅れてついてくる。


――同行を許可された。


騎士の胸に、静かな喜びが広がる。

それを顔には出さない。


村を離れ、道を進む。

周囲の景色が、ゆっくり変わっていく。


歩きながら、聖者は思う。


――そもそもなんで、

村人は俺が”聖者”だって

わかったんだ?


――やっぱスーツだよな?

見たことないデザインだし。


この世界にない色の髪と目。

美しい容貌。

広まっている聖者の伝承そのままの

呼び出された「男」。


知る由もない本人はぽつりと言う。


「……服、着替えたい」


「……承知しました」


騎士は一度、考えるように視線を落とした。


「食料を調達した街とは、

 別の街へ向かう方がよろしいかと」


聖者は、足を止める。騎士を振り返る。


「……それ、いいな」


即答だった。


「同じところに戻らない方がいい」


騎士は、わずかに頷く。


――喜んでいただけた。

そう感じてしまう自分に、少し驚く。



騎士は、聖者の後ろ姿をみながら


(なぜ守らなかった!)

と糾弾された時の事を思いだす。


自分たちが、

前を歩くこの美しい人に、

細い身体に、

どれだけの

重荷と負担を背負わせようとしたのか……


なぜ、自分はそれに思い至らなかったのか……


瀕する子らを前に、涙を湛えた瞳。

お力を与えたのに、何かに怯える様子。


思考停止で愚かな自分に激しい羞恥をおぼえる。


朝日が、道を照らす。

行き先は、決まっていない。


ただ、隣を歩くことだけは、決めている。


騎士は、静かに思った。

――絶対にお側にいる……。と


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