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聖者ですが、拉致監禁されたのでキレています  ――拒まれても、騎士は守ることをやめられない  作者: テレス


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想い 重い 思い

聖者が、自分に視線をあてたまま

返事がない事に、アルヴィスは決意を固め

ヴァンに向き直った。


「……エル=ハルト卿」


アルヴィスは懐から短剣を取り出す。


「口約束だけで聖者様のお側にあがろうなどと

 思ってはおりません。

 ……隷属の契約を結んでいただきたい」


ヴァンは即座に意図を理解し頷く。


アルヴィスは短剣で自らの指を切り、

空中に、血で魔法陣を描き始める。


「一、聖者様の同意なしに誰にも触れさせないこと」

「二、儀式終了後、必ず聖者様が望むこちらへ連れ帰ること」

「三、それを阻むもの、聖者様の意思に背くもの

   全ての敵を排し聖者様の盾となり剣となること」



「代償は死とする」


「いやちょっと待ってって!重いって!」


ケイはドン引きしていた。


「たかだか1日しか一緒にいなかった俺に、

 そこまでする?

 命かけるとか……無理。

 引くんだけど」


「どうか、お気になさらないでください」


アルヴィスは、どこか恍惚とした表情で微笑んだ。


「これは私の自己満足です。

 貴方様の憂いを僅かながらでも払う材料になればと

 私が勝手にやっていることですので」


ヴァンはため息をつき頷いた。


「……いいだろう」

「ケイの望み叶え、こちらに戻った際は契約解除となる」

 これを追加したら受けよう。」


「ヴァンっ‼」


ケイはこのおかしな行動を止めようと、

空中に浮いた血文字に触れようとするが、

ヴァンの片腕で軽く押さえられる。


ぶつぶつ何かを言いながら手のひらに魔法陣を吸い込み

ケイから手を離し、ナイフで手のひらを切り付け、

血が重なったその魔法陣を騎士の胸にあてる。


ドクン。大きな拍動音。

命の鍵を、他人に明け渡す音。


唖然とした顔で、2人を見て、

ケイは直後に大爆発する。


「バカじゃないの?!勝手に人に命かけんなよ!」


「やるとしたら俺だろ!

 なんでヴァン相手なんだよ!」


「気にするに決まってるだろ!

 何でも魔法で勝手にするなよ!」


真っ赤になって怒り出すケイに、

ヴァンは悪びれる様子もなく


「簡単な契約だよ。

 お前を連れて戻れば何も起きないんだから」


と話しにならない。


いつもなら絶対に取らない、頭越しの態度に、

あんなに気が利いて

優しいヴァンのあまりの横暴に

ケイは怒りが不安にかわる。


慌ててヴァンの手を引き屋敷に戻り、

青ざめた顔でイリアスの前に連れていく。


「イリアス!ヴァンがおかしい!

 何かされたかも!みて!」


イリアスは本から顔をあげ、笑って言う。


「おかしくないよ。原因はケイだから」


「俺?」


「黙って出ていこうとした?

 確かに俺は出会って1日だから

 信用はないだろうけど、

 ヴァンはどうかなー?


 突然いなくなった君をヴァンは

 絶対心配すると思わない?」


ケイは絶句する。


掴んだままのヴァンの手をそのままに、

振りかえって何も言えなくなる。


「……っ」

「ごめん。でも……」


ケイは息を吸い込み意を決して告げる。


「絶対に3人を巻き込みたくない。

 神殿にばれたくないんだ!

 信用してない訳じゃないけど、

 個人で国の組織と争うなんて

 そんな事させられない!」


「イリアスは美人だし、ディルなんて子供だ!

 どんな目にあわされるか

 わかったもんじゃないのに!

 絶対に巻き込みたくない!」


「ヴァンだってだよ!

 騎士にだって見せたくなかったのに……」


「3人に俺のせいで何かあったらって

 考えるだけで耐えられない……

 自分が死ぬより嫌なんだ……」


顔を真っ赤にし、目を潤ませて訴えるケイが

最後は小さくうつむくと

ヴァンは息をつき

心底申し訳なさそうな顔で降参する。


「さっきは悪かった……。

 でも途中から放り投げるはずないだろ。

 そこはわかってくれ」


「イリアスだってそうだ、

 その気がないならここに入れない。

 ケイを放り出してこの先俺たちが心配せずに、

 俺らは安心だーって思うと思うのか?」


うつむいたケイを抱き寄せると、

押し殺した声が漏れ、

ぽたぽたと水滴が落ちる。



ヴァンは魔法でケイに対して

何かを規制をすることはなかったので

ケイにその認識はないが、

イリアスの結界を許可なく出る事はできず

実際にはそっと出ていくなど不可能なのだ。


だが、昨日の思いつめた表情で察した皆は

荷馬車で抜け出そうと奮闘するケイに

少しだけ意趣返しに、

と驚かせるだけのつもりだったが…


ヴァンのシャツを握りしめて、

肩を震わせる背中をさすりながら

トントンと叩いていると

やがて、膝から力が抜け眠りに落ちる。


抱きとめたヴァンはため息をつきながら

やりすぎたな……

と3人で顔を見合わせケイをソファに移動させる。


3人は自身の本来の強さと

ケイの置かれた状態から、


『ケイが自分達を守る』


という発想を全く持っていなかった。


侮っていたわけではないが、

強制的に連れてこられた見知らぬ土地で、

頼りもなく、

まして弱っているケイに対して

当然とは思うが、

庇護する意識しかなかったことに

驕った鼻っ柱をたたき折られた気まずさと

純粋な思いやりに各々反省する。



置いてきた騎士のもとへ向かい、

ケイが休んでいるので、

出発は準備出来次第になること。

外の連中にもその旨を伝え、

ケイが嫌がらない状態で待つよう告げる。


ケイが休んでいる。と聞いた騎士アルヴィスは

お身体は無事なのですか?と即座に返し、

その様子に少しだけ報われた思いになり、

怒りすぎて一時的に体力が減っただけで

問題はないと正直に答える。


一端が自分にもあると青ざめたアルヴィスに

ケイが使う荷馬車の魔法部屋の使い方を一通り説明し、

さらに追跡のアルヴィスに魔法をかけ、

いつでも追える状態にする。


これ以上ケイの心痛をふやしたくないヴァンは

聖騎士団の前に顔は出さないから「頼んだぞ」と告げ、

息をのみ「必ずや」と畏まろうとしたアルヴィスを軽く流し、

大量の食料や飲み物ごと結界外に放り出す。


少しでも早く戻ってケイに治癒しないと……。

あんなに泣かせるつもりはなかったのにと

深いため息をこぼす。



ディルは深く息をついて、

この姿、効果的過ぎましたかね?

元の姿で驚かせるよりはと思ったんですけど……。

とケイに毛布をかけながらぽつりと漏らす。

幼子の獣人の姿から生えた大きな耳は

ペタンと垂れ下がっている。


イリアスは手をかざし、

何度目かの探索をするが、

やはりケイの体は不安定すぎて、

魔力を流すどころか

魔法で治療するのも難しい状態だ。


治癒しかケイに使ってないのは

そのせいもあるだろう。


この状態でヴァンの側から離れ治癒を切るなど、

不安でしかないが、あの様子だと

同行など絶対に同意しないだろう。


このままここにいるのも

ケイにとっては苦痛なんだろう。


気まずい顔で、泣きはらしたケイを見ながら、

有無を言わさず

乗り込んだ方がよかったのか…とこぼす。


この優しさに

この先つけ込まれる事がないように、

儀式後は待つのではなく奪還すべきかもしれない。

神殿に身元がわからない方法で……。


いっそ全処分でいいのでは?

と投げやりに思うが、

先ほどの思いつめた姿を思い出し

ケイが傷つかない方法を模索する。



結界の外にでたアルヴィスは、

膝をついたまま待機していた聖騎士団に、

聖者様が神殿で儀式を受けてくれる事、

その同行を許されたと告げる。


歓喜と安堵に包まれ、聖者様……と

つぶやき涙する情景は自分の心情そのもので、

その姿を厭われていることに胸が痛む。


聖者様が体調を整えられ

準備を終え出てくるまで待機せよと

心遣いをいただいた 

と、重ねればさらに崇拝は深くなるだろう。


だが、エル=ハルト卿の事を伝える訳にはいかない。

あの方は卿を心配していたのだから。


『ヴァン』


とあの卿を親し気に呼び捨て、

手に触れていた事を思い出す。


アルヴィスの腹の底で、

ドス黒い嫉妬の炎が燃え上がった。


『ケイ』


自分は教えてもらえず、

その名を口にするお許しをいただけていない。

あの方の御名。


ギリギリと奥歯が鳴る。


だが、同時に理解もしていた。

卿がいたからこそ、あの方は生きている。

自分ではできなかった

「聖者の心と身体の保護」を、

あの男は完璧にこなしているのだ。


その手腕への敬意と、敗北感。

とりなしに対する感謝と、聖者への執着。  

感情がぐちゃぐちゃに混ざり合う。


だが初めてほんの少し側に寄る事を許された。

命をチップにして、

初めて「役立つ駒」として認められたのだ。


アルヴィスは聖者に拒否されたあの時のように

二度としくじらない様

自分を戒め、感情を抑えた。


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