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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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願いよ、かなえ

湯桶を、またひとつ。

次、もうひとつ。

「……足りない。もっと」


ここに来るときに通った

枯れてちょろちょろとしか流れない

綺麗とはいえない川を思い出す。


言いながら、

自分でも何をしているのか

わからなくなっていた。


ひたすら湯を使い、

布を濡らし、子供の体を拭く。


額。

首。

脇。

背中。


皮膚か汚れかわからないぐらい

黒ずんだ箇所。


拭いても、拭いても

――熱は下がらない。


せめて汚れだけでも……。と


綺麗にすれば病気が治るわけではない

そんなことは百も承知だが


できることがこんなことしかない。


それでも、何も変わらない。


――この先、どうする。

どうしたらこの子達が……


考えようとした瞬間、

胸が詰まった。


どうしようもない現実が、

圧倒的に目の前に迫る。


息が乱れる。

視界が滲む。


やめろ、


と自分に言う。


今は泣く場面じゃない。

でも、止まらなかった。

涙が落ちる。

ぽたり、と。

子供の頬に、落ちた。

止まらない。


――やめろ。


そう思いながら、

手は止まらない。


治れ。

治れ。


声には出さない。

ただ、思う。


そのときだった。


子供の呼吸が、変わった。

浅かった息が、すっと深くなる。

胸の上下が、穏やかになる。


「……?」


額に触れる。


――熱、ない。


さっきまで火みたいだった熱が、

引いている。

顔色もよくなっている。


え?


治った?


今の、何?


慌てて、隣の子に向き直る。

同じように布で拭きながら、

強く念じる。


治れ。

治れ。


――変わらない。


呼吸は苦しそうなまま。


熱も、そのまま。

頭が追いつかない。


さっきとの違いは――

自分の頬に、残っていたものに気づく。


涙。


指で触り、子供の額にそっとつける。


治れ。


息が、整った。

熱が、引いた。


……は?


心臓が跳ねる。


……嘘だろ?


もう一度確かめようにも、

涙は出ないし出せそうにもない。


舌打ちしそうになって、

思いつく。


血は?


唇を噛み切る。

鋭い痛み。

鉄の味が、口に広がる。


指についた赤を、そっと子供の額へ。


治れ。


――っっ治った!。


全身の血が、逆流する。


まさか――。

いや、でも。


湯桶を見る。

水面に、一滴。

血を落とす。


それで布を濡らし、拭く。


――治った……。



瞬間、背筋が凍った。


これは――っ!。


慌てて立ち上がり、

湯桶をもって、外へ飛び出す。

汚れた水がちょろちょろと流れる川に、

湯桶の中身を流しながら

手を浸し、強く思う。


きれいになれ。


水が、澄む。

つけた自分の手が、きれいに見える。


その場に、座り込んだ。


……ああ。


これは――。

手元に置きたがるはずだわ。


さっき噛み切った唇に、

血の味が残っている。

映画マッドマックスでみた

生きたまま輸血袋奴隷を思い出す。


――これは、祈りじゃない。


急いで部屋へ戻る。

中では、湯桶を持ってきた貧民が

床に崩れ落ちていた。


額を床に擦りつけ、声を震わせている。


「……聖者様……

 ありがとうございます……」


見回す。


起き上がった子供たちが、

こちらを見ている。

さっきまで死にかけていた顔じゃない。


彼らも、真似をする。

床に頭をつけて。


「……せいじゃさま……」


その光景を前に、聖者は立ち尽くす。

胸の奥が、冷える。


――だめだ。


これは、知られちゃいけない。

知られたら、終わる。


奇跡じゃない。

祝福でもない。


これは、管理される。

聖者は、拳を握りしめた。


次に何をするかは、まだわからない。

ただ一つだけ、はっきりしていた。


この力は、奪われる。

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